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山梨県身延町/住民が活躍し、自ら進めるまちづくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2025年8月4日更新

旧千円札に描かれた本栖湖の「逆さ富士」

▲旧千円札に描かれた本栖湖の「逆さ富士」アニメ『ゆるキャン△』はこの場所から始まりました


山梨県身延町

3328号(2025年8月4日)
身延町企画政策課
高野 修


  1. 身延町の概要
  2. 特色あるまちづくり
  3. あけぼの大豆×6次産業化事業
  4. 「五条ヶ丘活性化推進協議会」地域住民による新たな取組
  5. 団体間連携への波及

1.身延町の概要

日本三大急流富士川を中心に山々に囲まれた身延町

 身延町は、山梨県の南部に位置し、町の中央を南北に流れる日本三大急流のひとつ富士川を中心に周囲を急峻な山々が連なり、富士川とその支流沿いに農地と集落が点在する中山間地です。

 総面積301.98km²のうち森林が町の約8割を占め、人口は9,470人(令和7年7月1日現在:住民基本台帳)豊かな自然と歴史・文化を背景に、多彩な魅力・資源にあふれた観光の町でもあります。甲府市と静岡市のちょうど中間に位置し、主要な交通手段であるJR身延線と令和3年に東名高速道路と中央自動車道を南北に連結する中部横断自動車道(南部区間)が全線開通してからは、首都圏からのアクセスも格段に向上し、来訪者も増えつつあります。

日蓮宗総本山の身延山久遠寺

 身延山久遠寺は、日蓮宗総本山として750年にわたり人々の信仰を集めてきた聖地であります。連綿と紡いできた歴史と文化が色濃く残り、奥深い山峡に築かれた荘厳な仏閣の規模感に驚かれる方も多く、樹齢400年と云われるしだれ桜をはじめとした四季折々の風情が楽しめるパワースポットとして、通年観光客が訪れております。

 戦国武将武田信玄公が、兵士たちの戦の傷を癒したとされる下部温泉郷は、国民保養温泉地に指定されるなど湯治に定評のある名湯で、美容効果もあるアルカリ単純泉は根強い人気を誇っています。また甲斐の国の経済を支えた金山遺跡を今に伝える博物館もあり、レトロな雰囲気が味わえる温泉郷です。

 富士山世界文化遺産の構成資産であり、誰もが知る富士五湖のひとつでありながら、手つかずの自然が色濃く残る本栖湖は、屈指の透明度を誇り、旧千円札に描かれた「逆さ富士」がみられる絶景のビュースポットです。キャンプ、ウォータースポーツのアクティビティに加えて、アニメ『ゆるキャン△』の舞台としてさらに多くの人が訪れるようになりました。

2.特色あるまちづくり

子どもの夢を叶えるプロジェクト「しだれ桜の里」

 平成16年9月に平成の大合併により現在の身延町となり、直後の平成17年に実施された国勢調査において16,334人だった人口は、令和2年には10,663人と大幅に減少し、少子高齢化と人口減少が進行するなか、平成27年に「身延町まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、未来へとつなげる具体的な取組を、特色あるさまざまなアクションにより推進しております。

町公式マスコットキャラクター「みのワン」

 町では、将来を担うこどもたちを育むための施策を積極的に行っています。毎年、小中高校生と町長との座談会を開催し、こどもたちのひらめきや発想力から、町政に関するさまざまな提案をいただく「子どもの『夢』を叶えるプロジェクト」を進めており、先ずは高校生の「町全体を『しだれ桜の里』にしたい」との発想から、身延町の観光を代表する「しだれ桜」で町の魅力アップを図るべく、富士川クラフトパークに5千本以上植樹し、自治会への配布を含めて年々華やかさを増してきました。また、町民が親しみをもてる町の歌の制作、マスコットキャラクター「みのワン」の誕生、さらに中学校生徒会を「身延町観光大使」に任命して中学生が観光PRに携わるなど、こどもたちの発想の実現や町政への参画により郷土愛を醸成しております。

 次に、「子育てしやすいまちナンバー1」をめざして、早くから子育て支援に力を入れてきました。保育所利用料、給食費、修学旅行費、補助教材、校外学習費、各種検定料等、乳幼児期から学齢期にかかるあらゆる負担を無償化するとともに、出産、入園、入学といったそれぞれのステージアップの際にも祝金等を支給しております。さらに18歳まで医療機関での診療費自己負担額を全額助成するなど、保護者の負担軽減により安心して子育てできる環境づくりに取り組んでおります。

3.あけぼの大豆×6次産業化事業

左:あけぼの大豆の枝豆 右:あけぼの大豆

 町の活性化事業のひとつとして、大きくて甘みの強い特性をもつ「あけぼの大豆」に着目し、『身延町特産「あけぼの大豆」でまちおこし事業』に取り組んでおります。

 あけぼの大豆の発祥の地である曙地区は、傾斜地が多く礫交じりのおよそ農業に適した土地とはいえない厳しい地域ですが、水はけがよい土壌と、昼夜の寒暖差があり霧が多く発生する気象条件等、良質な大豆が育つ風土でもありました。しかしながら不利な耕作条件と耕作者の減少から、生産・流通量が少なく「幻の大豆」と云われておりました。

 その特徴は、粒の大きさと甘みの強さは通常の大豆の約1・5倍で、枝豆が10月、大豆が12月に収穫される極晩成品種です。穀物類である大豆は醤油、味噌、豆腐等私たちの食生活に欠かせない食材ですが、消費者に美味しさがダイレクトに伝わる枝豆に対して、あけぼの大豆の特徴、美味しさを伝えるためには加工して届ける必要があり、生産×加工×販売を掛け合わせた6次産業化事業により、品質の保持・継承、生産安定、販路拡大を図り、地域に根ざした雇用の創出、あけぼの大豆のブランド向上、ひいては生産者の所得向上をめざすこととしました。

