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自治体職員の副業と人事評価

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年3月4日

東京大学名誉教授 大森 彌(第3072号 平成31年3月4日)

地方公務員法第30条は「すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。」と、服務の根本基準を定めている。第38条は「職員は、任命権者の許可を受けなければ、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(略)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(略)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。」と規定している。

この条文の最後は、地方公務員たる者は、休日や勤務時間外であっても副業をして報酬を得てはならないと読める。ただし、条文の最初は、「任命権者の許可を受けなければ」としているから、任命権者の許可を受ければ副業ができる。実際には、不動産賃貸、小規模農業、家業の手伝いなど公務に支障を来さないことを条件に兼業が許可されている事例はある。

しかし、一般には、これまでは、公務員たる者、いついかなる時でも営利活動に関わってはいけないという強いイメージが広く浸透していたため、副業を考える職員は少なかったといえる。これ以外にも、信用失墜行為の禁止、守秘義務、職務専念の義務などが課されており、公務員は国民からの信頼を失ってはいけない、これを危うくする副業は原則禁止という扱いとなってきた。

ところが、積極的に副業を認めようという動きが出てきた。2018年11月、宮崎県新富町は、神戸市や奈良県生駒市に次いで、町職員が勤務時間外に地域貢献などの活動へ参加することを後押ししようと、職員の副業許可基準を明確化した内規の運用を始めた。副業が可能なのは、在職1年以上の一般職員で、休日や勤務時間外での従事に限り、役場での業務に支障がないことが条件となっており、町内での活動に限定され、スポーツ少年団の指導者や高齢者の買い物支援に取り組むNPO法人、伝統行事の手伝い等を想定し、給与とは別に報酬を得て副業に従事することを認めるとしている。小嶋崇嗣新富町長は「役場の職員は地域の人材の宝庫であり、積極的に声を上げてほしい」と語っている。人手不足で困っている地域の団体や活動に職員が参加することで地域活性化につながればという期待もある。

職員の副業許可は、勤務時間外、週休日及び休日における活動であり、本務の遂行に支障がないこと、あるいは本務を疎かにしないことが条件である。それを何によって証拠立てるのか。副業が面白くて本業に身が入らなくなり、副業で精神的・肉体的な疲れが出て本業に支障が出てくるようでは困る。副業許可を出すに当たっては、本業に支障がなく疎かにされないことを確かめる手段をどうするか。ひとまず、現に行われている人事評価を活用することが考えられる。

人事評価は、職員がその職務を遂行するに当たり発揮した能力及び挙げた業績を適切に把握したうえで行うことになっており、その評価の結果を任用、給与、分限その他の人事管理の基礎として活用するものとすることになっている。

例えば、副業開始予定日の直前の人事評価について、業績(目標達成度)評価においては前2回、能力(職務行動)評価にあっては前1回の評価が、ともにB以上であることを副業許可の条件の一つにするのである。人事評価では、一般にSABCDの5段階が使われているが、Bは中位(普通、並み)である。人事評価がB未満の職員で副業を希望するのであれば、まず、人事評価をB以上にあげてからということになる。職員に対し、給与とは別に報酬を得る副業を認めるには、少なくとも人事評価で普通以上の評価を得られているような職員でなければ住民の理解は得られないと思うがどうだろうか。