ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > コラム・論説 > 大規模経営の「その後」を、誰が担うのか?

大規模経営の「その後」を、誰が担うのか?

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年9月16日

農業ジャーナリスト・明治大学客員教授 榊田 みどり(第3094号 令和元年9月16日)

北陸のある県を訪れたとき、稲作大規模経営者から「まさかこんなことになるとは」という声を聞いた。

個人経営で、畦畔管理も水路管理も引き受けて60規模に拡大したが、後継者がいない。70歳になり、地権者に農地を返そうとしたら、相手はすでに世代交代。地権者の息子の多くは農業未経験のサラリーマンで農業機械もない。地図を見せても、「うちの農地はどこ?」。今さら農地を返しても荒れるのは目に見えている。

その話を、他県の稲作経営法人の先駆者で、現在は自治体幹部も務めている知人にしたところ、「同じような話をこの地域でも聞いている」とのこと。もちろん、集落営農組織も後継者確保には苦労しているが、とくに、一匹狼で規模拡大してきた個人経営者の場合、地権者だけでなく地域との関係が希薄なケースが多いと心配していた。

70年代以降の農地流動化推進の中、稲作の作業受託から借地型大規模経営に発展してきた法人や個人経営者は多い。国の農政も後押ししたし、メディアも、稲作新時代の旗手として取り上げてきた。

その創業者たちが今、こぞってリタイア時期を迎えている。長期戦略で経営移譲の準備をしてきた経営者もいるが、そうではない個人の経営者で、農地の受け手を今も探しあぐねているひとは多いのではないか。

50以上の大規模になると、受け手は近くの個人農家というわけにはいかない。ただでさえ農村人口は減っている。それだけの農地と設備、それに伴う負債を引き受けられる大規模稲作法人がなければ、今度は個人ではなく地域が、その受け皿づくりという新たな課題を抱えることになる。

さて、これは誰のせいなのか?

地権者の責任。耕作者の責任。そして農地の流動化を推進しながら「その後」の持続性・地域性への配慮を欠いた農政の責任。それぞれあると思う。今後、地域の農地を誰が担うのか、改めてそれぞれが当事者意識を持ち、この課題に向き合わなければならない時期が近づいている。