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山形県小国町/地域農政未来塾 最優秀論文受賞者を訪ねてー生源寺塾長が山形県小国町を訪問ー

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年1月29日更新

マタギの郷交流館の前で。生源寺塾長(右)と小松佳帆里さん(左)

▲ 山形県小国町小玉川地区にある「マタギの郷交流館」前で。 地域農政未来塾・生源寺眞一塾長(右)、
令和4年度同塾の最優秀論文賞受賞者・小松佳帆里さん(左)。


山形県小国町

3267号(2024年1月29日)
全国町村会 経済農林部


 全国町村会の地域農政未来塾(塾長・生源寺眞一(公財)日本農業研究所研究員)は、平成28年に開講、令和2年度の中断を除き、現在7期が開講している。全国各地から集まった約20名の塾生は、講義のほか4名の主任講師の指導のもとで各ゼミに分かれて議論、総仕上げとして修了論文を執筆する。

 修了式では、塾長が最優秀論文賞、優秀論文賞を選定し、表彰している。

 令和4年度(第6期)の最優秀論文に選ばれたのは、山形県小国町職員、小松佳帆里さんの「地域資源を活用してつなぐ鳥獣被害対策の未来~『“白い森”おぐにのマタギ文化』の視点から~」だった。

 令和5年10月に生源寺塾長が現地を訪ね、小松さんの近況をはじめ仁科洋一町長、歴代の地域農政未来塾の受講生とも懇談、地域農政未来塾の意義等について意見交換した。

小国町の概要

 山形県西置賜郡小国町は、山形県の南部、新潟県との県境に位置する、人口7,085人(令和4年1月住民基本台帳人口)の町である。面積は東京23区よりも広い737.56km、9割以上はブナをはじめとする広葉樹林に覆われている。

 森林の多くを占めるブナの樹皮が白いことや、町全体が冬に雪に覆われ白くなることから、「白い森」と表現し、「白い森の国おぐに」をコンセプトに町づくりを推進している。

 また、町には森との関わりによって、長い時間をかけて培われてきた「ブナ文化」と呼ばれる独特の生活文化が存在し、ツキノワグマ等の野生動物を捕獲する「マタギ」は全国的に知られている。

論文執筆の背景

マタギの歴史や文化に関わる資料を展示して いる交流館

 小松さんの論文のタイトルは、「地域資源を活用してつなぐ鳥獣被害対策の未来~『“白い森”おぐにのマタギ文化」の視点から~」。

 鳥獣被害対策をテーマにおいた背景には、小松さん自身の関心と活動がある。大学在学中に町を訪れ、地元のマタギと知り合い、彼らが山を大切にし、「山の神様から授かった」(小松さん)獲物を仲間で平等に分配し、決して無駄にすることのない姿に触れた。やがて、マタギの世界に強く惹かれ、自ら狩猟免許を取得。天童市から小国町に移住し、町の職員となった。

 小松さんは役場職員として勤務する一方、猟友会のメンバーとしても活動している。マタギたちとの会話の中で、「高齢化が進み、もう継続できなくなるのでは」という声を聞き、危機感を抱いたのがきっかけだ。

町の鳥獣害対策と小松論文における政策提案

現役ハンターでもある小松さんのフィールドで話を聞く

  小国町では、「鳥獣被害防止計画」に基づき各種被害防止対策を行っている。2つの取組があり、1つが防護柵の設置等に関する取組、もう1つが、捕獲等に関する取組だ。
  
  後者については、町の狩猟者で構成された小国町猟友会の会員全員が鳥獣被害対策実施隊員として委嘱を受け、8班体制で捕獲等に従事している。令和4年4月時点で、93名が会員だ。

  町でマタギの数が減るということは、有害鳥獣対策を行う人が減ることを意味する。小松さんはこれを、「捕獲者の減少に伴う農作物被害の深刻化に加え、小国町で長年受け継がれてきた「マタギ文化」継承においても大きな課題」となるととらえ、「マタギを増やすためにできること」を提案すべく、現状を分析する。

  鳥獣被害対策実施隊員93名のうち、60代以上が4分の3を占めており、今後の駆除活動をメインに担っていく50代以下が少なく、さらに、8つある班ごとで見ていくと、50代以下の隊員が2人以下という班が5つあり、担い手が確実に不足する日が間近に迫っている。

  論文では、その要因について、1つが金銭面の課題であるとする。狩猟免許や銃の所持許可を新たに取得した者への補助は町が行っているものの、活動を継続していくための費用に対する公的な補助がない。捕獲等に従事するための資格を維持していくには、更新の都度、金銭的な負担が伴う。

 この課題を解決するために、小松さんは、猟銃等講習会や射撃教習にかかる手数料など、猟銃所持許可を新規に取得する際の補助額と、講習受講料など狩猟免許の新規取得に対する補助額を参考に、更新等にかかる費用を算出した。それを町の現状である93名の状況と照らし合わせ、必要となる経費は1年度あたり約100万円と試算している。また、この財源を賄うため、ガバメントクラウドファンディングを行い、「小国町のマタギを支援する」という目的で寄付を促す。

飯豊山峰を望む

 小松さんは、こうした「実務的な側面」(論文講評の場での生源寺塾長の言葉)での提案とともに、「付加価値としての『マタギ文化』の活用」を提案。江戸時代から続く「小国のマタギ」を、イベント等を通じて多くの人に知ってもらうことが、前述した金銭面でのサポートや、新しい担い手を生み出すきっかけにつながるのではないかと考察している。生源寺塾長は小松さんの論文について、「徹底して深い分析、具体的な提案を行ったケースはこれまでなかったと思う」と、高く評価した。

