▲やまがたサイクルランドでスタート前にリラックスするライダーたち
広島県北広島町
3270号(2024年2月19日)
広島県北広島町長
箕野 博司
北広島町は、広島県の北西部、中国地方のほぼ中央部に位置し、北は島根県、南は広島市に接しています。面積は646km²と広く、中国地方で1番大きい町です。町の中心部から中国・四国地方最大の都市、広島市中心部へのアクセスは車で約50分と大変便利です。都市部に隣接していますが、耕地部の標高は270mから770mと高低差に富み、広大な面積の約8割を森林地帯が占める自然豊かな町です。
北西部は800~1,000m級の山々に抱かれた西中国山地国定公園が広がり、「日本植物学の父」牧野富太郎博士が幾度となく訪れ研究された「八幡湿原」を中心として、希少な動植物が生存しています。豊かな自然は宝であり、その自然を守るために2010年から「北広島町生物多様性の保全に関する条例」や「生物多様性きたひろ戦略」を策定するなど、環境保全の取組を始めています。さらに2022年8月には地域内の資源を活用した地産エネルギーをはじめとする再生可能エネルギーの普及への取組等を柱とした「北広島町ゼロカーボンタウン宣言」を行うなど、環境面から「持続可能なまち」に向けた取組を始めています。
町の見所スポットのおすすめは、「テングシデ」と「古保利薬師」です。枝が奇妙に曲がりくねった大木テングシデは、イヌシデの突然変異によるもので世界中で北広島町大朝にしか自生していません。テングシデ群落は国の天然記念物に指定されており、大切に守り続けています。地元で「薬師さん」と親しまれる仏像群が見られるのは、古保利薬師収蔵庫です。廃寺となった古保利薬師福光寺は平安時代に弘法大師により開基されたと伝えられ、本尊薬師如来や日光・月光菩薩など12躯が国の重要文化財に指定され、収蔵庫で全て間近で見ることができます。
北広島町の令和5年11月末現在の人口は17,219人、高齢化率は39.5%です。
本町では、2017年に新しい時代を見据えた「持続可能なまち」を目指す「まちづくり基本条例」を制定し、人権を尊重し、心豊かな人づくり、地域資源の活用による住みよい町の創造を目指しています。次世代が希望を持ち続けることができ、本町に関わる全ての人による「協働のまちづくり」への取組を展開しています。
2019年度から、地域における担い手、人材育成の取組として「きたひろ学び塾~With」をスタートさせ、「楽しく学ぶみんなの防災」や「有害鳥獣駆除の後継者育成」「集落活性化の地域リーダー育成」など6つのプログラムを、5つの学部で運営しコロナ禍での停滞はあったものの着実に成果をあげています。
北広島町では2022年3月、第2次北広島町長期総合計画を改訂し、目指す町の将来像を「新たな感動・活力を創る北広島~人がつながり、チカラあふれるまち~」とし、「協働のまちづくり」を積極的に推進しています。「住みたい、住んで良かった、住み続けたい」と満足感と幸福感を実感できる、活気あふれるまちづくり、持続可能なまちづくりの実現に向けて取組を進めています。
本町は中国地方を代表する江の川水系(主に町の東側)と太田川水系(町の西側)の2つの源流域に当たり、それぞれが日本海と瀬戸内海の2つの海につながっています。豊かで清らかな水により米作りが盛んです。その盛んな稲作文化を全国に発信するため、2022年に「第1回全日本お米グランプリ in 北広島町」を開催しました。全国27県から363点の出品をいただき、大会をとおして品質の向上、ブランド力の強化を目指しています。今年度第2回の出品申し込みは締め切りましたが、次回以降ぜひお米作りに励んでいる方の出品をお待ちしています。
稲作から生まれた文化として伝統芸能「花田植」と「神楽」が継承されています。「花田植」は田の神様に豊作を願う民俗芸能として継承されており、なかでも「壬生の花田植」は2011年にユネスコ無形文化遺産に登録されました。毎年6月第1日曜日に公開され、多くの観客で賑わいます。金の花鞍や色とりどりの装飾を身にまといきれいに磨かれた飾り牛が代掻きを行ったあと、太鼓や鉦、笛等の囃しにあわせて早乙女が一列に早苗を植えていく様は、まさに初夏を彩る風物詩として一大田園絵巻を繰り広げます。
五穀豊穣を祝う伝統芸能である神楽は、町内ほぼ全域で継承されており、神楽団数は県内最多の60を超える団体が存在します。収穫を祝う秋には神社ごとに秋祭りが行われ、夜通し神楽が行われています。近年は、年間を通じて神楽大会や各種のイベント等で公演され、多くの来場者で賑わっています。これまでも中南米やロシア、中国など海外で公演されていますが、2023年秋にはアメリカ合衆国ロサンゼルス市で公演するなど「ひろしま神楽」として注目度は高まっています。
皆さまの記憶に新しい2023年5月に開催されたG7広島サミットでも、近隣市町で合同神楽団を結成してG7及び招待国の首脳らの前で上演され、国際メディアセンターにおいても、壬生の花田植と神楽の代表演目である八岐大蛇が公演されました。町内に3校ある高校には神楽部や同好会等があり、郷土芸能の保存伝承に若さと情熱を打ち込んでいます。
