▲ 行政と町民をつなぐ 全世帯タブレット配備
山形県西川町
3282号(2024年6月3日)
山形県西川町
町長 菅野 大志
西川町は、山形県の中央に位置し、面積の9割以上を森林が占める町です。職員数は、町立病院があるため、規模の割に少し多く150人程度です。
江戸時代から盛んな東の奥(出羽三山)参りは、西の伊勢参りと並ぶ信仰となり、多くの参拝客を山菜料理でおもてなしする宿場町、明治時代には鉱山の産地として栄えました。現在も、日本百名山の月山と朝日連峰を活かした登山・トレッキング、4月にオープンする月山夏スキーやカヌーなどのアクティビティ体験ができる観光を外貨獲得(町外から訪れる人が西川町で使うお金)の主力とした、豊かな自然を擁する町として知られています。その一方で、昭和40年代以降は、参拝客・夏スキー客の減少、鉱山の閉山、鉄道の廃線により産業の縮小、また「隠れ積雪日本一」と称するほどの豪雪により、昭和20年代に16,000人を超えた人口は、現在5,000人を割り込み、高齢化率は県内で最も高い47%となっています。
西川町は、元来、おもてなし文化が根付く町。町民からのアンケート結果も、毎回、町の自慢は「人」と「自然」。これを信じて政策を立案してきました。
人口減少抑制のため、ターゲットは首都圏の若者に絞り、観光から西川ファン(関係人口)、そして町民とのふれあいを通じて移住につなげます。
入口となる観光は、町の特徴を活かして、若い人が集まるコンテンツを開催。「ととのう町」を掲げて、夏でも水道から、13度を維持する中性・超軟水がでてくる特徴を活かしたサウナ事業、謎解き人気にあやかった人手のかからないAI謎解き観光、モンベルとの共同イベントのシートゥーサミット、ONSENガストロノミー、家族まるごと保育園留学、小学校のサテライトスクールの誘致、デジタル住民票NFTの発行などなど。
これらには共通点があります。1つ目は、事前のマーケティングどおり、これらの利用者は「若者」であることです。「西川町は聞いたことないけど、謎解き・サウナがやりたくて来た」という人ばかり。また、2つ目は、その事業の多くが、町民との接点をつくっている点が共通しています。町民と触れ合うことによって、まさに「人」「自然」を魅力に感じてもらい、町のファンクラブサイトや町のSNS等に案内して関係人口の拡大を目指しています。3つ目の共通点は、これらの事業すべてがデジタル田園都市国家構想交付金(以下「デジ田交付金」)の採択事業であり、5年間、継続的に実施していきます。
新規事業の予算の採用基準・予算6原則(右写真参照)に「関係人口増加」を掲げているのは西川町の特徴です。
昨今は、急速に進行する少子化、生き方の多様化、感染症、気候変動などの課題に直面しており、大胆な改革を進めること、新時代に適した地域社会を創造していかなくてはなりません。
このため、わが町のような小さな自治体は、対話を通じて地域課題の解像度を上げ、つながりから解決できる人をみつけて、財源活用を見据え効果的な事業を素早く企画し、意思決定を進めなければなりません。
対話会は、総合計画で年36回以上を課し、昨年は59回(地域別11回、テーマ別48回)開催しました。対話会の開催コスト削減のため、HPでの広報のほか、双方での対話ができるLINEオープンチャットで稼働町民と西川町のファンの1,750人に投稿します。対話会には、予約なしで20人以上は集まります。オープンチャットは、1日100件の投稿を超える日もあり、行政の方向性を容易に発信できるほか町民も役場がどんな政策を考えているか予見でき(行政の予見可能性・フォワードルッキング)、さらには、各人の喜怒哀楽も共有できます。
政策を実行するには、資金と、役場の企画力、プレイヤーをみつける必要があります。対話とつながりから、課題を抱える方と解決者をみつけ、さらに対話して事業をブラッシュアップし、プレイヤーも稼働町民からみつけていきます。
また、つながりを大切に戦略的に活用すれば、官民連携を前提とする国の補助金、企業版ふるさと納税、企業寄附財源を確保することもできます。
西川町では、自主財源が少ないため、資金活用に力を入れております。企業版ふるさと納税では、関係企業とのつながりを密にしていき、企業を関心のありそうな、行政視察にお誘いしたり、事業を一緒に企画するほか、職員から契約企業にDMを送り、2年間で延べ60社以上から企業版ふるさと納税を頂きました。
資金調達で最も注力しているのが、国の補助金を使用した事業の増加です。対話とつながりで、課題を抱える方と解決者を可視化できれば、それに合わせた補助制度がないか組織を挙げて徹底的に探しています。約10年前より、補助金の活用は、自治体間の競争が前提となり、チャレンジしなければスタートラインに立つこともできません。本年2月より、西川町では、全世帯タブレットを配備し、町民アンケートを実施できるようになったため、課題の解像度が上がり、申請に必要な情報収集が容易になりました。
2023年4月、西川町は、つなぐ課を設置しました。同課には、町民と町をつなぐ係と、関係人口・企業と町民をつなぐ係の2つがあります。つなぐ課を設置した目的は、選ばれる自治体になりたかったからです。
