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“省庁分散型農政”と地域農政

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年1月27日

農業ジャーナリスト・明治大学客員教授 榊田 みどり(第3107号 令和2年1月27日)

昨年12月、全国市町村国際文化研修所の農業研修で、演習の講師を務めた。

市町村職員31名が、「六次産業化」「中山間地農業の維持発展」「地域資源を活用した地域活性化策」「関係人口・移住人口を呼び込む仕組みづくり」など、それぞれ希望するテーマに分かれてグループ討議・発表するという演習だ。議論の深掘りには到底時間が足りなかったが、他の自治体職員と議論することで、それぞれに何らかの気づきがあったようだ。

私自身も強く印象に残ったことがある。農業が基幹産業のある自治体職員がこう感想を漏らしたのだ。

「考えてみれば、うちの町では各課がすでに取り組んでいることが多い。ただ、それぞれが課せられた施策をこなしているだけで全体像が見えていないんじゃないか」

空き家バンクや移住促進は総務課、農産物と加工・飲食業・観光を結び付けるのは商工観光課、就農支援は農林課…と仕事が配分されるのは仕方ないし、真面目な職員ほどノルマ達成に頑張る。しかし、そのノルマが町村の総体的なビジョンの中のどんなスペックなのか考える余裕がない。結果、細分されたノルマそのものだけが目的化し、施策の本来の目的が置き去りになってしまう。

これは自治体行政の縦割りだけでなく、たぶん、国の農政にも一因がある。近年の農業農村施策は、農水省から総務省、内閣府地方創生本部、国土交通省まで分散化した観がある。ちなみに、今回の研修には、就農支援をテーマに鳥取県日南町の事例発表もあり、その中で紹介された「地域おこし協力隊」からの就農ルートは、多くの受講者が初耳で、「ぜひやりたい」と言っていた。これも根は同じで、総務省管轄の「地域おこし協力隊」事業は、農政担当職員にとって“管轄外”だったのだろう。

霞が関で分散化している農業農村施策を、自治体単位で一度集めた上で町村の農政と照らし合わせ、各課の職員たちに、その任務の意味の自覚を促せば、職員のモチベーションは上がるし応用も利くはずだ。首長さんたちには、その配慮をぜひお願いしたい。