皆さまもぜひ一度、古くから受け継がれた本物の伝統芸能を「観に」「聞きに」「肌で感じに」訪れていただければ幸いに存じます。
2022年11月の新聞報道、その後のネットニュース等でも取り上げられ、正直驚きを隠せませんでした。そこまで町民として実感がなかったのが事実です。報道された記事によると、国勢調査をもとに全国1741市区町村の自転車利用の動向を分析し、通勤・通学に自転車のみを利用する人を「自転車分担率」として2010年と2020年で比較されているのですが、本町が全国で増加率最大というのです。10年間で増加幅が3.6ポイント、割合にして9.2%。通勤・通学をする人のうち1割弱が自転車利用者というわけです。鉄道がなく路線バスもさほど充実していない北広島町では、自動車がないと生活できないと言われてきました。まさに1家に1台、いや1人が1台保有している実感がある自動車ですが、自動車がなくても自転車を移動手段として十分に活用している方が増えてきたのです。
自転車の利用が増えた理由は、主に町南東部に位置する工業団地に進出した企業への通勤で利用する従業員がメインとなります。自動車部品関連等の企業集積が加速し、自転車利用の従業員が増えたものと捉えています。
2022年3月に策定した「北広島町自転車活用推進計画」ですが、ここに至るまでの経緯は決して平坦ではありませんでした。2016年7月に国土交通省と警察庁により策定された「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」、また、2017年5月に施行された「自転車活用推進法」により全国の自治体で自転車活用推進計画の策定が進みました。
一方、本町では2017年から2021年まで5年連続で7月・8月に豪雨災害に見舞われました。特に2017年と2021年は甚大な被害となりました。災害復旧の部署と本計画策定の部署が同じであったため、必然的に後にずれ込んでいたわけですが、国・県からの計画策定の要請の度合いは次第に強くなっていきました。
この状況の中、ようやく策定した計画では、町民の健康増進、観光振興、安全な自転車空間の整備等を盛り込んでいます。また、温暖化が進む中、通勤・通学等に自転車を活用することで、2050年までに温室効果ガス排出量と吸収量がつり合う状態いわゆるカーボンニュートラルの形成を目指しています。
排出量を抑える取組も大切ですが、吸収量においては幸いにも、町の面積の8割を占める森林が存在しており、ポテンシャルは十分あり、これを活かさずにはいられません。2023年度に策定する「北広島町新たな森林資源活用ビジョン」において、カーボンニュートラル社会の実現や生物多様性、山地災害防止、新産業創出等、そのポテンシャルをより広範な領域において発揮するため、森林資源活用の取組を具現化していきたいと考えています。森林に親しむことや木育等も大切なことと考えています。
移動手段として日常的な自転車利用を促進するため、中山間地で急勾配の道路も少なくない北広島町にとっては、電動アシスト自転車が有効と考えます。町の施策としてゼロカーボンタウン推進加速化補助金メニューのひとつに購入費助成を取り入れたところです。
四季を通じて多様な自然環境を満喫してもらうため、また魅力ある地域資源を有効活用してスポーツ、健康、経済の活性化等を目的として「やまがたサイクリングロード」の整備に取り組んでいます。このサイクリングロードは、山県郡を構成する安芸太田町と北広島町の観光地6コースをスタート・ゴールとするもので、それぞれのコースには、路面標示や案内標識等の整備を順次進めています。「やまがたサイクリングマップ」も作成し、道の駅などで配布しています。この、サイクリングロードを基本にコース設定したイベントである「FunRideひろしま in やまがたサイクルランド」は、コロナ禍で中止を余儀なくされていましたが、2022年は3年ぶりに開催し、県内外から90名を超える参加者がありました。2023年も8月11日「山の日」に盛大に開催することができました。
また、町内の芸北小学校が2010年度から取り組んでいる交通安全子供自転車大会では、2017年8月に東京で開催された第53回交通安全子供自転車全国大会において団体優勝を飾っています。運転技能はもちろん交通ルールやマナー等も身につけてこその快挙であり、ほかの小学校にも普及していければと考えています。
さらに町内には、民間が運営するレンタサイクルステーションがあります。「e-bikeガイドツアー」は、戦国大名毛利元就の次男である吉川元春に関連する史跡・神社が数多く残る町内を、e-bikeで巡るツアーを催行しています。
これからも排気ガスを出さないエコな乗り物、自転車のより一層の普及活用をとおして、ゼロカーボンタウン、持続可能なまちづくりを目指してまいります。
広島県北広島町長
箕野 博司