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学際性

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年7月15日

福島大学教授 生源寺 眞一(第3087号 令和元年7月15日)

福島大学に新設された食農学類が、第1期生を迎えることができた。学生数は一学年百人ほどであり、国立大学の農学系学部としてはもっとも小規模のグループに属している。専任教員も総勢38人と少ない。だから、農学の専門分野をすべてカバーできるわけではない。それでも非常に多彩な分野から構成されている点では、農学系学部の特色は小さな食農学類にも当てはまる。

食の流れを意識した専門領域を設定している。最上流には森林科学があり、農業のインフラや機械装備を支える農業工学が続く。中流には作物の栽培や育種などの教員が配置され、農産物を受け取る位置には食品科学が待ち構えている。さらに、食の流れを結んで消費者につなぐ役割を果たすのが農業経営学である。学生も2年次後半から専門のコースに分かれ、4年目には研究室に所属することになる。

次第に狭い領域に特化していくわけだが、食農学類は人材育成の理念として、学際性の大切さを強調している。専門的な知見を深めるとともに、その内容をほかの専門分野の人々に伝えることができる。そんな人材に育ってほしいという願いなのである。農学は多彩な分野からなると述べたが、ベースにある学問も生物学・化学・物理学・経済学といったかたちに分かれている。いわば言語体系が異なるわけである。

そこを翻訳し、噛み砕いて伝える対話能力を身に付けてほしい。そのための分野横断的なカリキュラムも用意したのだが、考えてみれば、専門分野を越えたコミュニケーションの大切さは町村役場の仕事にも共通する。行政も分野が違えば、言葉づかいにもかなり差があるからだ。さらに、役場は町村民と直接向き合うポジションにもある。噛み砕いて分かりやすく伝えることが基本的な責務だと言ってもよい。

若かりし頃の体験から申し上げるのだが、専門外の人々に説明を試みることで、自分の理解が不十分だったことに気付く場合もある。表面的に覚えただけで、鍵となる本質が分かっていなかったというわけである。