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熊本県多良木町/地域資源の可能性

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年4月8日更新

多良木町の妙見野展望公園から望む人吉盆地の景観

▲ 多良木町の妙見野展望公園から望む人吉盆地の景観


熊本県多良木町

3276号(2024年4月8日)
熊本県多良木町 企画観光課


多良木町の概要

妙見野展望公園から望む雲海景観

 多良木町は熊本県南部にある人吉盆地の東部に位置します。人吉盆地は九州山地に開口した三日月形の断層盆地で、盆地中央を一級河川である球磨川が貫流しています。多良木町の面積は165.86km²、人口は約8,600人(令和6年1月1日時点)です。「歴史とロマンの里」を標榜する歴史と自然豊かな町です。

 本町は、北西から南東にかけて細長い形をしています。町の南部と北部は、九州中央山地の支脈を形成する森林におおわれ、特に南部は、球磨川の分水嶺を越えた綾北川の源流域も町域となっています。町の中央部を球磨川が流れ平坦地が形成され、東西に貫く国道沿いに商店街や住宅が集積しています。このような地形の特性から、平野部では水稲栽培や果樹栽培が盛んで、田園風景が広がっています。南北の山林地帯は古くから木材生産が盛んで、近代日本を支えた鉱山坑木を多く供給していた歴史もあり、現在においても林業が町の基幹産業の1つです。

 多良木町を含む人吉盆地に所在する10の市町村は、『相良700年が生んだ保守と進取の文化―日本でもっとも豊かな隠れ里―』というストーリーで、日本遺産に認定されています。特に、多良木町は物語の主人公・相良惣領家の本拠があった場所で、重要文化財・青蓮寺阿弥陀堂や、日本最古の茅葺楼門・王宮神社楼門をはじめ、中世以来の文化財が数多く所在します。中世的な景観が残る日本屈指の町です。

山林原野の地域資源

年間約1,000頭捕獲されるシカ

 町内の8割を占める森林には野生動物が多く生息し、現在も有害鳥獣捕獲を兼ねた狩猟が盛んに行われています。令和3年度のイノシシの捕獲量は186頭、シカは1,047頭を数えます。このような歴史的・地理的環境から、町内にはジビエに価値を見出した取組があります。

 (有)村上精肉店が運営する「イノシシ成体市場」は生きたイノシシを競る日本唯一のもので、一般の方も参加できます。この成体市場は平成6年に開所され、月に1回、猟師が生け捕りにしたイノシシが売買されています。狩猟は基本的には箱罠やくくり罠であるため、新鮮で安全な狩猟肉を提供されています。また、同社は成体市場以外にも、レストランや宿泊業も経営されています。

 ジビエの価値が叫ばれて久しいですが、いまだ日本にジビエ文化が定着したとは言い難い中で、村上精肉店の取組は、地域資源をうまく活用した事例といえます。

ジビエ料理

 また、同社も主催・参加する「美食の森たらぎジビエ協議会」では、食を探究する体験として、多良木の森をフィールドに、猟師体験やいきものの命について考える解体体験なども用意されています。このような体験メニューは、観光資源として魅力的なコンテンツであることは言うまでもありません。ジビエという多様な食文化は、SDGsの取組の一環としても評価できるものです。

 このように、地域の特性に合った方法でモノ・コト・ヒトを構築することで価値が創出されます。

槻木集落での取組

原木椎茸は農林水産大臣賞を受賞

 地域資源を活用する活動は、過疎が進行する地域においては、集落の自治や地域振興の一助となっています。

 多良木駅から車で30分かかる槻木集落は、65歳以上の高齢化率85%を超える超過疎地域です。しかし、槻木集落の優位性は、広大な山林原野がもたらす豊かな自然と豊富な森林資源です。この恩恵は、米や椎茸、ジビエ、山菜、川魚、果物など多種多様です。その槻木集落で新たな取組が展開されています。

 その取組の目的は、集落の維持・存続です。国の農山漁村振興交付金を活用して、地域住民自らが、山林資源の商品化を行い、付加価値を創出して販売促進を行います。まず、事業主体となる「つきぎ資源活用協議会~みらい~」が組織され、多良木町が事務局として活動の支援を行いました。

 まず、地域資源の中でもっとも身近な存在であるジビエが俎上にあがりました。鳥獣害被害を防止するため、地元住民有志(狩猟免許取得者)が多数いるため、駆除の対象となっているイノシシやシカを商品化することへの可能性を感じたのです。

 平成30年に地元有志が自費で空き家を改修して食肉加工施設を整備しました。小規模で簡易的な施設ですが、ジビエ肉利活用の環境が整いました。現在でも、加工場の利用頻度は高く、利活用されています。最近では集落出身の方によるハム工房が出店され、ジビエや食肉加工製品、ハンバーガーも提供されています。この協議会も令和4年度には自立して、多良木町の伴走も終わっています。

