▲清流「富田川 」と潜水橋
北海道小清水町
3317号(2025年4月21日)
和歌山県上富田町振興課
主事 木村 優斗
昭和33年の市町村合併で上富田町が誕生し60年あまり、人口は一度も減少することなく増加し続けています。上富田町にどうして人が集まるのでしょうか。当町が取り組んでいる地域活性化の取組についてご紹介いたします。
上富田町は、紀伊半島南西部に位置し、人口約15,500人の町です。熊野古道「中辺路」の入口で、町の中央部を清流富田川が流れており、年間平均気温18度と過ごしやすい気候となっています。総面積は約57km²とコンパクトで、自動車で20分かからず通り抜けることができます。
JR紀勢本線朝来駅から大阪市内まで約2時間30分、南紀白浜空港(熊野白浜リゾート空港)から東京まで約1時間の距離にあります。また、町内には近畿自動車道紀勢線の上富田ICがあるほか、国道42号線と国道311号線の分岐点にあり、交通輸送にも恵まれています。
さて、当町のまちづくりに上富田スポーツセンターを欠いて語ることはできません。明るく豊かなまちづくり、健康づくりをめざす「さわやか上富田・文化と健康づくり」事業の一環として建設されたのが上富田スポーツセンターです。総面積16 haを誇る広大な敷地には、野球場、屋内イベント広場、球技場(天然芝1面)、多目的グラウンド(人工芝1面、天然芝1面)、テニスコート、クラブハウス内にはシャワー付きの更衣室も完備しています。完成以降、Jリーグやラグビートップリーグ、実業団の野球チーム等の合宿を誘致し、合宿の合間に地域のこども向けのスポーツ教室を開催いただくチームもあり、地域のスポーツ振興を図っています。
平成29年には地域住民の健康増進施設である「スポーツサロン」をオープンしました。幅広い年齢層の町民からプロスポーツ選手も利用できるよう、最新のトレーニングマシーンに加え、体力測定や骨量測定器等も設け、楽しい雰囲気で自分に合った健康づくりができるようになっています。
さらに、同年に設立した一般社団法人「南紀ウエルネスツーリズム協議会」にスポーツセンターの運営業務を委託し、健康増進事業やスポーツ施設の管理・運営まで総括的な取組を加速させています。同法人は、旅行業法による旅行業の取扱いを受けており、施設の手配だけではなく、宿泊施設や食事等の旅程をすべて手配できることが強みです。また、広域的な合宿誘致にも力を入れています。たとえ、当施設で受入ができない場合でも、近隣の市町の施設を案内し、地域で合宿客を逃さない取組を行っています。
令和6年には、スポーツを通じた地域活性化をさらに推進するため、上富田スポーツセンターを拠点に活動している野球チームとサッカーチームとの間で協定を結びました。チームの拠点は町内に移転され、所属選手の多くは町内に転入するなど、働き世代の獲得にもつながりました。また、災害時には避難所運営のサポートを行うことや町のイベントにも積極的に参画することから、地域活性化の一助となることが期待できます。
上富田町は、令和3年に策定した第5次上富田町総合計画において、「地域スポーツの振興」「合宿等の誘致や大会の実施」「スポーツ施設の充実」を掲げ、「スポーツのまち上富田」としてのまちづくりを推進しています。 この取組の一環として、スポーツDXによる新たな地域コミュニティの活性化をめざすプロジェクト「マチスポ」を導入しました。
令和6年には、西日本電信電話株式会社および株式会社NTTSportictと包括連携協定を締結。「上富田スポーツセンター」の多目的グラウンドAコート(人工芝)と野球場に、AIカメラを搭載したスポーツDXソリューションを試験的に導入し実証を開始しました。
AIカメラは無人での自動撮影や編集機能を備えており、多目的グラウンドAコートには、サッカーやラグビー競技等を自動で撮影できるAIカメラを設置、野球場には、センター側とホーム側の映像を自動で切り替えることのできる野球専用AIカメラを設置しています。これらのカメラを活用することで、試合や練習の映像をリアルタイムで配信し、選手や指導者が映像を振り返ることで競技スキルの向上につながります。
さらに、オンラインコミュニティプラットフォーム「マチスポ上富田町ポータル」を開設し、地域住民や関係者が試合を観戦しながら応援メッセージを書き込むことができる環境を提供しています。これにより、地域コミュニティの輪が広がり、スポーツを通じた地域交流が促進されています。
マチスポ上富田町ポータルではこれまでに、全日本大学女子硬式野球選手権や、和歌山県高校野球秋季大会、独立リーグ和歌山ウェイブスの試合等さまざまな大会や試合を配信し、特定大会においては、約2,400人がライブ・アーカイブ視聴するなど広がりを見せています。
また、合宿や練習等で利用するチームへの映像提供を通じて、スポーツDXソリューションの効果検証を行っています。
マチスポ上富田町ポータル
▶https://web.spo.live/group/xf8heozubw
※iOS/Androidのスマホ専用アプリ「SpoLive」をダウンロードすることで、応援チャット等、全ての機能を利用できます。
「スポーツ・健康まちづくり」優良自治体表彰を受賞!
