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地域づくりの点・線・面

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年9月2日

東洋大学国際学部国際地域学科教授 沼尾 波子(第3092号 令和元年9月2日)

地域づくりとは、ある地域空間において産業や生活の営みの場を創りあげるものだと思っていた。都市計画上は、空間利用について、住宅用地、工業用地、商業地、農地など、土地の利用形態を考え、地域がデザインされる。いわば、地域を「面」で捉えて、その利活用について考えるということである。そこに道路網や鉄道網が描かれることにより、人の移動の形が描かれることになる。

だが、人口減少時代において人々の繋がりの再構築を考えようとすると、そこには個々の住民という「点」と、それらの人々が出かけて行く先である「点」とを結ぶ多数の「線」がどのように分布しているのかを考える視点が必要となる。例えば学校統廃合の影響を考えようとすれば、児童生徒の住まいと学校、あるいは教員の住まいと学校までの移動を線で描きながら、通学手段や、学校と地域の連携の在り方等が検討されることになるだろう。

このように、現代社会において地域づくりを考える際には、地域を「面」で捉えるのみならず、「点」と「線」、さらにそれが複雑に絡まる網目(ネットワーク)で捉える視座が必要だ。

先日、福島県浜通りの相双地域を訪問する機会があった。福島第一原子力発電所から数十キロ圏内のエリアでは、徐々に避難指示区域が解除されている。これらの地域では、帰還・復興に向けて、様々な施設が面的に整備されている。だが、地元への帰還はなかなか進まない。面的整備は進んでも、そこに「点」と「線」を描こうとすると、いわば網目の粗い状態が生じている。

「面」の論理で空間整備を行うだけでは、復興とはいえまい。そこで生活する人々、働く人々がどのように地域を行き来し、関係を取り結ぶか。スカスカな網目を補完するような行政支援が必要である。買い物・医療・介護・学校・職場など、暮らしと仕事のなかで、「点」と「線」の密度を考え、それを補完するための場と関係を構築することも、行政の役割といえる。これは、人口減少が著しく進み、人々の関係性が希薄化する他の地域においても同様であろう。

地域経済の活性化とは、それぞれの場所で生み出される財・サービスの付加価値が大きくなることだけを指すのではない。人々の社会経済活動における関係・交流の密度もまた、重要な要素になりうる。

「関係人口」という言葉もあるように、近年、域外に暮らす人々を新たな「点」と捉え、地域の「点」と「線」の密度を高めるための場と関係の構築を模索する動きもある。

このように、地域づくりにおいて、面的な計画に留まらず、「点」と「線」を意識した視座が求められているのだといえよう。