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長野県飯綱町/飯綱町における廃校活用の取組「いいづなコネクト」について ー官民さまざまな主体が共同して廃校を地域づくりの拠点にー

印刷用ページを表示する 掲載日:2025年6月23日更新

廃校になった2つの小学校の跡地にできた複合施設「いいづなコネクト」

▲廃校になった2つの小学校の跡地にできた複合施設「いいづなコネクト」


長野県飯綱町

3323号(2025年6月23日)
全国町村会 前次長(政務担当)
角田 秀夫


  1. はじめに
  2. 廃校活用の経緯
  3. 飯綱町による施設整備
  4. いいづなコネクトEASTの概要
  5. いいづなコネクトWESTの概要
  6. 株式会社カンマッセいいづなについて
  7. いいづなコネクト設置後の効果

1.はじめに

 近年、各地で、生徒児童数の減少により、小学校や中学校の統廃合が進んでいます。

 このため、廃校となった学校の施設をいかに活用していくかが大きな課題となっていますが、長野県飯綱町では、地域住民、町、地域おこし協力隊、民間企業や新たに設立されたまちづくり会社等が共同し、地域づくりの拠点として生まれ変わらせる取組が行われています。

 長野県飯綱町は、長野県北部、長野市の北に位置する人口約1万人の町です。東京から新幹線で長野駅まで約90分、長野駅から車で約30分、電車で約20分と交通の利便性は非常に高い場所にあります。町の産業は主に農業で、りんご、米、桃、そば等が多く栽培されていますが、特にりんごは50種以上の多様なりんごが栽培されていて、ジュース、シードルやジャム等の加工品を含めて特産品となっており、ふるさと納税の返礼品としても人気となっています。また、飯縄山のふもとの飯綱東高原ではスキー場、ゴルフ場、キャンプ場等のアクティビティ施設を活用した観光も盛んな町となっています。

2.廃校活用の経緯

いいづなコネクト設置までの経緯

 飯綱町でも少子高齢化の進行により小学生数が減少し、複式学級となる可能性があるなど、こどもの教育に大きな影響があることが懸念されたため、2011年に「飯綱町教育環境あり方検討委員会」で議論を開始し、2013年「飯綱町小学校統廃合検討委員会」において、2018年3月に三水地区の第一小学校と第二小学校、牟礼地区の東小学校と西小学校をそれぞれ統合し、三水小学校と牟礼小学校とし、町内の4校の小学校を2校とする方針が決定されました。

 閉校となる地区では、これまで地域の交流の場であった小学校がなくなってしまうことから、閉校後の校舎を地域の交流拠点として利活用していくために地域住民と共働で検討するプロジェクトチームが設立されました。旧三水第二小学校区では「赤東未来創造プロジェクト」、旧牟礼西小学校では「高岡地区活性化109委員会」が組織され、男女比率を考慮したうえで20代から70代までの幅広い年齢層の住民が参加しました。

 検討の結果、旧三水第二小学校区では「しごとの創業・交流拠点」としてインキュベーション・イノベーション(創業や起業を支援する施設)機能をメインとした多世代交流型の施設とする「赤東みらい創造プラン」を策定し、2016年に町に提出されました。また、旧牟礼西小学校区では「体験滞在型の都市交流等の拠点」として「自然」・「スポーツ」・「健康」をメインとした多様な人々等との交流人口創出型の施設とする「高岡地区活性化プラン」を策定し、2017年に町に提言書が提出されました。検討過程では、各教室の具体的な用途を決定する意見もありましたが、将来的な柔軟性を確保するため、建物全体のコンセプトを提言する方針となり「地域内外の多世代の人々による交流拠点」とすることが提言されました。

