
▲レザーリーフファン圃場
鹿児島県南種子町
3350号(2026年2月23日)
鹿児島県南種子町 総合農政課
南種子町は、鹿児島港から高速船で95分、鹿児島市から海を隔てて南へ153km、種子島(1市2町、西之表市、中種子町、南種子町)の南部に位置し、東西南の三方が海に面し、北は中種子町に接しています。
東西10.8km、南北12㎞、総面積110.36km²、起伏の多い丘陵地帯で中央部は、海抜約200m、中央から西側にかけては、褐色森林土、黒ボク土の畑地帯が広がり、東南側には、河川が多く水田地帯が広がっています。
亜熱帯気候で、年間平均気温18.8℃、年間降水量3056mm(種子島平均より711mm多い)、年間日照量1491時間(種子島平均より313時間少ない)、沿岸部は一年中ほとんど霜が降りません。
1543年の鉄砲伝来と国内で唯一の大型ロケット打上施設「JAXA種子島宇宙センター」(昭和40年着工)は海岸線に面し、世界一美しいロケット発射場といわれており、過去と未来が共存する町です。
宇宙開発は、毎年進歩をとげH2A・H2B打ち上げの成功は、国際的にも大きな信頼性につながり、人工衛星(気象観測・放送・通信・GPS全地球測位システム)、宇宙ステーションへの物資輸送など、宇宙には無限の可能性があり、日本の新しい基幹ロケットH3ロケットを含め、大きな夢と希望を育みつつあります。
南種子町の農業は、昔から地域経済を支える基幹産業であり、豊かな農村風景や大自然を守りながら、多面的な機能を果たしてきました。
現在、農地面積は約1920haで、西側の畑地帯ではサトウキビ、安納いも、茶、ガジュツ、タバコ、畜産業などが盛んです。
一方、南東側には広大な水田が広がり、「日本一早いコシヒカリ」などの早期水稲やポンカン・タンカン、パッションフルーツといった果樹、さらにレザーリーフファンやドラセナなどの花き栽培が行われています。温暖な気候と広大な農地を活かし、多様な農産物が生産されていることが本町の特色です。
しかしながら、農業分野ではいくつかの課題があります。規模の拡大を図る農家がある一方で、小規模の兼業農家が多く、高齢化の進展や農業従事者の減少、後継者不足、離農者の増加といった問題が深刻化しています。その結果、条件の悪い農地では耕作放棄地や遊休農地が増加し、農業所得が低迷するといった課題も浮上しています。
こうした状況を改善するため、本町では優良農地の確保や生産基盤の整備を推進するとともに、農業経営の法人化、地域計画の策定、地域ぐるみの活動を進めています。また、土づくりを基本とした生産力向上や有機農業の推進、さらに地域特産作物の導入により、地域の活性化に取り組んでいます。

南種子町では、令和5年度に策定した「南種子町デジタル田園都市国家構想総合戦略」において、第1次産業(特に農業)就業者の高齢化、若年層の就業者の減少による今後の衰退を重要な課題として捉えており、令和7年度から農業の将来を担う後継者や新規就農者を支援するため、「農業情報プラットフォームを活用した地域課題解決事業」を始めました。
この事業は、環境情報モニタリングセンサー(IoT)とクラウド上のアプリケーションとで構成される「農業情報プラットフォーム」を構築するものです。
具体的には、レザーリーフファンなどの圃場に温度・湿度・日射量・土壌温度・土壌体積含水率等、さまざまな計測が可能な機器(e-kakashi)を設置し、設置した機器により、地域のベテラン生産者や他生産者の圃場の環境データと栽培管理記録を収集し、集められた情報を植物科学の観点で整理・分析・解析、得られた知見を高度な営農情報として提供することで、後継者や新規就農者でも作業適期を逃すことなく対処できる生産環境を構築するものです。
その結果、生産者は現状の状況や改善ポイントを容易に把握でき、「今、何をするべきか」という栽培判断に役立てることができます。これにより、科学的で安定的な栽培計画が可能となり、収量と品質向上を実現し、農業経営の「儲かる」基盤を確実に強化します。また、病気や害虫の兆候を早期に検知し対策することで、リスクを抑え、安定した生産を可能にします。
なお、本取組は農業のみならず、脱炭素社会における地域と教育SDGsの観点から、小学生にも理解してもらうため、特別授業を合わせて行っています。
今年度は、30か所の圃場に機器を設置し、環境データの取得を行っています。特に、「種子島レザーリーフファン」は、花きで初めて「かごしまブランド」に指定、令和6年3月には地理的表示保護制度(GI保護制度)にも登録され、国内最大の出荷量を誇り、ほぼ一年中出荷されています。一般的にフラワーアレンジメントに使用されることが多く、贈り物や冠婚葬祭などで需要があります。種子島レザーリーフファンは、緑の葉が美しく、弾力性に富み、長持ちすると評判です。温暖な気候と島全体が火山灰に由来する酸性土壌であることから、酸性土壌を好むレザーリーフファンの栽培に適した自然条件を活かし、地域に根差した取組を展開しています。

