▲虚空蔵山(こくうぞうさん)
長崎県川棚町
3274号(2024年3月25日)
長崎県川棚町
農林水産課
● ポイント ● ・森林環境譲与税を活用し、ハード事業である保育間伐及びソフト事業である木材利用・普及啓発を行っている ・保育間伐は、地域の森林整備の担い手育成・確保にも配慮 ・木材利用・普及啓発として、県産材を使用した木製玩具の制作・配布を実施 ・森林整備の促進方法をさらに検討し、よりよい森林づくりを推進 |
川棚町は、長崎県のほぼ中央に位置し、大村湾に面した温暖で風光明媚な土地です。
東には標高608メートルの秀峰・虚空蔵山がそびえ立ちます。この山を源流とする石木川が美しい川棚川と合流し、町の中央部を流れて大村湾に注いでいます。
その清らかな流れと豊富な水量は、緑深い山々や美しい海と調和し、長い歴史の中で人々の生活を支え、暮らしに潤いを与えてきました。
町のシンボルであるくじゃくは、昭和38年に当時の長崎県知事がインドを訪問した際、インド政府から友好の印として10羽が寄贈されて以降、大崎自然公園内の「大崎くじゃく園」で飼育されており、その数約200羽は飼育数日本一となっております。
また、夏には町内に広く自生する町花「おにゆり」はくれない色の花を咲かせ、町内の山林全域に自生する町木「もっこく」は常緑樹で葉に光沢があり、白色五弁の花を咲かせています。
本町は、文化11年に東西川棚村を合併して川棚村となり、昭和9年11月3日に町制施行し川棚町となりました。令和6年度には、町制施行90周年という節目の年を迎えます。
第二次世界大戦中であった昭和17年に海軍工廠が設置され、戦局が激しさを増す昭和19年には軍関係の施設が町内のいたるところに建設されました。片島公園として整備された「川棚魚雷発射試験場跡」や海軍特攻隊の訓練を受けた戦死者の慰霊碑である「特攻殉国の碑」など、今もなお、多くの戦時遺構が残されています。
本町東部にそびえる虚空蔵山周辺では、ふるさと創生事業の一環として、伐期を迎えた町有林(分収林)の立木の所有権を買収し、平成2年に川棚町悠久の森条例を制定し、その森林を「川棚町悠久の森」と定めました。その名のとおり、永らく町民の財産として保存し将来に継承するとともに、広く森林の大切さを広めることを目的としており、整備に積極的に取り組んでいます。
本町の総面積3,735haのうち森林面積は2,117haで総面積の57%を占めており、民有林面積は2,117ha、そのうちスギ、ヒノキ等の人工林の面積は1,161haであり、人工林率55%と県平均42%と比べやや高い値となっています。
人工林のうち、8齢級以上の森林が約1,103ha(95%)あり、伐採時期を迎えていますが、木材の安定供給と併せ、健全な森林の育成のためにも、間伐を積極的に推進していく必要があります。
また、本町の森林は地域住民の生活に密着した里山から、林業生産活動が積極的に実施される人工林、さらには、大径木の広葉樹が林立する天然性林までバラエティーに富んだ林分構成になっていますが、森林に対する住民の意識・価値観が多様化し、森林に求められる機能が多くなっていることからさまざまな課題が生じています。
東部の木場・岩屋・猪乗地区は、昔からスギ・ヒノキの造林が盛んに行われており、齢級構成も他の地区と比べて高く、伐期を迎える林分が多く存することから林業生産活動を通じ、適切に森林整備を行うとともに、森林経営計画の策定等を通じた計画的な間伐を実施することが必要であり、地区内の「川棚町悠久の森」においては、その設置趣旨に基づき森林整備を行うとともに、住民の憩いの場としての環境整備を推進する必要があります。
南西部の大村湾に突き出た半島にある大崎地区は、天然性の広葉樹林が広く存し自然景観に優れ、県立自然公園の指定を受けており、公園内には自然と調和したレクリエーション施設が数多く整備され、町内外から多くの観光客が訪れていることから、森林とのふれあいの場としての活用が望まれます。
また、大崎地区はマツが多く生育していましたが、森林病害虫被害により多くが枯損していることから、残存しているマツの保全に努めることが必要です。
森林経営管理法に基づく経営管理権集積計画を策定するにあたり、私有林人工林の意向調査及び現地調査を行っていますが、東彼杵郡内3町(川棚町・波佐見町・東彼杵町)が共同で、郡内の森林事情に精通し地域林政アドバイザーを有する東彼杵郡森林組合へ事務委託することで効率化を図っています。
森林経営管理制度を円滑に進めるために、本町の森林経営管理制度実施方針に基づいて業務を進めておりますが、森林経営管理制度の認知度が低いことや、森林所有者の高齢化に伴い制度説明等に時間を要することが課題となっています。また、所有山林を把握していなかったり、関心がない等の理由により意向調査への回答がないことで、調査が進まない現状があります。
回答がない所有者には、調査票を再配布しています。他にも、調査票の様式をわかりやすくしたり、所有者が高齢者の場合は家族の方の同席のもと説明しご回答いただいたりと、調査業務が円滑に進むよう試行錯誤を繰り返しております。
経営管理権集積計画を策定した森林については、その計画に基づき保育間伐(伐捨間伐)を行うこととしています。
保育間伐を適正に実施するために当該森林の調査等を行っていますが、本町職員の技術・知識や人員が不足しているため、林業調査業者へ業務を委託しております。
保育間伐業務ついては、森林環境譲与税を財源とした事業であることから、その趣旨に基づき、地域の森林整備の担い手育成のため、県内の認定林業事業体で「林業経営体の育成について(平成30年29林政経第316号林野庁長官通知)」に基づく育成を図る林業経営体に選定されている事業者へ業務を委託しています。
これまで、長崎県や東彼杵郡内3町で連携し、東彼杵郡森林組合の健全経営や育成強化を図るため、組合が実施する林業研究グループの普及推進活動や林業の担い手対策に助成してきており、高性能林業機械(フォワーダ、プロセッサ)の導入に際しても助成を行ってきました。
しかしながら、町内の林業経営体は前述の東彼杵郡森林組合のみとなっており、林業の担い手不足も深刻な問題となっております。
今後は、町民の森林に対する意識向上を図り、将来の林業の担い手を育成・確保するために、森林環境譲与税を活用し、林業体験や森林教室等を開催していきたいと考えております。
木育の推進を進めるために、県産材を使用した木製玩具を令和3年度は町内の認定こども園・保育園に、令和4年度からは3歳児健診に来場した幼児に配布しています。
この木製玩具は、「木の優しい肌ざわりを多くの子供たちに楽しんでもらい、大切な森林を身近に感じてほしい」という趣旨で企画され、長崎県と民間製作所が共同制作したもので、ハートのデザインには親子の手を合わせたハートをイメージし、木のやわらかさや音を感じながら楽しい時(リズム)を刻んでほしいという思いが込められています。
表面の仕上げでは、県内のろう学校や特別支援学校の生徒の皆さんにもご協力いただき制作されており、無垢の優しい肌触りになっています。
現在、森林環境譲与税を活用し、ハード事業である保育間伐及びソフト事業である木材の利用・普及啓発を行っているところですが、森林環境譲与税の趣旨に基づき森林の整備に関する施策・森林の整備の施策に関する促進の方法をさらに検討し、より良い森林づくりを進めていきたいと思います。
長崎県川棚町
農林水産課