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広がりをみせる「学び」によるまちづくり岡山県矢掛町の県立高の「やかげ学」

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年7月30日

島根県立大学名誉教授 田嶋 義介(第3048号 平成30年7月30日)

全国どこにもある「学び」によるまちづくりが岡山県西部の中山間地域にある矢掛町で展開されている。県立矢掛高校の2、3年生が毎週1回、町内の老人福祉施設や図書館、保育園、小学校などに行き、通所者との触れ合いや図書の貸出・返却、学習支援などの職場実習を1年間体験する。その活動を「やかげ学」として報告する。活動で得た地域を見つめる眼や住民との交流がプレゼン力などをつけさせ、教育改革と2020年度から記述式問題が入る大学入試改革が求める思考力や判断力、表現力を養うのに役立ち、茨城県の県立高校も始めるなど広がりを見せている。

矢掛町は旧山陽道の宿場町。1954年に周辺5村と合併して、今の矢掛町になった。1970年に人口18665人だったが、2015年には14201人と24%減。人口減で、公立高校の再編が進み、矢掛高も04年に矢掛商高と統合。14年には町が矢掛高存続協議会を発足させるなど生き残りをかけた模索が続く。

その一つが「やかげ学」。矢掛商高との統合後に検討され、2010年から始めた。当時矢掛高にいた発案者の室貴由輝先生(現岡山後楽館高教頭)によると、矢掛高が取り組んできた環境教育やボランティア活動で築かれた地域との連携を発展させた教科とし、地域での活動体験で、達成感や充実感を生徒に持たせ、進路の模索に結びつけるのが狙いだった。

町、町教委と矢掛高が協定を結んで、学校設定教科とし、毎木曜日午後に実施。2年生は、町職員から町について学んだ後、9月から実習する。3年になると同じ施設で7月まで実習する。9月から活動報告をまとめ、最後に、施設や地域の方、保護者らに「やかげ学発表会」を開く。受け入れ先は小学校7校など14に。各施設では「矢高生がいないと、仕事が回らない」と頼られている。

2016年の「やかげ学発表会」で、ある生徒代表はこんな挨拶をした。「私は高校入試で2度失敗し、矢掛高に進学した。やかげ学には興味すらありませんでした。あんなことをして何になるんだろうと。3年間軟式野球部で、授業中は寝るばかり。そして、やかげ学の活動が始まった。ある時、(生徒の実習先の)山田小の先生が私の試合を見に来てくれました。こんな私でも気に掛けてくれているという嬉しい気持ちで一杯になった。それで、自分にできることを探し、先生方や地域の方々に感謝し活動しました。今はもっと沢山のことを学べる活動だったと気が付きました」。地域に支えられて、自己肯定感や達成感がにじみ出ている。

茨城県つくば市の県立筑波高も職員を矢掛高に派遣して2年前から「つくばね学」を始めている。