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地域に響く子どもの声

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年11月1日

作新学院大学名誉教授・とちぎ協働デザインリーグ会員 橋立 達夫(第3179号 令和3年11月1日)

最近、近所の公園で、子どもたちが遊ぶ姿をよく見かける。以前は防犯上の理由から、親が子どもを外で遊ばせることを躊躇する風潮があった。公園は閑散としていて、たまに親や祖父母に連れられた幼児が遊んでいる程度だった。しかし、コロナ禍の下での時短授業や親の在宅勤務などの影響で、子どもは家の中にいるよりも外で遊べという意識がよみがえってきたように思う。子どもたちも学校で友達に会う時間が減ったために、約束をして外で遊ぶようになったという。こうして小学生から中学生まで友達同士、公園で遊んでいる。地域に子どもたちの声が響くのは、うれしいものである。

この20年間で、全国の公立小学校は約2割に当たる4、800校も減少している。確かにその間、児童数も2割近く減少しているのであるが、学校統廃合が盛んに行われ、とくに平成の大合併の後はその傾向が強まった。地域の学校がなくなるということは、その地域での子育てをあきらめるということにつながる。また地域の人々にとっては昼間に子どもの声が聞こえないことになる。

このような“子どもロス”の状況を緩和するための対策はさまざまに考えられているが、最近、次のような事例に出会った。

平成17年に栃木県佐野市と合併した田沼町の小学校6校と中学校1校が、合併後15年を経た令和2年、新設の「あそ野学園義務教育学校」という小中一貫の学校に統合された。この学校には年1回の「地域の日」がある。「子どもたちを地域に返す」という学校行事で、その日は、子どもたちがそれぞれの地元の集落に帰り、地域の運動会や祭りなどに参加する。また総合的学習の時間「きらりあそ野科」では、地域の歴史や文化などについて「地域教育コーディネーター」が準備した授業を受ける機会もある。遠足も旧町内を歩くことが多い。これらの地域密着型教育の試みは、開校準備委員会における地域代表との協議の中から生まれ、学校の教育理念の一つになっている。学校の統廃合を行う場合でも、じっくりと時間をかけ、地元の人々の意見に耳を傾け思いを共有することで、教育が地に根を下ろすことになる。