
▲浜厚真海岸に集うサーファー
北海道厚真町
3354号(2026年3月23日)
北海道厚真町
地方創生担当理事 大坪 秀幸
北海道屈指のサーフスポットとして知られる厚真町。太平洋に面し、工業都市・苫小牧市の東隣に位置するこの町には、豊かな森林と田園風景が広がっています。
基幹産業は農業ですが、「北海道=豪雪寒冷」というイメージに反して積雪量は少なく、四季を通じて過ごしやすい気候が特徴です。
交通のアクセスにも恵まれています。北海道の空の玄関口である「新千歳空港」までは車で約30分。町内に位置する苫小牧港東港、および隣接する西港からは、本州主要都市へ向かうフェリーが就航しています。さらに日高自動車道「厚真インター」を利用すれば、道都・札幌市をはじめ、道内各地へスムーズに移動可能です。陸・海・空すべてのアクセスにおいて高い利便性を誇ります。
今回は、この人口約4,200人の小規模自治体が、「人」にスポットを当てて挑む、町の未来をかけた取組を紹介します。
人口減少、少子高齢化、担い手不足。これらは全国の小規模自治体に共通する現実であり、厚真町も例外ではありません。
しかし、「人が減るから地域が縮む」と悲観するだけで良いのでしょうか。地域の価値は人口規模だけで決まるものではありません。暮らしの手触り、豊かな自然資本、食やエネルギー、そしてコミュニティの結びつき。こうした「地域の資産」をどう磨き、次の世代へ手渡ししていくかが問われています。
私たちが考える「持続可能なまちづくり」とは、単に事業を増やしたり、一過性のイベントで賑わいを作ったりすることではありません。地域が自走する仕組みをつくり、関係人口を育て、暮らしと仕事が循環する状態を積み上げていくことです。
その中心にあるのが、10年目を迎えた「ローカルベンチャースクール」と、令和7年度より本格始動した「二地域居住」の取組です。

「厚真町ローカルベンチャースクール」は、本町を拠点に起業をめざす人材を発掘・応援するプログラムです。
地方の起業支援は、しばしば「雇用創出」や「空き店舗活用」などの文脈で語られます。しかし、私たちのめざす価値はそれにとどまりません。最大の意義は、地域課題を「誰かが解決してくれるもの」から、「自分たちが事業として解決できるもの」へと捉え直す点にあります。
“善意”だけに頼るのではなく、課題解決をビジネスとして成立させ、利益と社会的価値を両立させる。そうして地域に必要な機能を着実に実装していくのです。
もちろん、地方での起業には市場規模の小ささや資金調達の難しさといった壁があります。
一方で、顔の見える関係性、豊富な一次産業資源、そして地域の暮らしの中で素早く仮説検証できるという強みもあります。最初は小さくとも、改善を重ねながら持続可能な形へ育てていける余地が大きいのです。
この地域特性を前提に、町が挑戦者の「夢」と「思い」を共有し、ともに事業を育てる場。それがローカルベンチャースクールです。
スタートから今年で10年目を迎え、これまでに全国各地から多くの挑戦者が集まり、町内で20名以上の起業家が誕生しました。
地域おこし協力隊(起業型)の選考会を兼ねていますが、本質は、「一人ひとりの挑戦が地域と出会い、双方の可能性を開く場」です。審査では、行政、地域事業者、金融機関、企業家など10名以上のメンターが同じテーブルを囲み、以下の「4つの約束事(グランドルール)」のもとで対話を重ねます。
『次の一歩をどう踏み出すかを一緒に考える』
採択・不採択の結果にかかわらず、次の行動につながる可能性を大切にします。
『その人の挑戦が自分軸につながっているかを確かめる』
外からの期待や正解ではなく、自分自身の内なる衝動から生まれた挑戦であるかを見つめます。
『成功しそうかより、失敗を意味ある経験にできるかを見る』
失敗を学びに変え、次の行動の糧にできるかを問いかけます。
合否を超えて「挑戦して良かった」「語って良かった」と思える経験を提供すること。このプロセス自体が、まちに「挑戦する文化」を根付かせています。
実際に、町内では今までになかったビジネスや、新しい人の流れ、文化が着実に芽生えています。
ここで、町内で新たに生まれた特徴的なローカルベンチャーたちを紹介します。

森と生きる
地域材を活用した製材と暮らしの提案(株式会社 木の種社)
「地域にある資源でやっていく」「森を引き継ぎ将来に残す」「木を活かす技術を残す」の3つをテーマに、町内にある木で持続可能でちょっと楽しい暮らしを提供する製材所
食を届ける
地域をつなぐ
このほかにも、フランス人のパン職人、厚真町特産ハスカップのビネガー製造、自ら輸入したコーヒーの焙煎、町内産木材を利用した木材加工、NGOからの燻製職人、渓流釣りガイド、サラブレッド販売情報サイト運営、アートデザイナー、個人貿易商、映像カメラマン、ドローンでの森林管理…etc、多くのプレーヤーが活躍しています。
ローカルベンチャーで培った土壌を活かし、厚真町が新たに推進するのが「二地域居住」です。
これは、都市と地方など複数の拠点を行き来するライフスタイルを普及させ、地域の活力維持と、個人の豊かな暮らしの両立をめざすものです。
しかし、これらはあくまでも手段です。
厚真町における二地域居住は、単なる都市と地方の往来ではありません。町での労働・消費・投資を通じて貢献してくれる人々を「活躍人口」と定義しました。場所にとらわれない働き方・暮らし方を提供し、その結果として新しい価値観やビジネスが生まれ、地域の活性化につながることをめざしています。
この推進において最大の鍵となるのが、前述のローカルベンチャーに代表される「多様で多彩な人材」です。現在、本町には「人が人を呼ぶ」好循環が生まれており、彼らの存在が新しい人々を惹きつける磁力となっています。
また、国の制度(地域活性化起業人)を活用した副業人材を「活躍人口」として積極的に受け入れており、行政に足りていない部分を、民間企業の持つスキルを借りて課題解決を図っています。

令和8年度には、町と民間企業の共同出資による『(仮称)まちづくり会社』の設立を予定しています。新会社では、コンシェルジュ機能や関連施設の運営・管理、空き家の活用などを担い、二地域居住希望者のニーズに迅速に応える体制を構築します。
私たちが何気なく見過ごしている日常風景、農家の営み、そしてローカルベンチャーの熱気。これらを都会の人たちにとっての「価値ある素材」として再定義し、地域課題解決に資する持続可能なビジネスモデルへと昇華させていきます。
厚真町はこれからも、挑戦者と共に「変化」を楽しみ、しなやかに進化するまちづくりを続けていきます。
北海道厚真町
地方創生担当 理事 大坪 秀幸