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「6分の1」のハードル

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年7月1日

東京大学名誉教授 大森 彌(第3085号・令和元年7月1日)

高知県大川村は、一時、「住民総会」設置の可否を検討しはじめて全国から注目を集めた。村議選の立候補者が定数の6人に満たず、1人欠員が出れば再選挙となること、さらに当選者が不足して選挙を繰り返すことになれば村政が停滞しかねないことを懸念したからであった。村は、自分たちでできる対策を検討し、「議員の兼業禁止を明確にする条例」の制定に漕ぎ着け、これに基づいて、村長が、議員と他の仕事を掛け持ちしたい人が立候補しやすいよう議員の兼業制限に該当しない村内の公益的な法人を公表した。

こうした取組が村民の議会への関心を高めたとみられ、去る4月の村議選は、無投票だった前回から一転して選挙戦となった。現職4人と新人3人、計7人が立候補し、新人はすべて当選した。その1人は、兼業できない団体の幹部を辞任したが、兼業可能な法人については役職に就いたまま出馬した。本気になって住民の関心を喚起すれば定員割れを起こさないですむといえるかもしれない。

自治体の首長選挙で無投票当選ということはあるが、一人の立候補者もいないということはまずない。自治体議員の選挙でも無投票当選になることはあるが、それには3つの場合がある。第1は立候補者数が議員定数と同じ場合で、定数は確保できているから議会は成立する。第2は、立候補者数が議員定数を下回り、欠員が生じているが、その比率が定数の6分の1以下の場合で議会は成立する。第3は、欠員の比率が定数の6分の1以上の場合で、欠員の補充選挙を行わなければ議会は成立しない。

公職選挙法によって、立候補者の不足数が議員定数の6分の1を超えた場合は、不足分の選挙を50日以内に行わなければならない。問題は、この6分の1のハードルを超えられるかどうかである。これが議会成立の最低限の条件だからである。

立候補者が選挙戦で有権者に支持を訴え、投票の結果、当選したということは有権者の明示的な信任を得たということである。無投票当選では、この信任が不明になる。それでも、議員を選挙で選ぶ目的が議会を成立させることであるから、無投票当選でも、必要な議員数が確保できれば、ひとまず議会は始動できる。

議会の成立という観点からより問題になるのは上記の第3の場合である。特に議員定数が10人前後の小規模議会では、その心配がつのる。2018年12月施行の群馬県昭和村の定数12人の村議選では、9人しか立候補せず、欠員3人の補充選挙が行われ、3人の立候補者があり、全員が無投票当選となった。4月の統一地方選挙では、8町村議選で定員割れとなったが、いずれも6分の1以下であったため再選挙を実施せずにすんだ。

もし当選者数が6分の1のハードルを超えられず、再選挙となり、それでも超えられず再再選挙ともなれば、議会の成立が遅れ、自治体運営に支障が出かねない。首長(執行部)側としても、それは、二元的代表制の下における議会の問題だと傍観してはいられない。6分の1のハードルを超えられないほど立候補者が出てこない地域なのかと、自治体としての存在理由が問われかねないからである。

従来、ともすれば選挙は争いであり、地区にとってしこりが残る争いごとはよくないと考えがちであった。立候補の動静を見て、無投票になるように手控えや調整工作が行われることがあるといわれてきた。しかし、選挙戦を回避しようとするあまり6分の1以上の欠員が出るようでは困る。予算案をはじめ地域の将来を左右しかねない議案の審議・決定は議会の基本任務である。その議会の成立が危ぶまれる事態は自治体存立の危機であると考えられるべきである。議員のなり手不足にはさまざまな要因が考えられるが、まずは、議会を成立させうる数の議員の確保がどうして不可欠なのか、役場と住民が一緒になって議論し、議会なしには自治体は成り立たないという認識を揺るがないものにすべきではなかろうか。