あけぼの大豆は6次産業化によりさまざまな加工品に

 事業の効果は順調に現れ、事業開始から現在までの10年間で、作付面積は約1.5倍に、枝豆の販売単価はほぼ2倍に増加しました。皇位継承の重要儀式「大嘗祭」へ供納、山梨県の農林産物として唯一の地理的表示(GI)制度の登録により、そのブランドが認知され山梨を代表する農産物のひとつとなりました。山梨県内だけでなく近隣都県からも買い求める消費者が年々増加しており、次第に知名度とブランド力の高さは広まりつつあります。大豆の栽培を目的とした移住者の増加や、耕作放棄地の解消等、さまざまな効果がありますが、何より生産者自身が「あけぼの大豆」の価値を再認識できたことが最大の収穫です。

 6次産業化によるそれぞれの業種において、町民の主体的な営みのうえに行政がサポートを加えることで、今後も農業振興はもちろん、経済効果、地域づくりに大きく貢献することが期待されます。

4.「五条ヶ丘活性化推進協議会」地域住民による新たな取組

左:協議会が主催する校庭キャンプ 右:校庭キャンプでは毎回趣向を凝らしたイベント等を開催

 アニメ『ゆるキャン△』において身延町が取り上げられたことは、地域の活性化及び観光振興に大きく貢献しています。『ゆるキャン△』を契機として身延町を知った方も少なくなく、多くの観光客が町を訪れるようになり、地域全体に新たな活気が生まれています。

 本栖湖畔でのキャンプから始まるこの作品は、冒頭の旧千円札に描かれた本栖湖の「逆さ富士」をはじめとする作中に登場する実在のスポットは、現実にある自然景色等を、写実的・美麗的に表現されており、いわゆる“聖地巡礼”の対象としてアニメファンの間で広く知られるようになり、身延町が有する自然の美しさや文化的背景が改めて評価されています。また日本全国のみならずインバウンドも増え続けており、今後もこの流れを維持・発展させ、地域振興へとつなげていくことが期待されています。

 平成30年に小中学校の学校再編成により、町内の小中学校合わせて11校から4校へ統合されました。『ゆるキャン△』の舞台となった旧下部中学校(作画では本栖高校)も平成28年に廃校となり、この地域には文教施設が全てなくなったことで、深刻な活力低下が懸念される状況となりました。

 こうしたなか平成30年4月に五条ヶ丘活性化推進協議会(以下、協議会)が設立されました。30~40歳台の地域の卒業生や住民等約20名が中心となり、地域再生に向けた活動を展開しておりますが、ここで着目したのがアニメ『ゆるキャン△』です。作品の舞台となったこの地域にファンを呼び込もうと、廃校となった学校の校庭を活用した「校庭キャンプ」のほか、地域住民を巻き込んだ多種多様な取組を行っております。「校庭キャンプ」は、これまでに70回以上に及び、その都度、防災、地域コンテンツとのタイアップなど、さまざまなテーマや新たな体験を提供するなど趣向を凝らしたイベントとなっており、さらにアニメ『ゆるキャン△』に関連した誕生日会や文化祭等も開催し、町内外から関係者を巻き込んだ多彩な活動となっております。

地域を散策しやすいように案内看板を設置

 地域住民の協力も欠かせません。地域の魅力をより多くの人々に伝えるため、案内看板の設置や手作り地図の配布に加え、来訪者に対して住民から積極的な声かけをするなど、増加する来訪者に向けて地域住民が「おもてなしの心」で受け入れております。これらは老若男女問わず地域一体で取り組み、それが住民の自信と誇りの醸成にもつながっています。

 こうした活動が評価され、令和4年度過疎地域持続的発展優良事例表彰を受賞されました。

5.団体間連携への波及

左:五条ヶ丘活性化推進協議会のメンバー 右:本栖高校では文化祭、誕生会等、参加者が楽しめるさまざま なイベントを開催

 地域社会が直面する課題には、少子高齢化、過疎化、経済の停滞等、複雑かつ多岐にわたるものがあります。これらの課題に対して、自治体、企業、NPO等、異なる立場の団体が連携し、それぞれの強みを活かして取り組むことが求められます。各団体が保有するリソースや専門性を相互に補完し合うことで、単独では実現が難しい成果を生み出すことができます。

みのぶ『ゆるキャン△』ふるさとまつり

 令和5年度に当協議会を含む町内の複数の団体で構成する「身延ニューツーリズム協議会」が設立されました。主催事業の「『ゆるキャン△』ふるさとまつり」では、校庭キャンプ、声優によるトークショーを開催したところ、2回目となる今年度は、2日間で5,000人を超える来場者を集め、地元産業の紹介や観光スポット等身延町の魅力を発信する機会となり、来場者と地域住民ともに楽しめるイベントとなりました。

 このように住民主体によるイベントや取組、団体間の連携によるプロジェクトは、『ゆるキャン△』以外においても徐々に増えてきております。

 こうした動きは、行政主導ではなく町民が主体となって運営を担っている点が最も重要なポイントです。地域活動を通じて地域リーダーの育成や発掘が進められ、地域を担う人材の確保や人の流れの創出、経済の活性化等、持続可能なまちづくりに大きく寄与しており、地域再生に向けた先進的なモデルが構築されているともいえます。もちろん行政の理解と関わりは必要で、依存しすぎないパートナーとして、ともに連携し官民協働のまちづくりを進めていきます。


山梨県身延町
企画政策課 高野 修