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留学生がみた日本の地域づくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年2月18日

東洋大学国際学部国際地域学科教授 沼尾 波子(第3070号 平成31年2月18日)

昨年12月に、大学院に所属する外国人留学生を5人連れて、岩手県紫波町を訪れた。日本政府は、国費でアフリカやアジア太平洋諸国政府の若手官僚を毎年数百人規模で受け入れるプログラムを実施している。彼らは自国の様々な課題をもって来日し、大学院で研究を行うのだが、持続可能な地域づくりに向けた課題に取り組む学生も多い。

日本の地域づくりの事例から、彼らが何を学べるだろうか。来日後3か月程度で、日本語も日本のこともほとんど分からない学生たちを連れて2泊3日の旅に出た。

結果的に予想はいい意味で裏切られ、プログラムを終えた留学生の気づきと学びはとても大きなものとなった。その第1は、気候風土に根差した地域の暮らしに触れたことであろう。学生たちの日本のイメージは大都市東京の高層ビルとテクノロジーのなかで、人々がてきぱきと生活する姿であった。ところが、紫波町では、地域で人のお宅にお邪魔し、こたつに入って日本食を味わい、土地の自然や歴史文化を大切にした暮らしの知恵に触れた。

第2に、紫波町ではオガールプロジェクトにみる地域の資源循環、経済循環、エネルギー循環システムを構築しており、学生たちは環境共生型の社会や暮らしの構築をリアルに見聞した。そして、地域住民が水資源を大切に利用していることや、自然豊かな恵みを利用しながら暮らしを紡ぐ様子に驚嘆していた。そして何より、こうした活動を、地方自治体や地域住民が主体的に担っているということに驚いていた。中央政府が資金や技術や情報を地域に持ち込んで開発プログラムをつくるのではなく、住民が日々の暮らしの中で人と自然との関係を育み、暮らしを営む。そして自治体がそれを支える。紫波町における「協働のまちづくり」の中で循環型社会構築が進められていることに感銘を受けていた。

訪問したあるお宅では、お節料理について説明し、黒豆や紅白なますを出してくださった。こんなふうに自然を愉しみ、暮らしを営む。参加した留学生たちは、また行きたいと口々に語った。SDGsなどと言われるが、この国には、地域の中で自然との関係を取り結びながら暮らしが営まれ、そこで培われた知恵や技術が継承されている。そこにある暮らしの美と豊かさは、海外から来られる方々の心に感動や共感を与えるのだと感じた。

ローカルな知恵と技術、そしてそれを支える役場の取り組みに感銘を受ける留学生の姿を見つめながら、地方分権という言葉を、久しぶりに思い出した。