ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > コラム・論説 > 成年後見制度と町村長申立ての推進

成年後見制度と町村長申立ての推進

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年3月22日

東京大学名誉教授 大森 彌(第3153号 令和3年3月22日)

地域社会には認知症や知的障害などで判断能力が十分でなく、医療・介護サービスの契約や預貯金などの財産管理に困難を抱えている人々がいます。特に身寄りのない独居の認知症高齢者をどう支えるかは切実な地域課題と言えます。

市町村の社会福祉協議会は日常生活自立支援事業を行っており、通帳などを預かり、日常的な金銭管理の代行や福祉サービスの利用援助をしています。ただし、この事業は、本人が、社協との契約内容を判断しうる能力を有していることが前提になっています。契約行為が困難な場合は、本人のために本人に代わって行動する人が必要になります。その要請に応えるのが成年後見制度です。

成年後見制度は2000年に介護保険制度と同時に開始されました。家庭裁判所の裁判官が、本人、配偶者、4親等以内の親族、市町村長からの申立て(後見審判請求)を受け、本人の判断能力の程度に応じて、後見人、保佐人、補助人を決め、その後見人等が財産管理や身上保護の活動を行っています。

市町村では、地域包括支援センターが、高齢者の権利を守る事業として認知症などにより判断力が衰えた場合の心配ごとや悩みの相談に応じ、将来、認知症などにより判断力が衰えた場合に備えて、あらかじめ後見人を決めておく任意後見制度の案内や成年後見制度の利用が必要な場合の申し立て支援を行っています。

国は、成年後見制度のより一層の普及をはかるため、平成28年4月に「成年後見制度利用促進法」を公布し、それに基づき「基本計画」(平成29年3月閣議決定)を策定し、「全国どの地域においても必要な人が成年後見制度を利用できるよう、各地域において、権利擁護支援の地域連携ネットワークの構築を図る」ことを施策目標として掲げています。現在は「専門家会議」を設置して、さらなる利用促進方策を検討しています。

令和2年の認知症の人の数(推計)は約600万人であるのに対し、後見審判申立ての総数は約3万6千件で、かなり少ないのです。このうち老人福祉法などの規定に基づく市町村長申立ては増加傾向にあるのですが、人口の小規模なところほどその実施率が低いのが現状です。特に人口1万未満の市町村(620)では申立て未実施が約7割となっています。未実施の町村では、まず、後見等を必要としている高齢者がどこにいるかを把握し、町村長申立てを行うための要綱の策定から始めてはどうでしょうか。判断力にリスクをかかえている住民にとって、なんといっても頼りになるのは最も身近な自治体ですから。​