国が発表した「連携したい地方公共団体を選ぶ際に重視すること」の上位6項目、これをつなぐ課なら実施できると考え、期待以上の成果を上げています。
1位:地域課題の情報提供が積極的
2位:打合せをオンラインでできる
3位:実証実験など受入体制がある
4位:職員の回答が早い
5位:金銭的なサポートがある
6位:自治体から企業・住民の紹介が受けられる
また、デジ田・金融庁・内閣府で勤務した私と、デジ田勤務経験のある副町長とともに国の補助制度を研究しているのが、「かせぐ課」です。同課は、サウナやNFTで歳入アップを目的にしています。
事業化とは、日々寄せられる課題や解決企業、補助申請のタイミングを合わせるため、早期に事業化申請する必要があります。国の補助金はいつなくなるかわからないので、スピードが重要です。このため、職員が情報共有できる基盤も整備しました。2023年4月より、西川町は、職員にノートパソコンを配備し、コミュニケーションツールとしてマイクロソフトTeams(M365)を導入しました。
フリーアドレスオフィスも導入し、役職間の交流も活発となり、課横断的な事業を想起できるようになりました。デジ田交付金は、各課にまたがる地域課題の解決となるような事業の想起に適しています。また、前述の全世帯へのタブレット配備も町民と役場の距離を埋める基盤です。
早期の事業企画に欠かせない対話を徹底するため、町の総合計画で年間36回以上の対話会開催を定め、対話を意識した人事方針を公表しました。
課長補佐以上の昇格ポイントに、「町民との対話に積極的な職員」「外の人も大切にする職員」を盛り込み、補助金活用に貢献した職員に賞与を上乗せするなど実効性を担保しています。
また、地域課題解決型の事業は、課を超えた心理的に安全な対話が欠かせません。このため、関係人口と町民のごちゃまぜ交流会を開催し職員に場の価値を理解してもらいます。
町の予算は、就任前(令和4年度)の56億円を令和6年度に73億円、基金等繰入は2年前の半額に削減できたのは、国の補助金等を15億円以上活用できているからです。いきなり出てきた企業からの提案も年々増え1年間で133件に上りました。結果も少しずつ見え始め、令和5年度の人口の社会増減はゼロに、また生産年齢人口(15~65歳)は、これまで90人減少していましたが、今年度は若い方が流入し8人減少に留まっています。
これを継続するため、徐々に1年を通じて補助金活用を意識した組織的な取組ができるようになりました。10月は、把握した地域課題と関係企業のソリューション情報をまとめます。11月はその掛け合わせ作業を実施。12月はかせぐ課が中心となり、デジ田交付金や内閣府、農水省、環境省、観光庁などの補助金情報のマッチングを行います。
現在、西川町は、デジ田交付金の活用に向けて申請事業数ごとにチームをつくり、ティール組織になって申請・執行しています。そのチームは、非常勤職員から課長までが所属し、そのリーダーは課長とは限りません。
申請前、チームは、特定の地域課題の解決に向けた事業として、大きな幹をつくり、これに各課関連事業を集めて枝葉をつけていきます。こうして大きな木をつくり、それを1事業としてデジ田交付金を申請します。採択後の執行においては、そのチームメンバーが中心になって、円滑に事業運営協議会を立ち上げます。これが、チームとデジ田交付金の相性がよい所以です。結果的に、そのチームは、財源を得ることで、各人が予算を管理し、ボトムアップで意思決定できるフラットな組織であり、組織と個人の目標(デジ田交付金で定めた目標値・KPI)が一致するティール組織となるのです。
挑戦することが前提の国の交付金の多くは、官民連携の「協議会」形成を前提としています。
ちなみに、西川町では、20事業ほどの枝葉をまとめて1つの木(申請事業)として採択を得て、5本の木の5協議会(❶観光推進協議会、❷西川ファン拡大協議会、❸AI活用協議会、❹ローカルイノベーション協議会、❺タブレット活用高齢者支援協議会)に負担金を出し、執行段階で生じる予算の凸凹を調整しながら運営しています。
これを気にしては、チャレンジすることができません。①3年実施してもうまくいかない事業はやめる覚悟です。②ランニング経費を充てられる補助事業を意識し挑戦する。③同じ事業でも見方を変えて補助金を活用すること。例えば、中小企業が抱える経営課題に対して、町外の解決人材を充てる事業があったとすると、最初は、中小企業支援政策として中小企業庁の補助金が活用できる事業展開を狙います。
わが町のような小さな自治体は、挑戦し、継続と展開するしかありません。国の地方創生方針は、自治体間と競争を、民間とは共創を求めています。これを生き抜くには、経営戦略と実効性を高める人事方針等を掲げ、これらに基づいた経営資源を適切に配分する一方、共創パートナーが関わりシロをみつけられる情報発信が必要です。小さな町だからこそ、意思決定の速さを武器に、チャレンジする、丁寧につなぐ町として認識されつつあると実感しています。ぜひ、西川町にお越し下さい。
山形県西川町長
菅野 大志