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集落から人口減少を考える

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年7月26日更新

法政大学名誉教授 岡﨑 昌之(第3167号 令和3年7月26日)

第二期の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」も今年で2年目に入る。稼ぐ地域づくり、地方への人の流れ、結婚・出産・子育て支援、魅力的な地域環境確保を基本目標として内閣府は挙げている。ただ都道府県や市町村では、新戦略スタート直後の新型ウイルス・パンデミックで、種々の見直しを余儀なくされている。

いくつかの地方創生戦略の策定に関わってきて、戦略の前提としての人口ビジョンの策定について物足りなさを感じてきた。創生法では「総合戦略の案を作成するに当たっては、人口の現状及び将来の見通しを踏まえ」(第八条)と明記してあるので、全ての総合戦略が2060年までの将来人口推計を示している。地域戦略や計画において、人口動向を想定することは重要かつ不可欠だ。

だがこうした人口ビジョンについて、住民が関心を持つだろうか。都道府県レベルの人口はもとより市町村単位でも、40年先の2060年までの人口減少動向に、住民が関心や危機感を持つことは稀だろう。住民に共有されない戦略や計画は、机上の空論、画餅に帰すことになり易い。しかし離島や山村、過疎地域の町村にとって、人口減少は集落消滅にもつながる最大の危機であり、国土管理上の非常事態でもある。

秋田県旧阿仁町の根子集落はマタギ文化や伝統芸能の番楽を受け継ぐ集落だ。住民からの誘いで集落再生を考える集まりに参加したが、集会所に集まった住民は数名で、人口減少、集落消滅も仕方なしといった諦めムードだった。しかし数度目の集まりで、大きく拡大した集落の地図を畳の上に広げ、みんなで取り囲んだ。集落の住居配置も一目瞭然で、各戸の現状が話題になった。「あの家はお年寄り一人」「ここの息子は仙台に出ている」等など。数十年ともに暮らしてきた集落の人たちが、地図を前に厳しい現状を把握できた。「このままだと10年後には根子の人口は半分になる」と強い危機感が芽生えた。

人口減少が常識化していいのか。何百年と続いた集落が消滅していいのか。集落や地域社会といった小さな単位から戦略を積み上げ、そこを基点に地域全体を考え、人的連携を紡ぎあげていく、そうした地道な取組が必要だ。新過疎法でも人材の確保、育成が喫緊の課題として提起された。