▲木曽川河川敷に広がる 笠松みなと公園
岐阜県笠松町
3293号(2024年9月9日)
岐阜県笠松町長
古田 聖人
笠松町は、濃尾平野の北東部、岐阜県南西部に位置し、木曽川右岸に沿って帯状に広がっています。西に養老山脈と伊吹山、北には金華山、さらに晴れた日は遠く御岳山や白山が眺望できます。岐阜市、各務原市、羽島市、岐南町に隣接し、木曽川を隔てて愛知県一宮市とも接しており、岐阜県の玄関口としての役割を担ってきました。町の面積は10.3km²で、県内42市町村中3番目に小さく、その約3分の1を木曽川と河川敷が占めています。人口は約22,000人(令和6年6月現在)、県内でも有数の人口密集地になっています。人口規模は約30年間横ばいで推移しています。
当町の歴史を紐解くと、古くから水陸の交通の要衝として発展し、木曽川を通じて岐阜と名古屋を結ぶ重要な地でした。江戸時代には幕府直轄地・天領として美濃郡代笠松陣屋、明治維新後は笠松県が置かれ、明治6年3月に現在の岐阜市へ移庁するまで県政を執った岐阜県政発祥の地です。明治22年7月の町制施行により笠松町となり、その後、松枝村、下羽栗村と合併を経て、今日に至ります。令和10年には、町政140年を迎える岐阜県で最も古い町のひとつです。
笠松町では長い歴史の間に多くの文化や伝統芸能が育まれてきました。その代表格が県重要無形民俗文化財にも指定されている「奴(やっこ)行列」です。毎年4月の春まつりには、役場近くの本町通りから八幡神社、産霊神社まで行列を成して披露されます。「サアー・サヨンヤナアー、コラ・コラサーのサ」という独特の掛け声とともに鮮やかな手さばきで毛槍を投げ渡しながら練り歩く様子は見物客を魅了します。奴行列は、幕府直轄の陣屋が置かれていた経緯から郡代を大名と同格と考え、江戸時代後期から始まったという言い伝えがあります。
当町には、もうひとつ県重要無形民俗文化財に指定されている「芭蕉踊(ばしょうおどり)」があります。円城寺地区に江戸時代から伝わる雨乞いの踊りで、毎年8月22日の夜に秋葉神社で披露されています。二人一組で、一人は竹に紙を付けた芭蕉の葉に見立てた飾りを背負い、腹に太鼓を備え、もう一人はすり鉦(がね)を持ち、「ヤラー東西しずまれ唄おろそ あまりの日照りがかなしさに…」と唄いながら踊ります。現在は、主に地元の小学生たちが演じています。
これらの行事は、地元の住民でつくる保存会が中心になって伝承されてきましたが、最近は担い手や後継者の不足という問題を抱えています。背景には、昔と比べ地域の絆が薄くなった、少子高齢化で参加者が減っているなど社会的要因が色濃く影響していますが、文化は伝承しなければ廃れてしまいます。そのためにも子どもたちに学校の授業などで町の歴史や文化を学び、関心を持ってもらう機会を増やすことが重要です。町でも保存会と協力しながら、変えるべきところは変え守るべきところを守る〝不易流行の精神〟で取り組んでいきます。
笠松町では、長い歴史に培われた伝統を大切にする一方で、若い人たちや民間による新たなまちおこしの機運が醸成しつつあります。その主な舞台として活用されているのが桜並木や「ハートの木」で売り出し中の笠松みなと公園です。みなと公園では、町主催の「リバーサイドカーニバル」や町商工会青年部有志らでつくる笠松町プロモーション協会による「かさマルシェ」をはじめ、一年を通して多くのイベントが開催されており、今年3月には国土交通省から「都市・地域再生等利用区域」に指定されました。この指定に伴い、常に河川敷でのキッチンカーや物販ブースなどの営利活動が可能になり、よりいっそうの経済効果や交流人口の増加が期待できるようになりました。町でもさらに魅力度を向上させるため園内に花を植えたり、イベントの様子をSNSなどでPRしています。
また、みなと公園と天然ビオトープである笠松トンボ天国を結ぶ約5kmのサイクリングロードも貴重な観光資源です。週末になると、多くのサイクリストが訪れ、笠松競馬場や木曽川を眺めながらライドを楽しんでいます。各務原市や愛知県側のサイクリングロードともつながっているので、木曽川一帯を自転車の聖地とすべく、国交省や周辺自治体との連携を強めていきたいと考えています。
サイクリングロードの終点である笠松トンボ天国にも触れておきましょう。ここは、木曽川の本流の流れが変わった後にできた4つの「河跡湖」で形成されています。その名の通り昔から多くのトンボや野鳥が観察できる場所として親しまれてきました。しかし近年は、気候変動や外来種の増加により、トンボの種類も数も減りつつあります。こうした中、令和4年3月に専門家や住民有志による「笠松の自然と共生を考える会」が発足。現地調査や観察会を通じて環境保全や外来種の問題に取り組んでいます。住民主体による活動は、町民の環境問題への関心を高めるだけでなく、子どもたちの情操教育にもプラスになるでしょう。笠松町は、木曽川とともに暮らし、発展してきた地域です。これからも川を活かしたまちづくりを積極的に進めていきます。