地域の縁で企業が協働

三椏の枝をブランディング

 このような地域資源のブランディングを手掛けるのは、名古屋の民間企業の地域創生部です。槻木集落にサテライトオフィスを構え、従業員が年間100日以上、集落に滞在し、商品のブランディング・広報支援・メディアサイトやECサイトの運営を行っています。メディアサイトでは槻木集落や多良木町の魅力発信を中心に地域の活性化に貢献できるような情報が幅広く発信され、月間ユーザー数は3万人を超えています。この企業の活動は、完全なメセナです。​

和紙の原材料となる三椏(みつまた)の群生

鉄道遺産・ブルートレインたらぎ

鉄道遺産・ブルートレインたらぎ

 さて、多良木町の観光のシンボルであるブルートレインたらぎをご紹介します。

 昭和の半ばまで、多良木町は農林業が栄え、中心部は宿場町として賑わっていました。その後、農林産物の価格の低迷、少子高齢化による後継者不足、モータリゼーションの発達による買い物客の流出等によって以前の賑わいは無くなり、数多く存在した旅館も平成21年では、ビジネスホテルが1軒(定員13名)あるのみでした。

 一方、旅行者の嗜好も見学型の観光から体験型の観光(ツーリズム)へと変わりつつあり、特に田舎暮らしや農林漁業体験を含めた長期滞在型が増加しています。このような中、多良木町では、平成18年に「多良木町グリーン・ツーリズム研究会」を設立し、翌年には農家民宿が3軒開業を始めました。しかしながら、宿泊できる人数に限りがあり、家族やグループ単位での受け入れ状況となっており、農林業体験についても日帰り型の体験のみとなっていました。また、多良木駅周辺には町民体育館をはじめ、武道館や陸上競技場、野球場など、スポーツ施設が集積しており、各種大会も催されていますが、宿泊については、近隣の町村に頼らざるを得ない状況でした。

 このような課題を解決するために、運行廃止となった寝台列車を町の宿泊場所にするというプロジェクトが平成21年度に始動しました。

 農林水産省所管の経済危機対策の枠組みを確認しつつ、JRへの車両払下げ要望や第三セクター・くま川鉄道の利用増進を含めて寝台列車誘致の検討を行いました。その後、九州農政局との調整やJR九州熊本支社へ車両の払下げに関する要望活動を本格化させていきます。

 その結果、払下げに際して、さまざまな条件が付され、平成21年3月に運行廃止したブルートレイン「はやぶさ」3両を払下げられることが決定されました。ちなみに、この寝台特急「富士・はやぶさ」は2009年廃止当日の指定券が、発売開始後5秒で完売し、東京駅に3,000人が訪れた人気車両です。

 この決定を受け、平成21年6月、多良木町農山漁村活性化計画を策定し、農林水産省へ提出しました。11月に補助金の交付決定、車輛運搬・改修工事を経て、平成22年7月1日に簡易宿泊施設「ブルートレインたらぎ」として開業・運用が開始されました。現在では、年間約4,000人の方が宿泊されています。

 ブルートレインたらぎは運行当時に近い状態の寝台特急はやぶさの客車を活用した体験型鉄道遺産です。鉄道遺産の背景にあるストーリーを追体験できるコンテンツとして現在では町の観光資源へと成長しました。

価値の創出

木造阿弥陀如来立像

 実は、地域資源を磨き上げ、価値を創出できる格好の素材は歴史文化なのです。なぜなら歴史文化は他の地域が真似できない唯一性があるからです。

 例えば多良木町の場合、相良氏の菩提寺である青蓮寺です。お寺に行けば鎌倉時代以来の廟所があり、僧綱最高の位を持つ仏師が製作した阿弥陀三尊を拝観できます。さらにお堂の裏側には、鎌倉時代の墓所景観が広がり、現在でも鎌倉時代の歴史景観を目の当たりにすることができるのです。このような歴史景観は京都にも鎌倉にも残っていません。ゆえに唯一性なのです。

 アフターコロナに向けた観光のキーワードは観光庁が言うように「持続可能な観光」という概念で、SDGsを意識したものです。サステナブルな旅で求められるのは「本物の文化体験」です。まさに唯一性の歴史文化です。そこに求められるのが「本物の価値」を創出するということです。幸いに多良木町には歴史文化遺産は豊富に存在していますので、地域資源を活用した事業を推進してまいります。

国重文・青蓮寺阿弥陀堂

地方創生を加速させるためにく

地方創生の中で生まれたブランド米「こめたらぎ」

 多良木町では地方創生を推進するために、多良木町しごと創生機構が平成28年度に設立され、雇用機会の創出、米のブランド化、地元産品の商品化、企業誘致等を展開し、一定の役割を果たしてきました。特に、お米のブランド化については、「九州のお米食味コンクール」で5回の最多優勝を誇り、成果を上げています。

 さらに、地方創生を推進するために、一般財団法人たらぎまちづくり推進機構が令和2年10月1日に設立されました。「Challenge for Change」を掲げ、人材育成・商品の高度化・ふるさと納税に取り組んでおり、地域課題の解決の切り札です。今後の活動に期待するものです。

熊本県多良木町 企画観光課