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ギャップを埋める

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年6月24日

コモンズ代表・ジャーナリスト 大江 正章(第3084号・令和元年6月24日)

最近、講演で話したり時代のキーワードに関連する公式文書を読んでいて、ギャップを感じることが多い。ギャップと言っても、いま流行のGAP(生産工程管理)のことではない。私と聴衆や文書の認識との大いなる隔たり(ズレ)だ。

たとえば、岐阜県に白川町という人口約8200人の自治体がある(合掌造りで有名なのは白川村)。増田レポートでは岐阜県の「消滅市町村第1位」とされたが、実際には有機農業による新規就農者が毎年増え、この10年間で約20戸。その大半は30代で、子どもがつぎつぎに誕生している。販売農家の7%は有機農家で、農水省も注目する存在だ。そのパートナーたちは、それぞれのセンスを発揮して、デザイナー、料理教室、役場職員などで活躍している。ところが、6月に農業高校の校長や農場長が集まる全国大会で講演した際、岐阜県からの参加者に聞いたところ、そうした事実はご存知なかった。

3月にはSDGsに関するシンポジウムに呼ばれたので、「SDGsアクションプラン2019」を丹念に読んだ。すると「SDGsを原動力とした、地方創生、強靭かつ環境に優しい魅力的なまちづくり」という項目がある。そして、その下には「ICT等先端技術を活用した地域の活性化」「スマート農林水産業の推進」と書かれ、実施指針の優先課題は「成長市場の創出…科学技術イノベーション」だ。これらの間にギャップを感じるのは私だけだろうか。

いま足元からの地域づくりで求められているのは、成長市場というより地域循環型市場の創出であり、先端技術だけでなくローテクノロジーの再評価である。すなわち、昔から伝えられてきた第一次産業従事者や手仕事・地場産業の担い手たちの知恵と技を生かしながら、それに現代ならではの発想や技術や感性を加えて新たな仕事をどうつくり出していくかである。

ただし、このギャップは、本当に持続可能な世界と地域を実現するための私のメッセージの伝え方がまだまだ拙いことも意味している。食料・農業・農村基本法が制定されて20年を迎えたいま、農山村の現状をふまえつつギャップを埋める努力を続けていきたい。