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群馬県嬬恋村/観光・関係人口増加のための嬬恋スマートシティ

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年4月1日

浅間山 標高2,568mの活火山

▲浅間山は、嬬恋村と長野県軽井沢町及び御代田町との境にある標高2,568mの活火山


群馬県嬬恋村

3275号(2024年4月1日)
群馬県嬬恋村
未来創造課 下谷 博文


● ポイント ●
1. 観光×防災であるということ
 旅前・旅中、安心して楽しめるようR2年度構築の防災スマートシティに機能追加。平時は観光、有事には災害情報も受け取ることが可能。
2.観光客の情報を体系的にビッグデータとして蓄積し活用できる仕組みであること
 観光に対する想い、行動情報、アンケート情報など消費者の情報を蓄積し可視化することで、予測予想で施策立案せざるを得ない観光業にエビデンス(裏付け)を与える。
3.LINEを介したPUSH型の採用と、さまざまな角度から自由に嬬恋村を感じられること
 嬬恋村を知っていただくために受け身の姿勢では成功しないと判断。ファンが増えるように定期的なPUSHを可能とした。

スマートシティ(FIWARE)を基盤とし、ビッグデータを活用することでこれまでの観光業にさらなる可能性を与えている。また観光情報の集約と発信をスマート化したことで観光客への情報の還元のしやすさと観光収益増加(GW前年比の観光客数の一部:100%UP(27,500人⇒55,000人))につなげている。

嬬恋村について

嬬恋村で栽培される「高原キャベツ」

 嬬恋村は群馬県の西北部に位置し、東は長野原町・草津町に、西・南・北の三方は長野県に接しており、浅間山・湯の丸・吾妻山(四阿山)・白根山などの標高2,000m級の山々が連なる山麓に広がる高原の村です。

 嬬恋村で栽培される「高原キャベツ」は、昼夜の温度差と高原特有の朝露により甘味のある美味しいキャベツとなり、夏秋キャベツの出荷量は日本一です。

 また、万座温泉・鹿沢温泉・浅間高原・バラギ高原等のエリアを中心に、温泉や雄大な自然、ダイナミックな景観を楽しむことができます。

嬬恋村のデジタル化の取組

 嬬恋村のDX推進の取組は、令和元年に発生した台風19号の被害を教訓とした災害対策が始まりでした。この災害では、人的な被害はありませんでしたが、災害対策本部の設置、避難所の開設、道路崩落による集落の孤立、住宅等の被害が多く発生し、復旧復興においてもかなりの時間を要しました。そんな危機的状況を経て、「村民の生命、財産を守る」という理念の元から、令和2年度にLINEアプリを使った、防災・規制情報、災害時における避難所の開設状況を、瞬時に住民に知らせる情報発信ツール「防災システム」として「嬬恋スマートシティ」のプラットフォームを構築しました。

 令和3年度において、災害時以外での「防災システム」の活用や、広域的な波及へとつなげるため「地域活性化起業人制度」を活用し、民間企業からシステムエンジニアを受入れ、専門的知識を活かしたデジタル化を推進することにより、職員の意識の向上や、これからの取組について理解していくことで、組織全体のインセンティブとしての活性化につなげられるように取り組みました。コロナ禍で観光需要が減少していく中で、アフターコロナを見据え、今まで抱えていた観光地域の課題解決にデジタル化を採り入れられないか検討しました。結果、観光と交流の推進に向けたAIチャットボット・ビッグデータの活用を取り入れたシステムへの更新を行う取組「観光・関係人口増加のための嬬恋スマートシティ」を始めることにしました。

 まず観光のデジタル化に向けて、次の課題に取り組む必要がありました。

  1.  観光客・関係人口情報が体系的に集約されていない
  2.  紙やネット上で多量の観光情報がばらばらに散在
  3.  広い地域に観光地が点在し観光客にわかりにくい

 観光データの利活用による「嬬恋ブランド」力の強化を目標に、これらの課題を地元観光協会、観光事業者を交え検討を重ね、次の3点を実現することにしました。

  1.  観光客のビッグデータ分析によるPDCA
  2.  観光データを集約し、観光客に提供(チャットボット・プッシュ通知)
  3.  現在位置からの周辺施設や店舗の情報提供

1.観光客のビッグデータ分析によるPDCA

 今まで嬬恋村に観光に来られた方が何を求めているのか、観光情報の入手経路、観光客・関係人口のデータについて、正確には把握していませんでした。そこで、モバイル空間統計調査、プレミアパネルアンケート調査によるビッグデータを活用した観光調査を行うことにより、村内の観光事業者にさまざまな切り口から可視化したデータの提供を行うことを目指しました。

 「モバイル空間統計」調査は、モバイル端末の位置情報データを使用し、村内にどんな人が訪れているか、ほかにどこを訪れたか、日帰り・宿泊の判別を行う新たな人口統計調査です。

 この情報をグラフ化し、観光客数を推計することで、村内の各エリアや周辺市町村との周遊関係を調査しました。嬬恋村は万座温泉と浅間高原で観光客層が全く異なるなど、エリア間の差が大きいことが特徴です。そうした経緯から、村内のエリア別の調査を行いました。

 「プレミアパネルアンケート」調査は、スマートフォンを使った大規模なニーズ分析を行うためのアンケート調査です。関東圏の対象エリアから、村の来訪経験、観光資源について調査しました。嬬恋村の各資源について具体的に調査することで、観光マーケティング戦略に役立つデータを収集することが目的です。

