
▲朝靄に包まれる青木村
長野県青木村
3359号(2026年5月18日)
総務企画課 事業推進室
塩澤 和宏

人口約4,000人の小さな村、青木村。この小さな村から、誰ひとり取り残さない新しい情報基盤づくりが広がっています。長野県東部に位置する青木村は、千曲川水系の清流と穏やかな里山に抱かれた地域です。四季の移ろいがはっきりと感じられるこの地では、春の芽吹き、夏の緑、秋の実り、冬の静けさが、人々の暮らしに寄り添うように存在しています。規模こそ大きくはありませんが、長い年月の中で育まれてきた歴史と文化、そして人と人とのつながりの温かさが凝縮されています。
村の象徴として広く知られるのが、国宝に指定されている大法寺三重塔です。青木村は、全国で唯一国宝の建造物を所有する村です。鎌倉時代に建立されたこの塔は、「見返りの塔」とも称され、その優美な姿は訪れる人の足を止め、思わず振り返らせるほどの魅力をたたえています。山あいの静寂の中に凛として佇むその姿は、時代を超えて地域の象徴であり続けています。
また、江戸時代に年貢の軽減を求めて立ち上がった人々の志は「義民」として語り継がれています。自らの暮らしのみならず、地域全体の未来を思い行動したその精神は、現代においても大切な価値観として受け継がれています。村の無形民俗文化財である義民太鼓の力強い響きは、その歴史と誇りを今に伝え、地域の結びつきを象徴する存在となっています。
さらに、香り高くほのかな甘みが特長の「タチアカネ蕎麦」の産地であることも、この村の大きな魅力の一つです。昼夜の寒暖差が大きい気候と清らかな水に育まれたそばは風味豊かで、訪れる人々を魅了します。収穫の時期には、地域の人々と訪問者がともに季節の恵みを味わい、食を通じた交流が自然と生まれています。

そして、東急グループの礎を築いた実業家、五島慶太の生誕の地でもあります。地方の一隅から大きな志を抱き、社会に新たな価値を生み出したその歩みは、青木村の人々にとって今も誇りであり、未来へとつながる精神的な支えとなっています。
青木村では、こうした歴史や文化、産業といった地域資源を大切に守りながら、それらを活かした村づくりを進めてきました。単なる継承にとどまるのではなく、観光や教育、地域振興へとつなげることで、新たな価値を創出しています。例えば、地域の歴史を学ぶ機会の創出や、特産品を活かした交流事業など、小さな取組を積み重ねることで、村の魅力を内外に発信しています。
小さな村だからこそ、一人ひとりの顔が見え、互いの暮らしを支え合う関係が築かれています。その中で進められる丁寧な取組は、効率だけでは測れない「安心」や「信頼」を生み出し、地域の持続性を支える確かな基盤となっています。こうした「人に寄り添う村づくり」の延長線上にあるのが、青木村の情報基盤整備の取組です。中山間地域に位置する青木村では、これまでテレビ難視聴や災害時の情報伝達の難しさ、急激な高齢化の進行といった課題を抱えてきました。さらに近年では、スマートフォンやインターネットの急速な普及により、「使える人」と「使いにくい人」との間に情報格差が生じる懸念も高まっています。村ではこうした課題に正面から向き合い、「情報の格差を是正し、誰ひとり取り残さない」ことを強く意識した情報基盤づくりに取り組んできました。
平成23年には村が事業主体となり、全村に光ファイバー網(約50km)を整備し、情報通信サービス(IP告知端末)と放送サービス(テレビ)を開始しました。テレビ難視聴の解消や地上デジタル放送への対応とともに、旧有線放送電話時代から続く独自の情報通信サービスを展開してきました。これは単なる技術的整備にとどまらず、村独自の文化ともいえる、暮らしの安心を支える社会基盤としての意味を持つものでした。
しかし、整備から14年が経過する中で、機器の老朽化や通信ニーズの多様化、さらには近年の自然災害の頻発など、新たな課題や時代の変化への対応が求められるようになりました。
そこで村が掲げた基本理念は、
「村民誰ひとり取り残さない、平等できめ細やかな、災害等に強い新しい通信サービスの構築」でした。
令和5年7月には、新しい通信サービス構築にあたり、現在のサービスの利用状況や今後の方向性についてアンケートを実施し、722名からの回答が寄せられました。70歳以上の回答者からは従来型の電話機型IP告知端末の継続を強く望む声が多く、一方、若い世代では「スマートフォンと併用したい」「スマートフォンで情報が得られるならばIP告知端末は不要」との意見が多数を占めました。この結果は、世代によって異なるニーズがあること、そして一つの方法では全村のニーズに十分応えられないことを示していました。
こうした背景のもと構築されたのが、新たな情報基盤「あおきネットワーク」です。

