ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > コラム・論説 > 観光振興のための独自財源をつくる

観光振興のための独自財源をつくる

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年8月27日

立教大学観光学部特任教授 (公財)日本交通公社上席客員研究員 梅川 智也 (第3051号 平成30年8月27日)

地方創生の成長戦略の柱の一つとして位置づけられ、今のところ、訪日外国人旅行者は順調に増加を続けている「観光」であるが、地方の町村が観光振興のための財源を確保することは容易なことではない。人口減少が続く中で、観光や交流人口の増大が地域経済発展のためには欠かせない政策であることは理解しつつも、観光振興のような戦略的投資をする財源はなかなか見当たらないのが現実である。

そうした中で注目されているのが、法定外目的税である「宿泊税」と市町村税で目的税となっている「入湯税」の超過課税という大きく2つの観光振興のための財源確保の取組である。前者は、2002年に導入した東京都に続いて2017年に大阪府が導入しているが、今年は市町村レベルでは全国で初めて京都市が導入を予定しており、その後を追うようにいくつかの市町村で宿泊税の導入が具体的に検討されている。後者は現在のところ、全国で5つの市町で行われているが、温泉地に限定されるという地域要件はあるものの、目的税であることからやはり観光振興の安定財源として活用されている。特に観光振興を目的とした市町村税である入湯税にいち早く着目し、その超過課税分を観光振興臨時基金とし、安定財源とした北海道釧路市阿寒湖温泉での実践的な取組は、全国的にも注目される事例の一つとなっている。

一方、現在、全国の観光地では観光地経営の中核的な舵取り役となる「日本版DMO」に注目が集まっている。観光庁はその登録制度を創設しているが、5つの登録要件の中でどこの地域でも課題となっているのがマーケティング専門「人材」の確保と安定的「財源」の確保である。「観光地経営」の要諦となる科学的なアプローチ、つまりしっかりとした“マーケティング”に基づき、戦略的なプロモーション活動を行い、継続的な観光地のブランディングを進めていくためには、安定的かつ独自(いわゆる紐付きでない)財源の存在が必須である。海外のDMOにおいては、宿泊税やBID・TIDなどを安定的な財源としており、その手法がそのまま日本に当てはまるわけではないが、学ぶべき点は少なくない。

まずは、自らの地域は何を目指すのかという目標、つまりビジョンの策定が最も大切である。その実現のために、わが町、わが村の観光推進組織・体制の現状と課題を理解し、自らに相応しい、あるいは可能性のある財源確保の手法について関係者とともに検討していくべきであろう。新たな財源の導入にあたって一歩一歩進めていく気力と体力、そして胆力が求められる。ただし、組織も財源もあくまで目標達成のための「手段」であり、ビジョンなくして組織も財源もないのである。