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「農福連携」と「ユニバーサル農業」

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年6月3日

農業ジャーナリスト・明治大学客員教授 榊田 みどり(第3082号 令和元年6月3日)


近年、注目されている「農福連携」。単純に「農業の労働力不足解消と障がい者の雇用創出」という図式でとらえる風潮に懸念を抱いていたが、「ユニバーサル社会」という理念の下で丁寧に仕組みを構築すれば、地域活性化にもつながり得る。

そう思わせてくれたのは、静岡県浜松市で(株)京丸園を経営する鈴木厚志さん。97年、農業界でいち早く障がい者雇用に取り組んだ人物だ。初めてお会いしたのは10数年前で、家族を含め10人程度の経営規模だった。その後、年にひとりずつ障がい者雇用を増やし、今では従業員約100人、うち24人が障がい者という大規模経営に成長した。しかも、社員の年齢層は健常者を含め10~80代と幅広い。「夢は90代でも働ける農場」と鈴木さんは言う。

社内には精神保健福祉士が勤務する「心耕部」を設置している。農園の既存のやり方に相手をあてはめるのではなく、逆にこちらが相手に寄り添って作業環境を見直し、相手に伝わる指示さえ出せば、健常者に負けない働き手になることを実証。その取組は、健常者にも働きやすい職場環境改善にもつながった。

「ユニバーサル社会」は、年齢・性別・障害・文化のちがいにかかわりなく、誰もが地域社会の一員として支え合う社会のこと。昨年、ユニバーサル社会推進法が成立したが、それ以前から、鈴木さんは、目指す農業を「農福連携」ではなく「ユニバーサル農業」と位置づけてきた。

かつての農村には、子どもも高齢者も障がい者も役割を持ち共生するユニバーサル性があった。その機能を農業経営の中で再生できないかとの思いが鈴木さんにはある。「雇ってあげる」ではなく、同じ地平での相互扶助の視点だ。

障がい者の法定雇用率の上昇を受け、近年、特定子会社を設立し農業参入する企業も増えてきた。これらの会社は、作業効率を理由に海外移転する可能性も低い。その意味でも、地域づくりの中に農を軸とした「ユニバーサル社会」という視点を盛り込む可能性に注目したいと思う。