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奈良県広陵町/広陵町の活力向上に向けた官民連携の取組ー地場産業を中心に、元気な企業が集まるまちを目指してー

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年10月23日更新

町内の靴下工場

▲町内の靴下工場。「靴下生産量日本一」の広陵町における靴下製造の歴史は江戸時代まで遡る


奈良県広陵町

3258号(2023年10月23日)
奈良県広陵町 産業総合支援課
課長 松谷 智


1.広陵町の概要


かぐや姫ゆかりの地と言われる讃岐神社
▲かぐや姫ゆかりの地と言われる讃岐神社

​ 広陵町は奈良盆地の南西部に位置し、近畿圏の中核都市である大阪市とは直線で約30㎞の距離にあります。ベッドタウンでありながら公園や歴史的遺産が多く、文化薫る自然豊かな町です。箸尾駅を中心として発展してきた北部地域、地元の靴下産業が息づく西部地域、のどかな田園風景が広がる東部地域、閑静な住宅街が広がる真美ヶ丘ニュータウン地域と大きく4つに分けられます。『竹取物語』に登場するかぐや姫の育ての親「竹取の翁」こと讃岐造が本町に現存する讃岐神社の周辺に勢力を持っていた讃岐氏をモデルとしていることから「かぐや姫のふるさと」と言われています。

「かぐや姫のふるさと」と言われる町内にある「竹取公園」
▲「かぐや姫のふるさと」と言われる町内にある「竹取公園」

2.靴下の歴史と現状

 本町では江戸時代初めより農家の副業として、大和木綿、大和絣を産出していました。近代になり、紡績・紡織は機械で大量生産され、大和木綿や絣は廃れましたが、機織りに代わって靴下製造が開始されました。靴下製造業は、靴下仕上業や刺繍業など靴下生産工程別に分業が進み、靴下製造に関わる全工程がワンストップで行える町として、高度な生産技術が受け継がれ、国内生産高日本一を誇る産地として大きく成長してきました。

 靴下事業者のほとんどは他社ブランドの製品を製造するOEM生産で下請け受注がメインですが、長年にわたり脈々と引き継がれた生産技術を活かし、オリジナルブランドの開発を積極的に行う事業者もあります。アウトドアやスポーツに特化したブランド、オーガニックにこだわったブランド、ローゲージによる柔らかい履き心地にこだわったブランドなど、その方向性はさまざまです。

 全国でも有数の産地を形成するまでに成長した靴下産業ですが、近年は、安価な海外製品に押され、生産量は大幅に減少し、靴下関連事業所数は減少しています。

 また、技術者などの担い手不足による基本的な課題だけでなく販路開拓、設備投資、技能・技術の承継に係るコスト、環境配慮の必要性、働き方の多様化など、社会環境の変化への対応等、持続的な産地形成を維持するために課題は山積しています。

3.「広陵町中小企業・小規模企業振興基本条例」の制定について


ワークショップ
▲「住みやすく」「働きやすく」「起業しやすい」環境整
備を推進するための条例制定に向けたワークショップ

 前述の課題は、靴下産業に限ったことではありません。そこで本町は地場産業の振興とともに地域経済が循環し、町が発展するためには、靴下産業を含む地域の中小企業・小規模企業の役割が重要であるとし、事業者の持続的な維持・発展を支援し「住みやすく」「働きやすく」「起業しやすい」環境整備を推進するための基本的な理念と方向性を示すため条例が必要であると考えました。町内事業所をはじめ商工業関連団体及び大学等の地域の方々とともに条例制定に向けた検討会を立ち上げ、ワークショップやシンポジウムを通して議論を重ねました。

 さまざまな議論を重ねた結果、平成30年10月に奈良県下で初めて、産業の振興について、振興施策を総合的に推進し、もって町民生活の向上を図ることを目的とした「広陵町中小企業・小規模企業振興基本条例」を制定することができました。

 併せて、平成31年4月に条例の理念を実効性のあるものにするため中小企業・小規模企業の振興に関する方針と施策内容の共有を図り、町内それぞれの主体が積極的に参画・連携・協力しながら中小企業・小規模企業の振興を推進することを目的に「広陵町中小企業・小規模企業振興計画」を5か年計画で策定しました。この計画に基づき、広陵町中小企業・小規模振興会議を立ち上げ、今後の目指すべき姿と課題解決策を議論し、町に提言書が提出されました。提言書に記載された内容に基づき、新商品や創業に関する補助金制度の創設、コロナ禍における事業者支援策の構築を実施しました。なかでも最大の成果と言えるのが、販路開拓等を伴走型で支援する広陵町産業総合振興機構「なりわい」や広陵高田ビジネスサポートセンター(ココビズ)の開設です。

シンポジウム
▲条例制定に向けて開催された「広陵町の中小企業等が元気になるための
シンポジウム」には約70名が出席した

4.広陵町産業総合振興機構「なりわい」

なりわいのロゴ

 令和2年3月、本町の各産業の課題解決のため、地域産業育成、農業振興、観光振興に係る事業を、企画・展開することにより、稼ぐ力を上昇させ、各産業の持続的発展と地域社会経済の活性化、地域経済循環率の向上を目的として、一般社団法人「広陵町産業総合振興機構 なりわい」が設立されました。

 「なりわい」の愛称には、「町まるごと商品化」をコンセプトに、私たちの暮らしがさまざまな産業(生業)により成り立っており、町内全ての産業(生業)をつなぐことで、広陵町を元気にしたいという思いが込められています。

