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農政の「車の両輪」

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年10月7日

明治大学教授 小田切 徳美(第3096号 令和元年10月7日

5年毎に見直される食料・農業・農村基本計画の議論が始まった。

今回のひとつの焦点は農村政策だと言われている。しばしば、「農政は産業政策と地域政策の『車の両輪』から成り立つ」とされる。ところが、最近の農政は産業政策に著しく傾斜しているため、その正常化が、新基本計画の課題であると認識する者は少なくない。

しかし、そもそも、「車の両輪」とはどのような意味だろうか。振り返ってみれば、この表現が農政に登場するのは、2005年の「経営所得安定対策大綱」である。その中で経営所得安定対策と農地・水・環境保全向上対策の導入が新たに提起され、それらが産業政策と地域政策を代表する「車の両輪」という構図が意識され始めた。

後者の農地・水・環境保全向上対策は、農業者や地域住民による地域資源管理活動の維持と高度化を支援するものである。つまり、ここでの農村政策とは、農村の地域資源管理を対象とするものであり、狭い意味である。そして、この事業を継承した多面的機能支払いは「担い手に集中する水路・農道等の管理を地域で支え、農地集積を後押し(する)」(同事業のパンフレット)ものと再編されている。そのため、前回(2015年)の基本計画では、「構造改革を後押ししつつ農業・農村の有する多面的機能の維持・発揮を促進する」地域政策と産業政策が「車の両輪」とされている。ここでの農村政策は担い手育成・安定化という産業政策に従属する位置にあり、「両輪」という本来の姿とは違い、「産業政策のための補助輪」と言える。

しかし、一般的に農村政策として意識されているのは、このような狭い意味ではなく、農村における農業以外の産業政策、福祉政策、環境政策などを含めたより大きな枠組みのものであろう。それは、「農村の総合的振興」として、食料・農業・農村基本法(1999年)上に位置づけられたものであり、中央省庁改革により生まれ変わった農林水産省設置法(2001年)は農林水産省にその担当を求めている。その意味は、農村空間を意識した他省庁を含む政策の総合調整であろう。しかし、そうしたことが、同省により積極的に行われているようには見えない。そうであれば、こちらは片方の「脱輪」であろう。

つまり、狭義では「補助輪」化、広義では「脱輪」という二重の問題が農政の「車の両輪」には起きている。このように、議論を整理しても、やはり農村政策は新基本計画の大きな焦点とならざるを得ないのである。