3.飯綱町による施設整備

いいづなコネクトのご案内

 これらの提言を受けて町では、具体的プランを策定し、2018年から地方創生推進交付金を活用し、町の活性化拠点として、廃校舎の整備と運営体制づくりを進めることを決定しました。施設の愛称を公募し、旧三水第二小学校を「いいづなコネクトEAST」、旧牟礼西小学校を「いいづなコネクトWEST」とすることが決定されました。また、まちづくり会社の「株式会社カンマッセいいづな」を設立し、指定管理者とすることとなりました。

4.いいづなコネクトEASTの概要

いいづなコネクトEAST

 いいづなコネクトEASTは2020年(令和2年)7月に「食・農・しごと創り」をテーマとした複合施設としてオープンしました。設置目的としては、近隣地域や都市圏との交流を促進するため、プロフェッショナル人材の地方還流、「しごと創り」を促すような学びのプログラムとともに、地域内外の幅広い人々と自由に交流・創発が起こるような拠点を整備することで企業や雇用を地方へと促すことを進めるというものです。

 そのリニューアルの総事業費は、約3億2500万円で、地方創生推進交付金が活用されました。

 施設は3階建てで、旧教室等をうまく活用し、さまざまな機能が付加されています。1階は、食をテーマとし、食堂や地元の林檎を活かしたアップルパイ等のスイーツも提供する「泉が丘喫茶室」があり、コミュニティラウンジやブックラウンジも設けられ、地元住民と来訪者の交流の場となっています。また、林檎を醸造しシードルとするその名も「林檎学校醸造所」とその直営ショップの「RINGOTO」もテナントとして入っています。

 2階・3階は「しごと創り」をテーマとし、創業支援や各種イベントの場となる「ツクリバLABO」、「ツクリバLOUNGE」、「ツクリバWORK ROOM」があり、テレワークスペースの「ツクリバOFFICE」も設けられました。また、それ以外の場所はテナントを入れており、東京の企業のサテライトオフィスも入居しています。テナントとして入居したTOPPAN株式会社は、飯綱町の廃校活用に初期段階から関わっており、ICT部門のサテライトオフィスを設け、地域と共同して地域活性化に取り組んでいます。

 また、体育館にはトレーニングマシンのおかれたパワーリハビリテーションルームと児童クラブが設置されています。

 いいづなコネクトEASTの核となっているのが「ツクリバ」の活動です。ツクリバは『自分を活かしたしごとを作る場』であり、自分の好きを活かして地域にいいしごとをつくるサポートとして、企画の相談などを行っています。また、「しごとの学校」として「小商い講座」等自分の好きを仕事としていくための講座やデザイン等しごと創りに必要なスキルを学ぶ講座などさまざまな講座が行われています。その運営には指定管理者となっている「カンマッセいいづな」と常駐する地域おこし協力隊が携わっています。

 また、2024年には、いいづなコネクトEASTの施設も活用し、JR東日本、アシックス、奈良県立医科大等産学官が連携し、「農業」、「スポーツ」、「移動」、「デジタル」をテーマに首都圏に居住する人にモニターとなってもらい、飯綱町で農業体験をしてもらうツアーを開催し、地域共創の実証実験を実施し、関係人口の拡大を図る事業も実施されました。また、いいづなコネクトEASTでは、施設全体を使用したイベントも開催され、「いいコネ夏マルシェ」、「こどもXmasマルシェ」等いいづなコネクト主催のイベントのほか、外部団体やテナントとして入居している企業等の主催するイベントも実施され、地域内外から多数の来客が訪れ、利用が進んでいます。

5.いいづなコネクトWESTの概要

いいづなコネクトWEST

 いいづなコネクトWESTは2021年(令和3年)に「自然・スポーツ・健康」をテーマとした複合施設として全館オープンしました。町の魅力である自然の中での豊かな暮らしや観光資源を最大の要素として位置づけ、自然・スポーツ・健康をテーマにさまざまな体験事業を展開し情報発信していくことで町への観光誘客や交流・関係人口増加につなげていくことを目的としています。WESTの整備には校舎本体を約2億5000万円で改修を行い、地方創生推進交付金等が活用されました。また、校庭を人工芝のサッカー場とし、1億5000万円で改修しましたが、これにはtoto助成金が活用されました。

