▲児童が模擬議会で提案した「まちづくりプラン」から実現した駅前のベンチ
千葉県酒々井町
3260号(2023年11月13日)
千葉県酒々井町 総務課 政策秘書室
酒々井町は、千葉県の北部、北総台地の中央に位置し、県内では2番目に小さな19.01km²の町域に、人口20,280人(令和5年8月1日)が暮らす、中学校1校、小学校2校のコンパクトな町です。町の歴史は古く、約3万4千年前の国史跡「墨古沢遺跡」の旧石器時代から人々の交流があった町です。東京都心から50㎞圏内にありながら、緑豊かな自然環境と温暖な気候に恵まれ、清らかな湧水や地下水も豊富なことから、親思いの孝行息子が見つけた井戸から汲んだ水が酒になったという「酒の井伝説」が町名の由来となっています。
延徳2(1490)年、戦国大名千葉氏が本佐倉城下の町立てを行ったのが起源とされ、その後、天正19(1591)年には、徳川家康による町割りにより近世の宿場町となり、さらに明治22年の町村制施行により近隣16町村が合併し、新生「酒々井町」が誕生しました。以来、当時の形を変えず独立独歩の町として着実に歩みを続け、昭和40年代後半から昭和50年代にかけては、大規模な住宅開発に伴う急激な人口増加によって、農業中心の町から都市機能を備えた住宅都市へと変貌し、人口2万人を超える町へと発展しました。令和6年4月には135周年を迎える「日本で一番古い歴史を持つ町」となっています。
しかしながら、全国的な少子高齢化の流れの中で人口減少は避けることができず、町では、子育て世帯の転入増加や出生率の上昇という目標を掲げる一方で、人口減少を少しでも食い止めるために、この町に住む子どもたち、そしてこれから生まれてくる子どもたちが、町外に転出することなく暮らし続けてもらう、また転出したとしても、再び町に戻ってきてもらえるように、郷土愛を育む教育施策に取り組んでいます。
平成29年度から町教育施策の事業で、町の特色ある地域素材や自分たちの生活環境等を素材として、児童生徒が主体的に郷土について学習する「ふるさと学習」(以下、酒々井学)を導入しました。
酒々井学は、町の地域素材を使い、教科等の学習内容と関連づけて実践する地域学習で、町の歴史・文化・自然等について知ることで、郷土に対して愛着と誇りを持ち、町民としてのふるさと意識を育むことをねらいとしています。
主権者とは、自分たちは社会に生かされているという受動的な意識から、自分たちが社会をつくっているという主体的な意識を持って、社会に参画する者と捉えています。そして、主権者教育とは、国や社会の問題を自分の問題として捉え、自ら考え、自ら判断し、行動していく主権者を育成していくことです。
この実践の下地にあるものが、「ふるさと意識」です。まずは、自分が暮らす町に対して「自分の町」であるという所有格(My まち・Our まち)の意識を育むことが基本となります。この児童の所有格意識を基本にして学習することで、町の魅力や改善点に気づき、よりよい町にするための「まちづくりプラン」について、自ら考え、自ら判断し、行動していく主権者を育成することにつながっていきます。
平成28年に改正公職選挙法が施行され、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたことを契機に、主権者意識を培う観点から、多くの自治体が「子ども議会」を行うようになりました。
当町では平成18年度から中学生を対象とした「中学生模擬議会」を実施していましたが、平成28年度からは、酒々井学の一環として、小学生も参加する「こども模擬議会」として開催しています。
学習指導要領では、主権者教育に関する指導内容が記載されていますが、学校や役場関係課に意識の共有化を図ることは難しく、小学校6学年を対象にした、既存の町総合計画を説明する授業と、「こども模擬議会」とを結びつける学習プログラムを新たに作成し、共通理解を図りました。
また、教員に対しては、町民の一員でもある子どもを、まちづくりに参画する主権者として育成することは、町に奉職する教員の使命でもあると伝えています。
小学校学習指導要領 第6学年社会科の内容では、「国や地方公共団体の政治は、国民主権の考え方の下、国民生活の安定と向上を図る大切な働きをしていることを理解すること」と記載されています。
これを受けて、児童が暮らす町の生活環境の現状に対して関心を持ち、町民としての視点を持って、主体的にまちづくりについて考える学習活動を展開しました。学習は、社会科の単元「わたしたちの生活と政治」と関連づけて、導入段階において、「町民の願いはどのように実現されるのだろうか」という学習問題で始まりました。
(1)町役場関係課との連携による導入授業(7月)
