ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > コラム・論説 > プランの構想と振り返り

プランの構想と振り返り

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年5月10日

福島大学教授 生源寺 眞一(第3158号 令和3年5月10日)

ごく短時間に圧縮されていたが、入学式を行うことができた。新入生にとって、同級の仲間と顔を合わせることが何より大切だ。よかったと思う。そんな若者に対して祝意とともに歓迎の挨拶を述べる。これが食農学類長としての務めである。今年は、充実した学生生活を送るために必要なのは、自分なりのプランを構想してみることだと申し上げた。それも日単位や週単位だけでなく、1学期あるいは1年といった中長期のプランを考えてみようと呼びかけた。

さらに付け加えた。月日の経過した時点で、プランを振り返ってみる。おそらく計画通りに進まなかった面もあるだろう。見通しが甘かったことで、練り直しを余儀なくされる場合もあるに違いない。逆に十分に余裕があって、一段高い水準のプランに転換することもあるはずだ。まさに日々育ちゆく若者にとって、プランの構想と見直しは自身の成長の軌跡でもある。

新入生を前に事前に想定していたとおりに話を進めたのだが、準備の段階では関連した別の話題も頭に浮かんでいた。それは「農業・農村全体の所得を今後10年間で倍増」という目標である。「農林水産業・地域の活力創造プラン」が掲げているから、政府のプランだと言ってよい。農業・農村に深く関わる食農学類では、新入生も興味を持つかもしれない。けれども、若者にプランの構想と振り返りの大切さを強調する話とは、うまくつながりそうもない。「農業・農村全体の所得」という表現は漠然としているし、10年で倍増も大風呂敷以外の何物でもない。これではまともなプランとは言えない。活力創造プランの決定は2013年だったから、すでに7年が経過したが、振り返って実績を検証するといった話は聞こえてこない。

こんなプランではだめですよ。反面教師として紹介することも考えられないではない。しかしながら、祝意を伝える場にはふさわしくない。話すことはやめた。けれども、農政の講義の話題としては取り上げてみよう。農業・農村の現場との距離感を伝えることになるだろう。