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コロナ禍が農産物流通に問いかけたこと

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年6月1日

農業ジャーナリスト・明治大学客員教授 榊田 みどり(第3121号 令和2年6月1日)

新型コロナ禍による農産物流通の激変を実感している。インバウンド需要に支えられていた牛肉などの高級食材や冠婚葬祭需要の多い花き、さらに業務需要を主要販路にしてきた農業者は軒並み大打撃だ。いざとなれば禁輸措置や人の移動制限を含め国境の壁が急に浮上するグローバリズムの脆弱さも今回は浮き彫りになった。

一方、家庭内消費の増加でスーパーや生協の売上げは想定外の伸び率。私が加入している産直宅配型生協も、「契約数量を超える受注」で農産物の欠品が相次ぐ。

この混乱の中で、改めて感じるのは「地縁」と「知縁」の強さ、そして「縁」をつなぐツールとしてのSNSの想像以上の存在感だ。

山形県の知人農家も業務需要向けの特別栽培米約4、000kgの契約を急にキャンセルされた。「5キロでも購入を」とフェイスブックでSOSが届いたが、驚いたことに、わずか1週間で、想定をはるかに超える支援の注文が押し寄せたという。

熊本県でネット販売に力を入れてきた若手の花き生産者も「ネット販売をやっていて助かった」と話す。若手農家有志で運営する多品目のショッピングサイトも、3月は昨年同期の10倍の売上げだという。

自粛中でも国内人口が減ったわけではなく、家庭内需要にアクセスすれば売れる。Snsパワー恐るべしだが、上記の2人は、いずれも今まで年月をかけて「知縁(価値観を共有する消費者とのつながり)」を紡いできたからこそSnsが機能したことは強調しておきたい。

家庭内需要へのアクセスを地元農産物直売所に求める動きもある。「猫も杓子も大消費地の時代じゃない。農村も混住化で、気づけば消費者が増えている」と、底堅いローカル需要を取り込む重要性を指摘する農業者の言葉を改めて思い出した。

今後、リモートワークの普及などで新たな生活スタイルが広がれば、従来の消費構造や流通も変わる。

不確実性の増す時代。「攻め」だけでは足元を救われる。地縁や知縁という価値の底堅さもコロナ渦は再認識させてくれたと感じている。これは農産物に限った話ではない。