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近未来の農村社会に向けて

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年8月24日

福島大学教授 生源寺 眞一(第3130号 令和2年8月24日)

5月にスタートした農村政策をめぐる有識者会議の議論が本格化している。会議の正式名称は「新しい農村政策の在り方に関する検討会」。農林水産省に設置された「農村政策・土地利用の在り方プロジェクト」のもとに置かれている。このプロジェクトを始めることは、3月に決定された食料・農業・農村基本計画に謳われていた。今回の基本計画の新機軸のひとつだと言ってよい。

農村政策について基本計画は三つの柱を掲げた。すなわち「地域資源を活用した所得と雇用機会の確保」と「人が住み続けるための条件整備」であり、さらに人材づくりや魅力の発信を意味する「新たな動きや活力の創出」であった。農村政策の柱と紹介したが、課題の多くは中山間地域で顕著であることから、中山間地域政策の新機軸と表現してもよいだろう。また、同じプロジェクトのもとで、もうひとつの有識者会議「長期的な土地利用の在り方に関する検討会」の議論が進んでいる。こちらも荒廃農地を強く意識している点で、中山間との結びつきが強い。

中山間地域政策を振り返ると、直接支払制度の導入が出発点だった。2000年のことだから、20年が経過している。直接支払はEUの条件不利地域政策の理念に学びつつ、集落がベースの日本農業の特性を踏まえた仕組みとして設計された。基本は平地農業との生産性格差の補填であり、その目的は農地を守る点にあった。国民の支持も得られている。けれども反面、地域の農業生産や農家経済、さらにはコミュニティの将来像を具体的・長期的に構想し、実現に向けて取り組むという発想は弱かったのではないか。政策にも多少関与した者としての自戒も含めて、これが率直な印象である。

守ることを目的とする限り、新しいアイデアは出にくい。今回の農村政策検討のプロセスには、そんな状態から脱却する熱意が感じられる。同時に農村社会には、新たな発想のもとでこそ、守ることができる要素もあるように思う。