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新過疎法の成立-人材育成を強調-

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年4月19日

早稲田大学名誉教授 宮口 侗廸(第3157号 令和3年4月19日)

年度末も押し迫った3月26日、新しい過疎法が、衆議院に続き参議院でも全会一致で可決成立した。過疎法は1970年に初めて制定されて以来、議員立法でたびたびの改正と延長を繰り返してきたが、今回新しい法律の名称は「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」とされた。筆者が座長を務めてきた総務省の過疎問題懇談会は、旧過疎法の失効に向けて新しい過疎法の必要性とその理念、目的等について3年余り議論を重ね、昨年の4月に新たな過疎対策に向けての提言を公表した。法案はその後自民党の過疎対策特別委員会を中心に検討され、各党の議を経たものであるが、その名称及び理念が懇談会の提言をかなり反映したものになっていることは喜ばしい。

新法の前文には、食料・水・エネルギーの安定供給、生物多様性の確保、多様な文化の継承などの過疎地域の機能が発揮されることが国民の生活に豊かさと潤いを与え、人口の過度の集中による大規模災害や感染症等の危険の中で、過疎地域の役割は一層重要になっているという意味の記述があるが、過疎地域の持つ都市とは異なる価値が明記されたことの意義は極めて大きい。

筆者はこの20年余り、過疎地域は単に困っているから支援するという地域というだけではなく、その都市にない価値を育てることが、国全体の価値を高めると言い続けてきた。そしてその価値を持続しさらに発展させるのは人であり、それ故に人材育成は最も重要な課題の一つであると考えるが、新法の第一条の法律の目的の冒頭に、「人材の確保及び育成」が掲げられているし、さらに第四条の対策の目標の一号には、移住・定住・地域間交流の促進や地域社会の担い手となる人材の育成を図ることがしっかりと記されている。

過疎法はもともと都市部に対する生活基盤の格差是正のためのハード事業が目的であり、それなりに大きな成果を挙げてきた。その必要性はまだ存在するものの、都市にない価値をさらに育て発展させるためには、地域の人が力をつけるか力ある人に参入してもらうしかない。人材育成にはソフト事業が必須であるが、平成22年の改正でソフト事業への過疎債充当の条文が追加され、これはほぼそのまま新法に受け継がれた。地域にふさわしい産業の育成のみならず、暮らしの場としての地域社会の価値づくりにも人材は不可欠である。未来は人がつくる。新しい過疎法がこのような理念のもとにつくられたことを心から喜びたい。