 WESTの特色としてはサッカー場や体育館を利用して合宿等が実施できるよう校舎の3階を最大50名程度の収容可能な宿泊施設に改修しました。また、音楽室をスタジオに改修しヨガ、ダンス、体操等のレッスンも可能な場として整備しました。さらにトレーニングジムをテナントに入れ、「廃校フィットネスSent.」としてオープンさせました。

 さらに施設利用者だけでなく、町民も利用可能な食堂やコインランドリーも設置されました。そのほか、コワーキングスペースや会議室が設けられたほか、残りのスペースは貸室として地域で活動する企業等のテナントが入居しています。

 サッカー場は、いいづなパルセイロフィールドとして長野をホームタウンとするJリーグのプロサッカーチーム「AC長野パルセイロ」と連携し、共催でスポーツイベントを開催しています。

 WESTでは、スポーツ系のイベントが多く開催されています。また、合宿利用も増加しており、企業研修や卒業旅行、吹奏楽部の合宿等、多様な用途で利用されています。

6.株式会社カンマッセいいづなについて

飯綱町の未来のまちづくり

 いいづなコネクトの指定管理者となっている株式会社カンマッセいいづなは、廃校活用の方針決定委員会での議論を受け、町主導で設立が検討されました。最終的には、100%民間出資の会社として設立されました。いいづなコネクトの指定管理者となり、施設管理を行うほか、各種イベントの企画や両施設の食堂等の運営も行っています。また、飯綱町のふるさと納税の受託も行うほか、移住体験ツアーの実施等町からの事業受託を行っています。カンマッセとは北信地方の方言の「かんます(=かきまぜる)」からとったもので、古きと新しきを、地元民と移住者を、あらゆるものをかきまぜて、ともに私たちのまちを育てていこう、そんな思いを込めたものとのことです。従業員も事業拡大に伴って、地元出身者だけでなく、移住者も増えており、また、地域おこし協力隊とも連携して事業を実施しています。

 廃校活用を核としながら、しごと創りの支援等のソーシャルビジネスやまちづくりのための社会活動等、民間ならではの柔軟性を活かしながら飯綱町のまちづくりに貢献していることが感じられました。

7.いいづなコネクト設置後の効果

 いいづなコネクトEASTでは、来場者が増加傾向にあり、主催する講座等への参加者も増えています。また、企業と連携したイベントも実施され、長野県内でスーパー等を展開する綿半とも連携し「綿半まつり」を開催したところ2,500人を超える方々が来場しました。

 また、入居している企業が働く場となっているだけではなく、例えばTOPPAN ICT KOBOはICT技術を活かして地域づくりに関わるなどテナントとのつながりが現れ新しい動きとなってきています。

 いいづなコネクトWESTでは、スポーツ団体等の合宿により来訪者が増加するとともにAC長野パルセイロとの共催イベントの実施等によりスポーツ交流の場としての認知度を高めています。

 地方においては、各地で高齢化と人口減少が進み、地域の活性化を図ろうとしても、人材不足が避けられず、施設を整備したとしても町村職員のみでその運営を行っていくことは困難です。飯綱町では、両施設とも、管理・運営を新たに設立されたまちづくり会社の株式会社カンマッセいいづな、地域おこし協力隊、入居しているテナント企業をはじめとする民間企業とが共創して事業を行っていることが特徴であり、単に廃校の施設を利用するということにとどまらず、新たな交流と地域の活性化につながる施設となっていました。特にさまざまな講座やイベント等の企画をカンマッセいいづなが行うことにより、地域住民の交流の場としてだけでなく、町外からの来訪者の増加にも寄与しています。

 今後、さらに創業の場や関係人口とのつながりを深める場となり、地域振興の拠点となっていくことが期待されます。


全国町村会 前次長(政務担当)
角田 秀夫