八幡つつじと那須連山
3029号(2018年2月5日) 那須町長 高久 勝
那須町は、栃木県の北部に位置し、東京都まで約170km、県都宇都宮まで約60kmの距離にあり、JR東北本線、東北新幹線、東北縦貫自動車道、国道4号及び国道294号が通っており、広域的な交通条件に恵まれた立地となっています。
那須連山から八溝山地に至る、総面積372.34平方キロメートルもの広大な面積を有する当町は、栃木県の総面積の約6%を占めています。
北部から東部にかけては福島県に接しており、北西部には、今なお噴煙を吐き続ける那須連山の主峰、標高1,915mの茶臼岳がそびえ、その南斜面には、那須温泉郷、八幡ツツジ群落、殺生石などの自然・名勝があります。
また、テーマパークなどのレジャー施設や多くの宿泊施設、別荘が点在する高原地域が広がり、さらに、皇室の方々がご静養なされる那須御用邸を有することから「ロイヤルリゾート那須」として、年間約500万人の観光客が訪れる関東有数のリゾート地となっています。
中央部の平坦地は、JR黒田原駅を中心とする市街地や、首都圏農業の一翼を担う広大な農業地帯となっています。
南東部の八溝山系一帯は、県立自然公園区域に指定されており、良質な八溝材の生産地となっています。また、昔ながらのどこか懐かしい感情を呼び起こさせる農村の原風景が、数多く点在する松尾芭蕉や義経伝説などの史跡とともに広がっています。
自転車は、移動手段や健康的なツールとして親しまれているほか、最近では、まちおこしのツールとしても大変注目されています。
那須町でも、那須高原ロングライドや全日本自転車競技選手権大会、Jプロツアーの開催を契機として、サイクルスポーツが注目を集めています。
そんな、那須町におけるサイクルスポーツによる地域振興の取組を、事業が始まった経緯やその魅力などをふまえて紹介します。
那須高原ロングライド
那須町のサイクルスポーツ事業は、平成23年7月に第1回那須高原ロングライドが開催されたことが始まりです。このロングライドは、東日本大震災の風評被害により離れた観光客を呼び戻そうと、数人のサイクリストが発起人となり始まりました。自粛ムードがある中「那須から元気」を発信しようと開催にこぎつけ、第1回大会は800名の参加者でしたが、第7回目を迎えた今年は2,700名となり、一番人気のコースは募集から1時間もかからず定員に達するなど、全国でも有数のサイクルイベントに成長しました。
この那須高原ロングライドが、那須町とサイクルスポーツを結びつけたきっかけとなっています。
その後、活動が広がり、平成28年度にはサイクリストの聖地でもある広島県尾道市とのサイクリングパートナー事業に関する協定の締結(サイクルツーリズムによる誘客、市民交流の促進)をはじめとして、福島県白河市・西郷村との広域連携事業(インバウンド事業、レンタサイクル事業、プロモーション事業、サイクルマップ制作、アプリ開発等)や、矢板市・大田原市との広域連携事業(HPでのプロモーション事業、スポーツボランティア組織構築)などを展開しています。
尾道市とのサイクリング協定
また、インバウンド事業においても、自転車生産大国として名高い台湾においてサイクルスポーツを活かしたトップセールスを行うとともに、台湾サイクリング協会との交流も行っています。
主なサイクルスポーツ事業 | |
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平成23年 7月 | 那須高原ロングライド開催(第1回) |
平成24年10月 | サイクルロードレースチーム 「那須ブラーゼン」誕生 |
平成25年 7月 | 那須岳ヒルクライムレース開催 |
平成26年 9月 | NHKドラマ 「ライドライドライド」放送(NHK宇都宮放送局) |
平成27年 6月 | 全日本自転車競技選手権大会開催(関東初) |
平成27年11月 | サイクリングin那須・大洗開催 (友好都市交流事業) |
平成28年 4月 | 地域おこし協力隊(自転車専任)採用 |
平成28年10月 | 町レンタサイクル事業を展開 |
平成28年10月 | 広島県尾道市とのサイクリングパートナー事業 に関する協定締結 |
平成29年 3月 | 那須サイクリング協会発足(体協加盟) |
平成29年 6月 | JBCF那須ロードレース開催 |
自転車は、環境にやさしく健康的な乗り物として親しまれています。また、風をきって颯爽と走ることでストレス解消にもなります。自転車が身体を補助してくれるので、長時間、長い距離を走ることが可能となり、特に、自然の中でのサイクリングは心身に良い影響を与えます。更には自転車に乗り続けることで「脂肪燃焼・ダイエット効果」「心肺機能の向上」「脳の活性化」「持久力の向上」「下半身の筋力アップ」「睡眠の質の向上」などの効果が期待できるとされています。
