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地域と連携するARC(アーク)の試み

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年9月17日

法政大学名誉教授 岡崎 昌之(第3054号・平成30年9月17日)

地域と大学の連携が注目され始めて久しい。総務省の域学連携事業、文部科学省による地(知)の拠点整備事業(COC)など、高い関心を呼んだが、多くは大学教員や研究室が主導したもので、学生たちはそのもとで活動を展開したものが多かった。そうしたなか、学生独自で企画運営し、持続的に地域づくりに取り組み、一定の成果をあげ、地域住民からも高い評価を受けているグループがある。秋田県の学生グループARC(アーク)で、秋田大学、秋田県立大学、秋田公立美術大学他、県内5大学の学生で構成され、地域貢献活動に参加している。格別、指導教員もいず、単位取得も関係しない。

2013年4月、当時秋田大学の院生であった伊藤晴樹さんが4名で創設した。全国一高齢化率が高い秋田県内で、絶えようとしている炭焼き集落を支援したり、存続が難しいお祭りを子供たちと交流しながら支えたり、活動の姿は様々だが、しっかりと地域の意向を踏まえ、活動を続けている。

秋田県藤里町で彼らの活動を垣間見る機会があった。町内粕毛地区で、高齢化する地区の人財発掘調査を手始めに、無理のない範囲で農家民宿を立ち上げようという計画である。ARCのメンバーには、各お宅を地域の役員と同道で回って貰ったが、庭先や玄関口での率直な質問や新鮮な驚きの反応は、住民からも好感をもたれ、「顔写真入りのお宝人財マップ」が完成した。この成果をもとに地区では2017年8月に6軒の農家民宿が実際に立ち上がった。ARCは引き続き、各民宿での宿泊体験をフェイスブックで紹介したり、民宿のパンフレットづくりを支援している。

高齢化した地域にとって、こうした学生の存在は異質だが、学生たちの意外な反応は、お年寄りたちにとっても新鮮だ。郷土料理や伝統工芸などの得意技を発揮する機会ともなる。農山漁村に対する若者の関心が高まっているが、こうした若い世代の価値観や動向を的確に把握し、彼らを次の担い手として地域で受け入れられるか否かが、今後10数年の農山漁村の命運を左右することになる。