 嬬恋村観光協会によって分析結果の活用について検討を進め、将来的にはその他の統計データとともに広く村内の事業者が利用できることを目指しています。

2.観光データを集約し、観光客に提供(チャットボット・プッシュ通知)

嬬恋スマートシティ「観光」の主なメニュー。

 観光データの集約においては今まで整理されていなかったデータの整理を行うとともに情報発信をしていなかった事業者に対し観光協会の職員が丁寧に説明を行い協力していただくことにより進めていきました。

 それにより観光客が求める情報を的確に提供できるよう努め、情報にアクセスするために、「エリアから探す」「テーマから探す」「地図から探す」等の機能を構築しました。また、求める情報が定まっていない観光客に対しては、自動でユーザーとの会話を行うプログラム「チャットボット機能」で、観光客からの質問に24時間返答することができ、知りたい情報をいつでも入手できます。予め登録した単語や文章などのテキストを使用して、観光協会ホームページ内のデータベース上で管理している各施設の情報を反映させるアプリケーションを用いて、ユーザーからの質問に対して、適切な回答を引き出せるように運用しています。施設情報の更新や新規施設の追加はすべて観光協会ホームページ上のデータベース内で行い、実際にユーザーがLINE上でどのような発話をするかを予め想定したうえで、文章や単語の登録をアプリケーション内で行い、ユーザーからの質問に対し適切な回答が反映されるようにしています。

観光客へのプッシュ通知。LINEトーク画面

 現在は、常に最新のデータをユーザーに提供できるように村内施設のデータ情報管理と、ユーザーからの質問に的確な回答をするためのチャットボット機能の磨き上げを重点的に進め、今後は観光客自らが嬬恋村LINEアカウントで情報収集し、電話や窓口への問い合わせ減少による業務負担の軽減を目指しています。

 また、友だち登録をしていただいたユーザーには、プッシュ通知機能を通して旬な観光情報を配信しています。ただ単に情報を発信するのではなく、ユーザーが読みたくなるようなコンテンツ作りを心がけています。例えば、テキストのみで情報発信するのではなく、テキストと画像を組み合わせて、1つのメッセージとして配信できるリッチメッセージ機能の配信も行っています。使用する画像は統一性あるもので、さらにその画像をクリックするとリンク先の詳細ページへ飛ぶなどユーザーも読みやすいものになっています。

 このLINEアカウントの活用にあたって重要となるのが、村内の観光事業者、観光客それぞれに明確なメリットを与えるということです。

観光情報管理機能にてプッシュ通知する情報を作成する画面

 例えば、プッシュ通知機能の活用については、毎月観光事業者からイベント情報やお得プランなどの情報を募集し、毎月1日に「ピックアップ情報」として配信する際に、観光施設としては比較的関心の高いユーザーに直接届けることが可能です。また観光客にとっても旅行を計画する前にお得情報を受け取ることが可能となっています。また、毎月事業者向けプッシュ通知について、検討会を開催し、通知方法や発信内容の相談など、事業者と密に意見交換をしています。

 事業者からの声とアンケートによるユーザーからの客観的な意見を参考にしながら、常に利用者目線でプッシュ通知発信を心がけ、本システムが観光従事者、観光客双方にとってより良いものになるよう、改善を続けていきます。

3.現在位置からの周辺施設や店舗の情報提供

 使いやすく、より多くの方に利用してもらうことを考慮し、多くのユーザーを抱えるLINEを利用することとしました。比較的簡単に観光客へ情報を提供できる点が大きなメリットだと感じています。今回「嬬恋村公式LINEアカウント」では、次のような機能を構築しました。

  1.  エリアから探す
  2.  テーマから探す
  3.  地図から探す
  4.  質問する(チャットボット)

 例えば、「地図から探す」では、地図上で施設のジャンルを絞り込めるだけでなく、自分の現在地を軸として周辺にある飲食店や日帰り温泉施設などを見つけることができます。さらに詳しい情報を知りたい場合は、地図上に出るアイコンをクリックすることで営業時間などの詳細が確認できます。各施設の設備・サービスに関しては、ピクトグラムを用いたことで電子決済などの可否が一目でわかるようになっています。

4.今後に向けて

 
 「観光・関係人口増加のための嬬恋スマートシティ」には新たな試みも多くありましたが、構築し1年以上が経過し運営管理も比較的安定してきました。

 運用していく中で課題もあります。チャットボット機能に関しては、アクセスログ解析を行うことにより、回答精度を向上させる必要があります。また当然のことですが施設情報の管理では、常に村内の施設の状況を把握しておく必要があり、コンテンツを充実させるためには莫大な量のデータを、頻繁にメンテナンスしなければなりません。最新かつ正確な情報をユーザーに届けるため情報更新に関する部分について継続して行えるようなシステムを構築する必要があります。

 スマートシティの始動により、地域居住者のみならず観光客も簡単に情報を受け取ることができるようになり、さまざまな可能性を生み出すきっかけとなっています。これまで当村での観光においてさまざまな問題が顕在化してきましたが、今後のさらなるDX推進の動きが課題解決への鍵になると思います。


群馬県嬬恋村
未来創造課 下谷 博文

鬼押出し園と浅間山