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地域に元気を取り戻す現代アートの力

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年1月7日

立教大学観光学部特任教授 (公財)日本交通公社上席客員研究員 梅川 智也 (第3065号 平成31年1月7日)

先日、久しぶりに瀬戸内海の離島・直島を訪れた。地元の通信教育会社が約30年をかけて芸術の島として再生させた。安藤忠雄氏設計の地中美術館にはモネをはじめ、ウォルター・デ・マリアやジェームズ・タレルなど人気アーティストの作品が展示され、島内には〝集落まるごと美術館”ともいわれる古民家や神社等を活用した現代アートが至る所に展開されている。近年、瀬戸内国際芸術祭(通称セトゲー)の開催により、改めて国際的な認知度が高まり、欧米からのインバウンドを含む多くの観光客で賑わっている。

かつて、人口が密集する本土には設置しづらい精錬所などの危険施設が瀬戸内海の離島に建設された。産業廃棄物の島として有名になった豊島(てしま)はその代表である。隣接する直島も例外ではなく、豊島の産廃処理を引き受けた大手金属会社が今でも島の北半分を占めている。こうしたある意味負の遺産をプラスに転じさせたのが現代アートである。ネガティブからポジティブへと地域イメージすら変えてしまう現代アートの不思議な力に新鮮な驚きを覚える。

荒廃した中心市街地やかつて隆盛を誇った鉄鋼や造船の町などを、文化芸術によって再生させる「クリエイティブシティ(創造都市)」が、21世紀に入ってチャールズ・ランドリーやリチャード・フロリダなどによって提唱された。現在では、世界100都市以上が「創造都市ネットワーク」としてユネスコに認定されている。わが国でも「創造都市ネットワーク日本」が形成され、107の自治体が加盟している(都市といっても町村の加盟も少なくなく、「創造農村」として展開している)。

現代アートによる過疎地域や離島の活性化は、大地の芸術祭で有名な越後妻有や直島に限らず、能登など半島地域や市原など大都市郊外にも広がり、今や既存の温泉観光地にも応用されている。その代表が日本最古の湯ともいわれる四国の道後温泉である。温泉街のシンボル・道後温泉本館の改築120周年を記念する事業として現代アートの導入が採用された。この「道後オンセナート」では、国の重要文化財に指定されている本館にも現代アートが施されるだけでなく、ある旅館の一室は水玉模様のデザインで有名な草間彌生氏によってコーディネートされ、普段の客層とは全く異なる若くクリエイティブな人々が大勢訪れた。温泉街の活性化に向けた老舗観光地の底力を垣間見た思いである。

老舗から学ぶべき点は多々あろうが、ダーウィンの進化論のように、強いものが生き残るのではなく、変われるもののみが生き残る、つまり不易流行を踏まえつつ常に変化・進化し続けることが観光・交流型の地域づくりには大切であると強く思う。