定期的なワークショップを開催することで収集したデータの使い方を理解していただき、分析結果や対応策を共有しています。
レザーリーフファンのワークショップでは、各圃場の多くのデータが蓄積されていることが改めて共有されました。また、生産者の皆さまが日頃感じている疑問や工夫について発表がありました。
例えば、水分量の数値がどのような状態を示しているのか、遮光資材の使い方によって日射がどう変わるのか、ハウスの向きや風の通りが生育に関係しているのかなど、普段はそれぞれの圃場で完結している気づきが、データと一緒に共有されました。
データが示す傾向と、長年の経験から感じてきた感覚が重なる場面も多く、生産者の皆さまが自分の圃場を思い浮かべながら耳を傾ける姿が印象的でした。特に、空気の流れが光合成に影響するという話題では、受託事業者であるグリーン株式会社が他地域で経験してきた改善事例を紹介し、送風を工夫するだけでも株の状態が変わったことを伝えたところ、生産者の皆さまから強い関心を寄せられ、数値だけではとらえにくい栽培の変化が具体的に共有されるきっかけになりました。
こうした対話を通じて、データの見方だけでなく、環境を整えるための考え方が参加者のなかで自然と深まり、データと現場の知識が同じテーブルに並ぶ場が少しずつ形づくられていきました。
レザーリーフファンには、生育に適した温度や湿度、土壌水分、日射量といった理想的な環境がありますが、栽培の現場でそれらを完全に再現することは容易ではありません。ワークショップでは、夏から秋にかけて記録された環境データを生産者の皆さまと見返し、各圃場でどのような違いが生まれているのかを丁寧にたどりました。
分析から見えてきたのは、環境の数値が理想に近いかどうかよりも、日々の変化がどれだけ緩やかに保たれているかが生育に影響していそうだという点です。例えば潅水のタイミングや量が整っている圃場では株の状態が安定しており、温度や日射についても、急な変化を避けることで余計な負担を減らせることが分かりました。
理想通りに管理することは難しくても、環境の変化をゆっくりにしてあげることでストレスを軽減し、収量や品質の向上につながる。そのことがデータで確かめられたことは、生産者の経験と科学が自然に重なり合った大きな成果だったといえます。
今後は、遮光資材の使い方や季節ごとの扱い、換気や潅水の方法など、日々の管理に関する情報も整理しながら、環境の変化が生育にどう影響しているのかをより立体的に捉えていく予定です。冬のデータが加われば、レザーリーフファンにとって重要となる低温環境への対応も詳しく見えてくると期待しています。

南種子町立平山小学校では、平山のフルーツパプリカを南種子町全体に広めて、おいしさを伝えたいとの思いから、学校の温室を活用した「平山フルーツパプリカプロジェクト」に取り組んでいます。
受託事業者であるグリーン株式会社を講師に招いて行った出前授業では、データモニタリングの仕組みや、ICTによって変わりつつある農業の姿を小学生にも分かりやすく紹介され、子どもたちは、真剣な表情で耳を傾けながら未来の農業に触れ、自分たちの「食」についても考える貴重な時間を過ごしました。出題されたクイズにも、児童の皆さんは興味津々で積極的に回答していました。
また、温室で栽培しているフルーツパプリカでは、夏休みの間に一部の株が枯れてしまう、思うように収穫量が上がらない、などの課題にぶつかりました。児童の皆さんは「どうすればもっと上手に育てられるのか」と話し合うようになり、課題を解決するため、講師として、e-kakashiを活用した科学的な栽培を実践している株式会社シーズファームの方々にもお越しいただき、栽培方法の説明をいただきました。
これまでは「土が湿っていなかったら水をあげる」「雨の日は水をあげない」といった感覚的な方法で水やりをしていたり、夏季は室温の管理が不足していたようです。授業ではデータを確認し、水をあげすぎていたことや、温室内の気温が32℃を超える時間帯が多かったことなど、データを通して科学的に対策を立てられることに気づきました。また、環境と生育は密接に関係していることを学び、データを活用することの意味を実感するきっかけとなりました。
子どもたちのなかに、「データを使って解決案を考える」という新しい姿勢が芽生え始めています。
多品目栽培に取り組む株式会社シーズファームでは、フルーツパプリカの栽培において、e-kakashiのデータ活用により、高温や害虫被害が深刻だった2025年度においても、反収で前年比125%を達成する見込みです。
南種子町の取組は始まったばかりですが、初年度からすでに具体的な改善点が見えてきたことは大きな前進です。環境の変化を穏やかに保つことが収量や品質に結びつく傾向がデータから確認され、生産者の皆さまがすぐに実践できる視点として共有されました。経験とデータの両方をよりどころに、地域の栽培技術がこれからさらに確かなものになっていく手応えが生まれています。
鹿児島県南種子町 総合農政課