これらの取組が高く評価され、令和7年1月にはスポーツ庁が主催する「スポーツ・健康まちづくり」優良自治体表彰を受賞することができました。
「マチスポ上富田」は、スポーツDXを活用した地域活性化のモデルケースとして注目されており、今後の展開が期待されています。
上富田町はこれらの取組を通じて、地域スポーツ大会や試合、合宿等の発信力の強化、生涯スポーツの振興による地域コミュニティの活性化を図り、第5次上富田町総合計画を加速させています。
当町では平成29年に一般社団法人「紀州くちくまの未来創造機構」を立ち上げ、大人の社会塾「紀州くちくまの熱中小学校」を開校しました。「もういちど7歳の目で世界を…」を合言葉に、自分たちの新しい価値を発見すべく多くの方が学んでいます。学び舎でうまれた新たなつながりは、人材育成と新たな価値創造につながっています。
熱中小学校の部活動として始まった自転車ツーリズム事業は、広域的なコンテンツとして発展しつつあります。JR西日本による電車内への自転車持ち込みができるサイクルトレインの実施も追い風となり、知名度は少しずつ上がってきています。南紀熊野エリアを反時計回りで一周するサイクリングルートを設定し、自転車で紀南地方を周遊するツーリズムの確立を図っています。現在では、8市町と鉄道や航空会社等と一体となり、国内外からの交流人口の増加や地域の活性化をめざし取り組んでいます。
上富田町は、熊野古道中辺路の入口にあたることから「口熊野」と呼ばれてきました。平成28年に八上王子跡と稲葉根王子跡が世界文化遺産『紀伊山地の霊場と参詣道』に追加登録され、さらなる観光の取組を進めるきっかけとなりました。さらに令和5年には、稲葉根王子跡付近の河原に水垢離体験場を整備しました。水垢離とは、熊野古道の参詣時に富田川でかつて行われていた禊のことで、上皇や貴族達も徒歩で何回も川を渡っていたとされています。現在ではほとんど行われていませんが、本来の熊野詣を体験できる価値のある施設であると考えています。水垢離体験場を活かし、まだ知られていない熊野詣に対する人の流れをつくり、熊野古道の新たな主要ルートの1つとして確立することを目的としています。
施設を充実させることと同時に、それらの施設の歴史や魅力を伝えられる人材も充実することが求められます。そこで当町では、「口熊野かみとんだガイドの会」を中心に、熊野古道ガイドの育成に取り組んでいます。町を知り尽くした人材が充実し、町外の来訪者に町の魅力を伝えられることは、観光素材のリアリティを高めることはもちろんのこと、元気なひとづくりに直結します。また、上富田町観光協会を中心に構想が進んでいる「ひと」を活用した観光にも今後注目です。
さらに当町は、平成26年に日本ジオパークに認定された「南紀熊野ジオパーク」のエリアとなっており、町内に8カ所のジオサイトと呼ばれる見どころスポットがあります。その1つである「彦五郎堤防」では、30年以上前から8月の最終土曜日に「富田川友遊フェスティバル」が開催されています。約1,000発の花火の打ち上げや舞台イベントを通して町民の交流と憩いの催しとなっています。
ここまで、上富田町の取組を紹介させていただきました。行政にとどまらず、多くの企業や町民の皆さまと上富田を盛り上げていることを感じていただけたのではないでしょうか。
行政だけで自治体を運営することには限界があり、社会が複雑化・多様化する昨今、行政と民間それぞれの強みを活かして一緒にまちづくりを進めることが、人口減少の未来になお一層求められます。
当町では、上富田町まちづくり応援企業制度を令和5年度から開始しました。認定された企業は、企業紹介とCSR活動を町のWebサイトに掲載することで企業イメージや信用力の向上につながります。町としても、知識や技術が優れた企業からサポートが受けられることは住民サービスの向上につながり、双方にメリットのある制度となっています。
平常時には対応できることでも非常時では行政のキャパシティを超えてしまい、対応できない事態が想定されます。近い将来、南海トラフ巨大地震の発生が予想されるなか、平常時から町内でさまざまな分野で関わりを持ち続け、お互いの強みで補い合うことが重要となります。
「ひらいた」ひとつひとつの花を枯らすことなく、満開の花が「咲く」上富田をめざし、町と町民が一体となって「自立」「挑戦」「協働」のまちづくりを進めていきます。
和歌山県上富田町 振興課
主事 木村 優斗