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住まいの「物語」を整理する―空き家活用支援の新たな形

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年12月23日

東洋大学国際学部国際地域学科教授 沼尾 波子(第3104号 令和元年12月23日)

最近、ダイエットや英語学習など、専門的な知見を持ったコーチが伴走しながら成果に結びつけるサービスが人気だ。単に知識や技術を伝えるだけでは成果は出るとは限らない。「痩せる」「英語を上達させる」という明確な目標を持ち続けること、そして、専門性を持ったコーチが、受講者の不安を解消しながら、楽しく課題に取り組むための伴走型支援を行うことで、成果につながるのだろう。

空き家整理・活用においても、そんな「伴走」が必要だ。そう思ったのは、福井県美浜町にあるNPO法人ふるさと福井サポートセンターの活動を見聞したときのことである。この団体は、空き家がもつ住まいの「物語」を見つめなおすきっかけづくりとともに、その整理・活用について早期決断するための支援を行い、町内の多くの空き家を利活用する道を開いている。空き家を地域の茶の間にしてコミュニティの拠点とした例、シェアハウスとして宿泊施設に展開した例、移住者を呼び込み、新たなつながりや賑わいを作った例など、空き家に新たな命と役割が与えられることで、地域のなかに新しい活動や繋がりが生まれていた。小学校では、空き家調査から地域の今を学ぶとともに、空き家カフェの取組みも行われていた。

町村部では、空き家は多くあっても、不動産賃貸や売買の市場にはなかなか出まわらない。都会の若者が地方移住を考えるとき、空き家はあっても、住む家が見つからないという話を聞く。人口減少が進むなかで、新たに外から人を受け入れ、地域の持続を考えようとすれば、空き家活用は大きなカギになる。

なぜ空き家の活用が進まないのか。住まいにはそこで暮らした家族の「物語」がある。空き家の整理とは、家財道具や仏壇の整理等を通じて、その物語を整理することでもある。また、住まいの売却や賃貸には、多くの手続きもあり、場合によっては費用も発生する。さらに賃貸となれば、コミュニティとしても、新たな隣人を受け入れるかどうかの決断を求められる。これだけ多くの不安や懸念をもったまま、空き家活用と言われても、所有者は気が重くなり、つい決断を先延ばしにしてしまうのだそうだ。そのハードルを下げ、空き家の利活用に向けた早期決断へとサポートする仕組みを作っていることに驚かされた。

2018年の「住宅・土地統計調査」によれば、全国に846万戸の空き家があり、総住宅数の13・6%を占めるという。「特定空家」を増やさないためにも、早期決断を支援するこんな取組みが求められている。