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真鍋氏のノーベル物理学受賞と町村への期待

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年11月15日

早稲田大学名誉教授 宮口 侗廸(第3180号 令和3年11月15日)

2021年のノーベル物理学賞の一人に、大気中の二酸化炭素の増加が地球の温暖化を招くことを初めて実証したアメリカ在住の真鍋叔郎氏が選ばれた。気候研究にかかわる分野の物理学賞受賞は、極めて異例である。そしてこのことは、地球温暖化の進行に対する、最も権威ある科学の胴元の発した世界に対する警鐘と受けとめられている。

温暖化の進行の中、世界各地で繰り返される気象災害の激しさは、従来の想像をはるかに超えるものになった。それに対して家電の省エネ化、EV、水素自動車など、企業努力による技術革新も進行中である。しかし本筋は、やはり遠くから運んできたエネルギーを大量に消費しない暮らしの追求であろう。身近な土地に身近な資源を持つ地域が、それを高度に組み合わせる暮らし方を何とかつくっていくことの価値を改めて考えるべきであり、過疎的な地域を多く抱える町村こそ、その担い手としてふさわしいはずである。

筆者の住む富山県には、明治に農業用水でつくられた発電所を始め、傾斜のある扇状地の豊富な農業用水による小水力発電施設が数多くあり、これらの施設は穏やかに農村風景に溶け込んできた。いま日本のみならず東南アジアでも小水力発電を見直そうという動きが高まっており、この10月には富山で全国小水力発電大会が開催されている。小さなエネルギー開発の集積をゆるぎなく追求し続けなければならない時代になったのである。

真鍋氏の記者会見では、「自分は協調性がないので人のことを気にかけなくてもいいアメリカで研究に励んだ」という意味の発言があった。突出しようとする人は田舎で協調できずに都会に向かうという話は昔からある。しかし一方で、少し前までこの国の大多数が中流意識を持って歩んでくることができた基盤は、やはり協調性にあり、これは世界に例のない日本のお宝であると思う。地方社会の強い協調性は、かつて異質の存在を排除するきらいがあった。しかし素朴に土地と資源と協調性に頼る生活が壊れてきたのが過疎化という現象である。地球温暖化待ったなしの時代に、協調性という基盤の上に異質の人の力をも活用し、時代が求める暮らしを地域でつくっていくことこそが、過疎を克服する先進的な地方社会の創造への王道であろうと改めて考えたい。