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前進する高校魅力化

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年10月19日

明治大学農学部教授 小田切 徳美(第3137号 令和2年10月19日​

過疎地域や離島において、地域資源を活かしたカリキュラムを導入し、地域課題解決型学習に取り組む、いわゆる「高校魅力化」の動きが前進している。

それを先導したのは10年以上前から始まった島根県海士町の隠岐島前高校の実践であることはよく知られている。その後、島根県の他地域に拡がり、さらに、2019年度からは文部科学省のモデル事業として全国的に取り組まれた。今後は新しい学科として設置もできるようになる。

その教育効果について、島根県の「魅力化高校」を対象とした意識調査(MURC政策研究レポート「『魅力ある高校づくり(高校魅力化)』をいかに評価するか」、2019年)によれば、在校生はいくつかの点で全国の高校生平均と比べ、強い思いを持つという。(1)「難しいことでも、失敗を恐れないで挑戦している」、(2)「将来、自分の住んでいる地域のために役に立ちたいという気持ちがある」、(3)「先生、保護者以外に、地域に気軽に話せる大人がいる」である。(1)は挑戦する力の充実を示しており、(2)は地域に貢献しようとする力、そして(3)は地域でのネットワーク力に相当する。こうした意志を持つことは、地域で活躍する人材として特に重要であり、魅力化の効果が教育面で確認される。

また、地域経営上の検証も、複数の研究論文等で行われており、人口流出の抑制や雇用創出、そして地方財政上の効果が実証されている。つまり、高校魅力化は教育面と地域経営面の双方における成果を生んでいる。

さらに、これまでの実践の蓄積は、推進上の勘所も明らかにしている。それは、高校と地域の両者におけるコーディネーターの重要性である。高校サイドでは、地域に開かれたカリキュラムの作成や関係する教員の研修などを行い、そして地域サイドでは高校生が接するべき地域資源を掘り起こし、学校とそれを繋ぐことが期待される。

このように、関係者の努力により、高校魅力化は、その意義や運用上のポイントが十分に明確化されている。今後、政府による、コーディネーターの人件費支援などが進めば、残るのは、各校、各地における、実践への踏みだしのみであろう。

しかし、気がかりなのは、このような可能性があるにもかかわらず、公立高校の統廃合が依然として進んでいることである。少子化のなかで当然だという議論もあるが、そういう主張者も含めて、次の事実は認識すべきであろう。文部科学省の調査によれば、全国の1、741市区町村のうち、公立高校が立地しないのは480市町村、つまり28%にも達している。特に、鳥取県、長野県では50%を超えている。

まずは、地域に高校を残すこと。高校魅力化は、そこから始める必要がある。