小国町における職員の育成と地域農政未来塾


生源寺塾長と歴代の塾生

 小国町では今年度を含め、これまで5名の職員が地域農政未来塾を受講している。町村役場では、定員管理の厳しさもあり、複数回にわたる宿泊研修に職員を派遣するゆとりがなかなかないのが現状であろう。

 この点について、仁科洋一小国町長は、「職員は、積極的に研修に参加してくれ、終えたあと、一回り大きくなっていると感じる」と述べる。「(外に出ることで)人や地域の多様性が理解でき、考え方が広がる。1つの見方しかできないというのは困るので、研修は職員の能力、考え方を広げていくという点で必要だ」と、人材育成の重要性を強調する。

 地域農政未来塾は、月に1回、木曜日9時から金曜日17時までのプログラムとなっているため、3日間程度、職場を不在にすることになる。塾への参加にあたっては、本人の意欲とともに、職場の理解も欠かせない。

歴代塾生とともに当時を振り返った

 「職場の仲間は、快く送り出してくれる」と語るのは、塾5期生で町のブランディング事業を担当する遠藤愛さん。現在受講中の伊藤澪奈さんも、「頑張って行ってきてと言われ、フォローしてもらい、ありがたい」と周囲のサポートに感謝する。
  20数年前に一般財団法人地域活性化センター主催の「全国地域リーダー養成塾」を受講した阿部英明副町長は、「未来塾でお世話になった講師を町に招くといった、つながりができている」と語る。町から初めて塾に参加した2期生で、総務企画課所属の今美穂さんは、今回の訪問に合わせ、生源寺塾長による職員向けの講演会を企画した。阿部副町長のいう講師とのつながりが活かされたのである。

生源寺塾長講演:町村職員への期待

 今さんの企画を受け、生源寺塾長は小国町職員に対し、「町村職員の皆様への期待~地域農政未来塾の経験から」と題する講演を行った。

 講演の中で、塾長は農村が多層的な空間を利用していること、農業政策が農村政策と重なり、他の政策とも深く関係することを指摘。塾に参加することは、立地条件など多彩な町村の特色を再確認する場になると述べた。

 また、未来塾への自身のかかわりを通じ、町村役場の総合力、分野横断的な潜在力に気づかされ、教える側が教えられることもあると振り返り、様々な分野を担当する町村職員の分野横断的な経験と交流を活かす工夫が、農村政策には有益であると締め括った。

訪問を終えて

生源寺塾長による講演の様子

 地域農政未来塾の受講について、小松さんは「楽しかった」と笑顔で話してくれた。さらに、「山形県の研修で県内市町村職員と会う機会はあっても、時間がなくお互いを知り合えない。未来塾は、さまざまな世代の全国の町村職員との交流を通じ、お互いの自治体のことなど情報交換できる場であり、ぜひとも参加してほしい」と付け加えた。

 地域農政未来塾では、農政等の分野において第一線で活躍する、厳選された講師が講義する。本塾に参加すれば、関連知識や物の見方、ゼミの討論で1つのテーマを掘り下げる力などを得ることができる。

 さらに、今回の訪問を通じて、未来塾は講師と塾生、塾生同士の交流を通して、視点を拡げ、塾後も続くネットワークを生み出す場であるとも感じた。各期の研修人数は多くはないが、塾を経験した町村役場職員は全国で増えている。このネットワークが今後も広がるよう期待したい。

 

全国町村会 経済農林部

-小国町が推進する施策-

「おぐマル」大塚さんも移住者の一人

●おぐにマルチワーク事業協同組合

 「おぐにマルチワーク事業協同組合」(「おぐマル」)は、令和2年度に創設された「特定地域づくり事業協同組合制度」を利用、山形県内で初めて認定を受けた。町役場の総合政策課(当時)が窓口になり、関係者と調整を経て実現にこぎつけた。

 事務局長は、地域おこし協力隊のOBである。訪れた日は事務局員で自身も移住者の大塚亮平さんから話を聞いた。小国町の暮らしには、春は山菜採り、夏は野菜収穫や川での釣り、秋は米やキノコ狩り、冬は除雪業や味噌の仕込みなど、マルチワーク(複業。1つの仕事のみに従事するのではなく、同時に複数の仕事に携わる働き方のこと)の前提となる働き方があるという。現在、17事業者が加盟しており、各事業者に派遣されるマルチワーカー7名、事務局員2名で運営している。大塚さんは、事業者は長期で働ける人を希望しているが、ある程度人が入れ替わっても仕事が回る環境づくりにマルチワーカーが貢献していると話していた。

●おぐに移住者コミュニティ「つむぐ」

4期生の横山真由美さん

 4期生の横山真由美さんは、塾受講後、移住者コミュニティ「つむぐ」の事業を手掛けた。まず、移住者のニーズを聞くため、「移住者女子会」を開催し、そこに地域の人が参加するような仕組みを整えた。すると、より生活に密着した有益な情報が入ってくるようになった。現在、約100名が集い、移住者だけでなく、町出身の大人や高校生、町外に拠点を持ちながら小国町に関わっている人で構成されている。芋煮会やマルシェ、クリスマス会といった季節のイベントを開催したり、地域の方を先生に料理教室を開催したり、地域内の名所を散策したりと活動の幅は広い。

コワーキングスペース「カモスク(KAMOSQ)」

 カモスク店長の村上友梨さんと壁面のブックマンション