法政大学名誉教授 岡崎 昌之(第3089号・令和元年8月5日)
山間部で元気な町や村に出会うと得も言われぬ安心感を覚える。しかもそこが、下流域の大都市を支える役割を果たしているなら、なおさらのことである。山梨県小菅村はまさしくそんな村である。都民の水がめである奥多摩湖に注ぐ多摩川の源流に位置するのが小菅村で、村域の94%は森林だ。その三分の一は東京都の水源涵養林で、委託を受けた村民がクマ出没の危険性をも顧みず、管理やパトロールに精を出している。この森林に分け入ると、深い森にもかかわらず明るく、白糸の滝や雄滝など勇壮な景観が展開する。
人口714人(2019年6月1日)の小菅村だが、週末に村内を歩くと意外にも若い人の姿が目に付く。受け入れた地域おこし協力隊員は27人に達し、現在も9人が活動中。協力隊を終了した18人のうち、村に留まっている隊員は10名になる。割合は全国平均よりやや低いが、714人、高齢化率46%という村にすれば、この10名の存在は大きい。IT技術やデザイン能力を活かして起業したり、ジビエ関連の事業を始めたり、村内外企業に就職したりとさまざまだが、村の元気のもとになっている。
多くの人で賑わう週末の道の駅では、元協力隊員の女性が、日本で初めて人工ふ化に成功した小菅のヤマメを串刺しで焼いていた。高齢になった小菅のおばあちゃんから引き継いだそうだ。NPO多摩源流こすげと役場で受け入れてきたインターンの卒業生グループは「社会人になった仲間を呼び集めて年数回、小菅の川辺でバーベキューをする」と、明るく笑っていた。役場正職員は特別職などを除くと21名で、うち12名が村外からの移住者だという。
協力隊員の定住化、移住者役場職員の活躍、源流親子留学世帯の受入れなど、なぜこれほどまで外部人材受け入れの成果があがるのか。そこには714人という小規模地域の身近さからくる信頼感や安心感がみてとれる。そのなかで一人一人が認められ、尊重される村人の意識に、若い世代の価値観が呼応しているのではないか。タイニーハウスという小型モデル住宅の開発や古民家ホテルの経営など、新しい取組が小さい村の大きい夢をつむいでいる。