企画財政課の職員が、児童に対して公共施設「プリミエール酒々井」(町立図書館・文化ホール)の建設の経緯について説明し、町民の願いを実現するための行政の仕組みについて解説しました。次に、町総合計画(子ども版)を使って、行政のまちづくり計画について説明しました。児童は、暮らしと行政との関わりを知ることで、まちづくりの視点で自分たちの身近な生活環境を調べようとする目的意識を持つことができました(写真1)。
そして、学習問題「酒々井町は、町民にとってくらしやすい町だろうか」を設定しました。児童は、町の様子を想起して、予想「くらしやすい・くらしにくい」を立て、各自の予想を確かめる根拠(証拠)となる資料を収集する問題解決的な学習に取り組んでいきました。
(2)多面的・多角的な視点での 調査活動(夏季休業期間)
これまでに児童が作成した「まちづくりプラン」は、当然のことながら自分たちの身近な生活圏である学校、通学路、公園といったテーマが中心でした。
そこで、児童の視野を広げるために、新聞記事の活用(NIE)やSDGs(持続可能な開発目標)の視点を導入しました。これは、県内の他市町村のまちづくりに関する記事を参考にしたり(写真2)、SDGsの視点で町の環境を見直したりする調査活動です。この調査内容を基に町行政の取組について、町の広報誌やWEBで確認したり、役場に直接質問したりします(写真3)。
この活動により、児童は多面的・多角的な視点でまちづくりについて考えられるようになりました。その後、調査内容を基に、自分で調べた町の生活環境の課題から考えた内容を文章や図を使って「まちづくりプラン」シートにまとめました(写真4)。
▲右上:写真2 他市町村のまちづくりに関する新聞記事を読む児童
▲右下:写真3 SDGs に関する役場の取組について質問する児童
▲左:写真4 調査結果を基に児童が作成した「まちづくりプラン」シート
(3)「まちづくりプラン」の発表と模擬選挙(9月)
はじめに選挙管理委員会の職員から、選挙の仕組みについて説明を受けた後に(写真5)、学級ごとに各自の「まちづくりプラン」を発表し合いました(写真6)。
その後、学級ごとに発表した「まちづくりプラン」を基に、選挙管理委員会から借用した記載台と投票箱、実物と同じ素材の模擬投票用紙を使用して、模擬議会の代表者1名を選出しました(写真7)。
本格的な選挙を模擬的に体験することで、緊張感の中にも、政治に主体的に関わる町民としての主権者意識の基礎を育むことができました。
▲左:写真5 選挙管理委員会の職員による説明を聞く児童
▲右:写真6 学級内で「まちづくりプラン」を発表する児童
▲写真7 こども模擬議会の代表者を選出する模擬選挙
(4)こども模擬議会の開催(10月)
総務課、議会事務局及び教育委員会が連携して、各小・中学校の児童生徒15名が一般質問を行う模擬議会を開催しました。令和4年度は、各小学校の模擬選挙により選ばれた5名の児童が、次の5点の質問と提案をしました(写真8)。
1. 町の交流スペースとしてのカフェの設置
2. 商業施設を誘致する活動
3. 公共施設利用率向上のためのイベントの周知
4. 町の横断歩道への音響信号の設置
5. 町の魅力を高めるための町のベンチ及びベンチマップの作成
この中から5の提案に対して、まちづくり課が計画書(写真9)を参考に提案児童と打合せを行い、実際に駅前にベンチを設置することになりました(ページトップ写真参照)。
▲写真9 模擬議会で提出された、提案児童が作成した
「まちづくりプラン計画書」。その後、計画書にもとづいた
事業が実施された
児童は、この学習を通して町の現状を見つめて、よりよい町にするための方策を主体的に考えるようになりました。また、それを自分だけのプランに止めずに町行政に反映させることの可能性を感じ取り、主権者意識を育むことにつながりました。
本実践の課題としては、学習指導要領「社会科」の目標である公民としての資質・能力の基礎を育成するためにも、児童生徒に単なる町への要望だけではなく、町のために自分たちにできることを考えて行動するための参画意識をより一層高めていくことと考えております。
子どもたちが大人になっても、この町に住み続けてもらうためには、何よりも町自体に「居住地」としての魅力が備わっていることが重要です。
災害に強く安全・安心に暮らすことができるまち、魅力ある雇用の場が十分に確保されているまち、子育て施策が充実し子どもを産み育てる環境が整備されたまち、伝統や文化を礎に子どもから高齢者まで地域がつながりを持つまち、こうしたひとつひとつのまちづくりの目標を達成していくことで、今の子どもたちに向けて行っている取組が将来に実を結び、さらには、その効果が波及することで転入者の増加にもつながってくれることを期待しています。
千葉県酒々井町 総務課 政策秘書室