さて、笠松町を紹介する際に真っ先に思い浮かぶのが笠松競馬場です。昭和9年に誕生、90年の歴史を誇る全国屈指の地方競馬として知られていますが、当町は、岐阜県、岐南町とともに競馬場を管理運営する岐阜県地方競馬組合を構成しており、名実ともに深い結びつきがあります。その長い歴史もさることながら、笠松競馬は多くの名馬や名騎手を輩出してきました。その代表格が〝あし毛の怪物〟としてG1レース4勝を制したオグリキャップや2度の「NARグランプリ年度代表馬」に輝いたラブミーチャンです。笠松競馬に所属していた騎手の安藤勝己さんは、中央競馬に移籍後も順調に勝ち星を重ね、「アンカツ」の愛称とともに全国にその名を轟かせました。
こうした栄華の一方で平成の時代にはバブル経済崩壊の影響で売り上げが低迷、一時期は廃止の瀬戸際に追い込まれました。その危機を救ったのは、関係者たちの血のにじむような努力とインターネットによる勝馬投票券(馬券)販売開始です。さらに最近は、ゲームやアニメで人気の「ウマ娘」がブームになったのをきっかけにサブカルチャーファンからも注目を浴びています。組合では、ウマ娘人気にあやかろうと春に特別協賛レースを実施、笠松町でもコスプレイベント「仮装の宴」を主催するなど、新たなファン獲得に力を入れています。特に「仮装の宴」では、全国からウマ娘の衣装に身を包んだファンが訪れ、写真を撮ったり、競馬場グルメを堪能したりと大いに盛り上がりました。その様子は参加者らのSNS上でも拡散され、#笠松競馬や#笠松町の知名度向上に貢献しました。今後も関係機関と協力しながら競馬の発展に寄与してまいります。
笠松町は小さな町ですが、県内でもポテンシャルが高い地域だと自負しています。そのひとつが交通の便です。町内には、名鉄(名古屋鉄道)の特急電車が停まる名鉄笠松駅と東海道新幹線岐阜羽島駅に繋がる名鉄竹鼻線の西笠松駅の2つの駅があります。名鉄笠松駅は、名古屋(名鉄名古屋駅)まで23分、岐阜市(名鉄岐阜駅)まで5分と、利便性が良いことから通勤通学客を中心に一日の乗降客は約8千人と多くの人が利用しています。
このほかの地域公共交通としては、駅や役場や病院などを回るコミュニティバス(一乗車100円)を運行しており、年間約8万人が利用しています。さらに令和3年10月からは町民バスの路線空白地域を中心にデマンドタクシー「チョイソコカラタン」の運用も始まっており、きめ細かい町民の足の確保に努めています。
また郷土愛が強い土地柄も自慢です。町では平成19年に「道徳のまちづくり条例」を施行。町民有志らによる「道徳のまち笠松推進会議」が中心となって、学校や町内会と連携しながらあいさつ運動や清掃活動などを実施しています。また令和4年には「子どもの権利に関する条例」を施行しました。これは「安心して生きる権利」「のびのびと育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」の4つの権利を柱に子どもたちの自主性を尊重した内容で、同年にオープンしたこども館の運営理念にもなっています。
最後に笠松町の抱える課題について述べたいと思います。それは活用できる土地が少ないという点です。前述したように町の面積は10.3km²で、うち約3分の1が河川敷です。さらに南部には開発に制限が掛かっている市街化調整区域が広がっており、住宅や工場、商業施設などを建てられる土地が慢性的に不足しています。それが地域経済の発展や人口減少対策にとって大きな足かせになっています。
厳しい現況下で、期待を寄せているのが厩舎移転後の跡地活用です。これは笠松競馬場の円城寺厩舎を令和8年度末を目途に競馬場に隣接する薬師寺厩舎へ移転集約する事業であり、移転後の跡地には笠松町・岐南町にまたがる約3万坪の広大な土地が残ります。町では、地域の発展につながる絶好の機会と捉え、有効な活用方法を調査研究するとともに実現に向けて地権者や関係機関との協議も進めています。
あわせて空き家対策にも本腰を入れています。全国的に空き家の増加が問題になっていますが、町では空き家をリノベーション、もしくは適正に除却することで新たな住宅や店舗へと変えていきたいと考えています。すでに空き家対策の専門家らの協力を得て、定期的に空き家相談会を開催していますが、今年度は空き家の実態調査を実施し、新たな施策へと結びつける方針です。
こうした取組で開発可能な土地が増えれば、町に人と税収を呼び込む環境が整うはずです。そこに町のポテンシャルを活かしたブランド化を組み合わせれば〝高収益〟の町の実現も夢ではありません。財政が豊かになれば福祉や教育もさらに充実し、もっと住みやすい、全国有数の「選ばれる町」になれると確信しています。
岐阜県笠松町長 古田 聖人