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農業界から有能な女性を逃がさないために

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年3月8日

農業ジャーナリスト・明治大学客員教授 榊田 みどり(第3151号 令和3年3月8日)

昨年12月、農水省「女性の農業における活躍推進に向けた検討会」の報告書が公表された。農村女性の位置づけや環境整備に関する検討会の開催は、実に28年ぶりだ。

5ヶ月間、同検討会の座長を務めて痛感したことがある。この約30年間で、農業界は直販や六次産業化、法人化の進展もあり、脚光を浴びる女性は増えた。しかし一方、農家人口の中で女性比率は低下している。

女性の高学歴化や就業率向上もあり、「農家と結婚=就農」という昔のパターンが崩れ、農家と結婚した女性が農外の仕事を選択できる時代になったことも大きく、それは男女共同参画の視点では喜ばしい。

ただし、職業選択の幅が増えた中で、女性が農業を選ばない現実をどう見るか。農外の仕事環境のほうが魅力的ということではないか。検討会では「女性が農業から逃げている」という指摘もあった。

実際、検討会で現場の女性たちの話を聞くと、本気で経営パートナーとして女性を認めていないケースも多く、地域に埋もれている有能な女性も少なからずいる現実が見えてきた。行政も女性の経営参画に十分な配慮が行き届いていない。これは農業界にも地域にも、もったいないことだ。

女性のポテンシャルが上がる中、農業界はそんな彼女たちを「見つけ」「位置づけ」「つなぐ」環境整備が必要ではないか。今回の検討会では、そこが大きなテーマになった。

たとえば行政でも、経営研修などの通知の多くは、経営主だけにしか送付しない。その結果、研修には義父か夫が出席し、女性は当たり前のように留守番に回る。「親子・夫婦それぞれ個人名で通知文書が来るだけでも出席しやすくなるのに」という現場の女性の本音と立場に気づいている自治体はどれくらいあるだろうか。

男性ばかり集まっている場所に女性は入りにくいが、女性が集まる所には男性も集まるのが常との声もある。コロナ禍で農村への関心が高まる今だからこそ、女性たちが「あの農村いいね!」と話題にするような風通しのいい地域、農業を軸に彼女たちの自己実現を支援してくれる魅力的な地域づくりは、案外大きな意味を持つと私は思う。