 「なりわい」の事業は、靴下博物館の運営、ECサイトでの特産品販売や、広陵町の産品をふるさと納税の返礼品としてコーディネートするふるさと納税管理業務、各産業のビジネスコンサルティング事業である広陵高田ビジネスサポートセンター(ココビズ)の運営のほか町内産品販売事業等の販路開拓や、タウンプロモーションなど多岐にわたります。

5.広陵高田ビジネスサポートセンター(ココビズ)

プロから無料でビジネスサポートを受けられる
▲プロから無料でビジネスサポートを受けられる

 事業者の課題解決と販路拡大を目的に、令和2年12月に広陵町と大和高田市が共同で奈良県初となるBizモデル「広陵高田ビジネスサポートセンターKoCo-Biz」を立ち上げました。

 この事業は「なりわい」に業務を委託し行っている事業で、「お金をかけずに売上アップ」をコンセプトに、センター長にはプロフェッショナルな人材を登用した無料のビジネスサポートセンターです。

 このセンターでは地域のさまざまな事業者の強み、弱みをセンター長が丁寧にヒアリングし、事業所が抱えている課題を知恵とアイデアを出し解決していきます。徹底的に事業者に寄り添い、流れを変えていきます。
 また、インスタグラマーやユーチューバーなどを招き、今のトレンドを取り入れたセミナーなどを開催しています。
 令和4年の相談件数は約1,000件、リピート率75%と大変人気で、行列のできるサポートセンターとなっています。

6.「広陵くつした」としての取組

「広陵くつした」ブランディング

 本町の地場産業である靴下産業は国内で有数の生産量であるにもかかわらず、歴史や製造工程において他の産地と差別化できる要素に乏しいという課題がありました。しかし、長い歴史のなかで培った確かな技術力と「どんな靴下でも町内で生産できる」という多様性は他の産地に負けていない特徴と言えます。そこで、「広陵くつした」という地域ブランドを確立させ、知名度及びイメージの向上を図るため、ワーキンググループをつくり、今後のブランディングの進め方について検討しています。

 ワーキンググループには国内外のアパレル業界や小売業界に幅広い人脈を持つアドバイザーを招聘するとともに町内に拠点を持つ大学や金融機関が参画し、商工会、なりわい、ココビズが支援する体制をとっています。

 ワーキンググループではブランディングを検討するなかで事業者がそれぞれに得意な分野を持ち、材質もさまざまであることから品質に画一的な基準を設けてブランディングすることは困難であると結論づけました。

 そのため、現在では靴下というモノを中心に置きファッション、コンフォート、スポーツ、ヘルスといった分野で事業(コト)を展開し、「モノ×コト」のかけ算で広陵町を靴下の聖地、ひいては足元の聖地として進化していくことを「広陵くつした」ブランディングの方向性として掲げています。本格始動する令和5年度は、アパレルメーカーと靴下事業者のコラボによる商品開発や教育現場での足育促進事業など各分野で「モノ×コト」を推進していく予定です。


広陵くつした博物館

製造過程を映像配信
▲靴下デザインから箱詰めまでの製造過程を映像配信

 令和2年7月にオープンした広陵くつした博物館は、靴下に関するあらゆる情報の“発信拠点”です。原料の綿や糸、靴下編み機一部の展示やAR技術を活用したデジタル年表のほか、モニターで製造過程や工場内のVR動画を見ることができます。また、町内にある靴下事業者のオリジナルブランドの商品を購入することが可能であり、運営するなりわいスタッフが「こんな機能やデザインの靴下はないの?」、「テレビや新聞で見たあの靴下はどこで買えるの?」といった相談に対して、商品の販売や紹介をします。

広陵くつした博物館
▲「広陵くつした博物館」では町内の靴下事業者オリジナルブランド商品を購入できるほか、デジタル
技術を 活用した情報が発信されている


靴下自動販売機

靴下自動販売機
▲令和4年5月に設置された「靴下自動販売機」では町内事業者の
靴下が購入可能(左が自動販売機正面、右が靴下販売部分のアップ)

 令和4年5月に靴下産業のPRを目的に、ダイドービバレッジサービス株式会社様のご協力を得て町内の公共施設、商業施設等、10か所に本町の靴下を購入できる自動販売機を設置しました。靴下デザインコンテストで全国から集まったデザインを町内の靴下事業者が編み上げた靴下などを販売し、町内外に地場産業の発信をしています。

7.これからの中小企業・小規模企業支援について

 条例に基づいて策定した広陵町中小企業・小規模事業振興計画は計画の最終年度を迎えます。なりわい、ココビズといった成果があった一方で計画期間中には新型コロナウイルスの蔓延や原油高、物価高を経験しました。それらを踏まえ、令和4年度には町内事業者の状況を把握すべく、事業者悉皆調査を実施し、結果を基に事業者の声を聞きながら必要なところに支援が届くよう第二期計画の策定を進めているところです。

 広陵町の靴下産業においては、自社ブランド展開に活路を見出そうとしている事業者を支えるため、「広陵くつした」の認知度を高め、各社の自社ブランドの価値を向上させ、将来的には「広陵くつした」が世界中から愛されるブランドになることを目指しています。

 そして、全ての事業者が新たな販路や顧客を獲得しやすい環境を整えることで、収益を向上させ、従業員や取引先の待遇改善、新たな従業員の雇用を促進するとともに、事業を承継したいと思わせる環境をつくることで持続可能な産地となり、さらには地域の基盤産業である靴下産業から広陵町全体が元気になることを目指します。

奈良県広陵町 産業総合支援課
課長 松谷 智