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元町マルシェにみなぎる田舎の力

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年3月30日更新

法政大学名誉教授 岡崎 昌之(第3114号 令和2年3月30日)

神戸の元町商店街は東西に1・2km、神戸を代表する商店街だ。東の元町1丁目辺りは沢山の観光客で賑わっているが、西に行くほど寂しさが増す。ところが最近、西の元町5丁目辺りが少し息を吹き返している。一石を投じたのが元町マルシェだ。県内の中山間地域、28ヵ所の小規模集落から、農産物や加工品を生産者から直接集荷し、元町マルシェで販売する。

地域の元気を都市へアピールする県の事業の一環だ。野菜、生花、淡路島の海産物等、35㎡の小さな売り場に、品物も買い物客も溢れんばかりだ。ここが引き金となり、周りに八百屋や魚屋などが新規開店し、近隣マンション居住者には格好の買い物の場となっている。県内の小集落では、生産物は自家消費と知合いへのおすそ分けで、ほぼ出荷されず、大阪や神戸に出ていった子供たちに送っても、食べきれず喜んでもらえない。何とか、生産したものを都市へ届け、少しでも地域の元気に繋がればという思いだ。

元町マルシェに品物を提供する県西部の佐用町江川地区を訪ねた。日曜日の朝、20名ほどの生産者が様々な農作物、花卉、加工品を持ち寄り、マルシェの販売スタッフから助言を得ながら値付けをし、手際よく出荷作業をしている。お年寄りが目立つが元気だ。箱詰めし、保冷車に積込み、100km離れた神戸へ運ぶ。もう3年程になるが、売り上げを貯めて新車を買った、家を改修した、孫と旅行に行った、この頃は花も葉っぱもお金に見えるなど、お年寄りから明るい笑いと声が聞けた。神戸の人はどんなものを買うのかと、江川の人たちも時々、マルシェを見に行くそうだ。そのついでにマルシェファンのシェフの店で食事をし、シェフから珍しい野菜を紹介され、作ったこともない野菜づくりに挑戦もしている。

元町マルシェの家賃や人件費を考えると、独立したビジネスとして成立させることは難しい。しかし都市と農山漁村が対立するのでなく、互いの良さを認め、互いに利する仕組みは大切だ。生態学には、異なる生物が互いに利益を得て同じ所に生活する「相利共生」という言葉もあるそうだ。