また、自転車には競技スポーツとしてロードレース以外にも様々な種類があり、オリンピックや国体の正式競技にもなっています。日本ではどちらかと言えばマイナースポーツと見られがちですが、欧州では自転車ロードレースはサッカーに次ぐほどの人気競技です。
全日本自転車競技選手権大会
ヨーロッパの一部の国では自転車交通を促進していますが、日本でも「自転車活用推進法」が平成29年5月1日に施行され、自転車の活用を図るため、自転車専用道路や通行帯の整備、シェアサイクルの整備、自転車競技施設の整備、交通安全教室及び啓発などの施策が推進されることになっています。
那須の風景とサイクリスト
那須町には、サイクルピットというサイクリストが気軽に休憩できる施設が100か所以上あります。サイクルピットにはサイクルスタンドや空気入れ、簡易修理キットが備えられており、休憩やトイレ、水の補給等ができ、いざという時やサイクリストが困った時に気軽に利用できる施設となっています。それらの装備は、各施設が自主的に揃えるなど、ご協力をいただいています。これらのサイクルピットは、町で作成したサイクルマップ上に掲載し、共通のサイクルピットサイン(タペストリー)とスタンプを制作、配布し、サイクリストから見える場所に掲示していただいています。
サイクルピットサイン
さらに、サイクリングを楽しんでいただくツールとしてNSN自転車旅ナビチャリ(骨伝導イヤフォンによる音声ナビにより観光施設の案内やサイクルピットの案内などを行うスマートフォンアプリ)を開発し、現在、精度を高めるための実証実験を行っているほか、既存のナビゲーションアプリ等と連携するなど、ITを活用したサイクリストにとって便利で安全なサービスの提供も目指しています。
また、この那須地区には、いざという時のためにサイクルレスキュータクシーという、タクシーに自転車を載せて目的地まで行けるサービス(有料)もあります。このサイクルレスキュータクシーは、AEDや空気入れも搭載しており、簡単なパンク修理にも対応できます。
以上のように、那須町は、全国でも有数のサイクリストにとって安心で走りやすい環境が整っている場所となっています。
平成28年10月からは、自転車をお持ちでない方にも那須町でサイクリングを楽しんでいただけるよう、JR黒田原駅に近い黒田原地区まちづくりセンター内の那須サイクルベースにおいてレンタサイクルを始めました。
那須サイクルベース
那須サイクルベースの運営は、サイクルロードレースチーム「那須ブラーゼン」の運営会社NASPO株式会社に業務委託をし、プロ仕様のロードバイクをはじめ、クロスバイクやマウンテンバイク等のスポーツタイプの自転車を揃えレンタサイクル事業を行っています。さらに、サイクルロードレースチームのノウハウを活かした自転車安全教室やガイドツアー等も行っています。
幼児自転車教室
世界的な人気を誇るサイクルスポーツが、国内でも東京オリンピックの開催をはじめ、サイクルレース誘致やサイクルイベント開催を契機に注目されています。
しかし、様々な課題もあります。那須町では自動車が主な移動手段であるため、自転車と自動車がお互いに共存出来るよう取り組んでいく必要があると考えています。まだ自転車専用路側帯の整備が進んでいない状況ですが、道路改良等のハード整備は多額のコストがかかりすぎて早急な解決が難しいことから、自転車と自動車のそれぞれがルールやマナーを守る運動等を展開し、さらにそれを広域的に実施することで効果を高めていきたいと考えています。
また、那須町では公共交通機関が少ないため、二次交通手段の一つとして自転車を活用できるよう、レンタサイクル等の乗り捨てや自転車を借りられる場所を増やすとともに、他市町村との連携により、これらを広域的に取り組むことでより効果を高めたいと考えています。
それらを踏まえ、今後那須町では、次の事業展開を目指しています。
1. 栃木国体でのロードレース、全日本自転車競技選手権大会、サイクルロードレース、サイクルイベントの誘致
2. 国内サイクリストやインバウンドによる外国人サイクリストの受け入れ
3. レンタサイクル等を活用したJR黒田原駅前の活性化と町内サイクリストの増加
4. 二次交通として観光施設を周遊できるシェアサイクルと自動車との共存に向けた環境等の整備
5. サイクルピットを活用したイベント等の開催…等
サイクルスポーツは、ウォーキングやマラソン等と違って、自転車という乗り物を使用するため広範囲での移動が可能なスポーツです。地域が連携し、広域的な事業を展開することで、より安全で安心してサイクリングが出来る環境を提供し、そこに住む住民の健康増進はもとより地域振興対策の一助として推進していきたいと考えています。