村は、指名型プロポーザル方式により事業者を選定し、上田地域でケーブルテレビ・通信事業を展開する株式会社上田ケーブルビジョンの提案をもとに、公設民営方式により新たな情報基盤「あおきネットワーク」を構築しました。整備後は民間のノウハウを活かし、効率的かつ安定した管理・運営が行われています。
あおきネットワークがめざすものは明確です。

①あおき電話(通称:あお電)
60年以上続く有線放送電話の文化を継承しつつ進化した多機能IP告知端末です。定時のお知らせ放送、テレビ電話機能、スマートフォンとの連携、オンライン診療などに対応し、高齢者にも使いやすい設計となっています。村内限定で安心して利用できる点も特長です。

②あおきチャンネル(通称:あおチャン)
テレビを通じて生活情報や防災情報、村議会中継、イベント情報などを提供します。地区ごとの詳細な天気予報・地区回覧板の確認や道路・河川のライブカメラ映像など、自宅の居間にいながら必要な情報を確認できる安心感があります。
③緊急放送システム
災害時には役場からテレビを通じた一斉放送が可能であり、停電時への対策も講じることで確実な情報伝達を実現しています。平時には村議会中継を行い、行政・議会の透明性向上にも寄与しています。

④あおきナビ(通称:あおナビ)
スマートフォン向けの情報受信サービスであり、外出先や停電時でも利用可能です。若い世代や移住者にとって親和性が高く、現在約1,100名が登録しています。
⑤あおき安心スピーカー(通称:あおスピ)
避難所や区長宅に設置され、音声と文字の両方で情報を提供します。SIM通信により村内光ファイバー網が利用できない場合でも稼働し、停電時には乾電池で動作するなど、最後の情報伝達手段として重要な役割を担います。
⑥指定避難所への非常時Wi-Fi整備
村内19カ所の指定避難所すべてに災害時用Wi-Fiシステムを整備し、避難時においても情報収集が可能な環境を確保しています。
複数手段を組み合わせた全村規模の情報基盤としては先進的な取組であり、これらの仕組みは相互に補完し合い、利用者の状況に応じて最適な手段が選択されることで、あらゆる状況下でも情報が届く体制を構築しています。この重層的な仕組みこそが「やさしいネットワーク」の本質です。

あおきネットワークの最大の意義は「情報格差の是正」にあります。スマートフォンを使いこなせる人もいれば、操作に不安を感じる人もいます。視覚や聴覚への配慮が必要な方もおり、また停電や通信障害といった不測の事態も想定されます。こうした多様な状況に対応するため、複数の情報伝達手段を整備し、どのような環境においても情報が確実に届く体制を構築しています。これは単なるインフラ整備ではなく、「誰ひとり取り残さない」社会の実現に向けた社会基盤整備です。
あおきネットワークの整備により、村では行政・議会の可視化、回覧板のデジタル化、オンライン診療の導入など、さまざまな変化が生まれています。これらは特別な施策としてではなく、日常生活の中で自然に活用されることで進んでいます。デジタル化は目的ではなく手段であり、その先にあるのは安心で快適な暮らしの実現です。
青木村は、豊かな自然と人のつながりを大切にしながら、新しい技術を柔軟に取り入れています。小さな村だからこそ全体を見渡すことができ、顔の見える関係だからこそきめ細かな支援が可能です。そして多様な手段を用意することで、誰も取り残さない社会を実現しています。
あおきネットワークは、青木村のもう一つのライフラインです。安心で快適な情報環境を支えながら、「人にやさしいネットワーク」をめざし、これからも着実に歩みを進めてまいります。小さな村から広がるこの挑戦は、やがて大きな安心となり、地域社会の未来へとつながっていきます。
総務企画課 事業推進室
塩澤 和宏