▲立山黒部アルペンルート「雪の大谷」
富山県立山町
3255号(2023年10月2日)
富山県立山町長 舟橋 貴之
立山町は、富山県のほぼ中央から南東にかけて細長く位置し、総面積307.29km²(一部境界未定)、人口24,920人(令和5年1月1日時点)を有する自然豊かな町です。町の北西部は、日本一の急流河川である常願寺川が形成した扇状地であり、緑豊かな田園風景が広がっています。一方、南東部は、標高3,000m級の山々が連なる北アルプス立山連峰がそびえ立っており、東西で変化に富んだ地形となっています。
立山連峰に降り積もる雪は豊かで良質な水資源となり、住民の暮らしや産業を潤しています。北陸自動車道が市街地北部を通るなど道路網が発達しており、町中心部からJR富山駅、富山空港、富山市中心部等へはいずれも車で30分という良好なアクセスとなっています。このような地の利を得て、農業では主に水稲栽培が行われ、企業立地も進んでいます。
また、立山は日本三霊山のひとつとして古くから信仰の対象であり、多くの登拝者が訪れましたが、現代では、長野県大町市とつながる山岳観光ルート「立山黒部アルペンルート」を中心に、国内外から年間80万人以上の観光客が訪れます。山岳信仰の伝統文化とともに、ラムサール条約登録湿地の「立山弥陀ヶ原・大日平」、落差日本一の「称名滝」、映画の舞台にもなった日本一の堤高(186m)を誇る「黒部ダム」など豊かな自然とダイナミックな景観が楽しめる世界有数の山岳観光地となっています。
立山ケーブルカーの発着地「立山駅」は、山岳観光ルート「立山黒部アルペンルート」の富山県側の玄関口として、大勢の観光客で賑わいます。
その一方で、繁忙期における駐車場のキャパシティ不足やケーブルカーの長時間におよぶ待ち時間が課題となっていました。
そこで、町は「立山黒部アルペンルート」をより上質な観光地として生まれ変わらせることを目指し、立山黒部アルペンルート「リ・デザイン」として、観光客が長く滞在する立山駅前の再整備(リ・デザイン)に着手しました。
一つ目は、立山駅前ロータリーの無電柱化です。かつて富山県が整備した駅前ロータリーには電柱が立ち並び、貴重な自然の宝庫である「中部山岳国立公園」の入り口に立っているにもかかわらずワクワク感が感じられません。防災拠点である国土交通省立山砂防事務所へ通じる道路として災害時の緊急通行確保路線(2次)に指定されていることも踏まえ、町では、平成28年度から無電柱化の構想を打ち出しました。駅周辺の電線を地中に埋設し、電柱計8本のうち6本を撤去・移設する電線共同溝整備計画に基づき、令和元年度に着工しました。全体事業費は約9600万円で、財源には国の社会資本整備総合交付金やふるさと納税型クラウドファンディング(約3000万円)を活用し、電線管理者による地上機器設置や入線工事等を含め約3年の工事期間を経て令和4年春に完成しました。
▲無電柱化工事前
▲無電柱化工事後
二つ目は、立山駅前の看板や自動販売機の色調を統一する景観の整備です。
アウトドア総合メーカー「モンベル」が令和2年度に策定した観光指針「立山グランドデザイン」に基づき、令和3年度から令和4年度にかけて、環境省や観光庁の補助金を活用して、看板計8か所、自動販売機計3か所を整備しました(全体事業費は約994万円)。さらに、令和5年度には周辺案内看板計3か所の多言語化を計画しています。
▲色調が統一された看板や自動販売機
また、駅前にある廃業旅館の景観に悩んでいたところ、民間事業者から「カフェ兼ゲストハウスとして活用したい」との相談があり、廃屋の一部撤去と改修に対する環境省補助事業の採択に向け支援しました。現在、完成したこの施設には、立山町観光協会のサテライト観光案内所も入っています。
三つ目は、立山駅周辺駐車場の有料化実証実験です。コロナ禍において旅行形態の個人化がますます進んで少人数単位での来訪が増加しています。そのため、繁忙期における駅周辺駐車場の混雑が悪化し、路上駐車や枠外駐車による閉じ込めの問題が生じるようになりました。そこで、分散駐車を促し、「有料でも安心して観光を楽しみたい」というニーズを調査するため、令和3年10月に駐車場有料化の実証実験を行いました。立山駅に最も近い県管理駐車場と町管理駐車場の2か所で、県駐車場は1台あたり1000円、町駐車場は500円の協力金を求めるかたちで実施しました。利用者へのアンケート結果では、「有料でも安心して車を停めることができる駐車場があれば利用する」と答えた人が8割にのぼるなど、一定のニーズを示す結果となりました。令和4年度には県が無料駐車場の出入口に発券機付きゲートを設置して利用実態の調査を始めており、県や地元関係者と課題を整理しながら、混雑解消に向けた取組を進めています。
山間部の観光地の上質化に取り組む一方で、中心部(まちなか)の衰退が、町の未来を左右する大きな課題となっています。まちなかには高齢者のみの世帯が多くなり、商店街の店舗も相次いで閉店し、空き家が増えてきました。本町は、県内産業の集積地である富山市に隣接しているため、富山市に人や消費が流れやすく、町外で働き、町外で消費する傾向が強い経済構造となっています。内閣府の地域経済分析システムRESASによると、2018年時点の本町の民間消費支出流出入率は△31.3%、全国順位1611位とかなり下位となっており、消費が町外に流出している現状が如実に表れています。
この現状に対し、町内でお金を循環させて地域経済を活性化させるべく、町独自の電子地域通貨の導入に着手しました。令和元年度に町が主導して「立山町地域通貨振興加盟店協会」を設立し、町中心部にある交流施設「まちなかファーム」にその事務局をおきました。町は、国の地方創生推進交付金を活用して、独自の電子地域通貨「たてやまポイント(通称たてポ)」の開発と、町内加盟店に無償貸与するポイントシステム用のタブレット端末を整備しました。たてポは、加盟店での支払額に応じたポイントをICカードに付与し、貯めたポイントは加盟店での決済に利用できる仕組みです。
▲たてポの仕組み
具体的には、たてポのカード会員は、加盟店での利用額110円(税込)につき、たてポ1ポイントが付与され、貯めたポイントは1ポイント=1円として加盟店での支払いに利用することができます。加盟店は、システム利用料に加え、1ポイント発行するごとに2円をポイント精算金として加盟店協会に支払います。2円のうち1円分はポイントとして循環し、残りの1円は加盟店協会の運営費に充てられます。
また、このたてポの仕組みを活用し、町では、高齢者の外出支援を目的として、運転免許を返納した高齢者または一定の障がいのある方にタクシーや町営バスの運賃として利用できる月額2000円分のポイントをたてポカードに付与する事業をあわせて開始しました。その後、若年世帯の住宅取得などの各種補助金や健康づくりポイントなどをたてポで付与する行政ポイント付与事業を年々拡大させるとともに、国の補助金等を活用しながらポイント上乗せキャンペーンなどの消費喚起施策を実施し、町内での消費活動を支援しています。
令和元年10月からスタートした本事業は、令和5年3月時点でカード会員数11,343人、加盟店数82店舗と順調に普及拡大しており、令和4年度からは立山町地域通貨振興加盟店協会が主体となり、民間事業者のノウハウを活かしながら、さらなる加盟店拡大やカードのアプリ化などの事業展開に取り組んでいます。令和5年度にはLED照明をはじめとする省エネ設備等への切り替え促進にたてポを活用しています。
そのほかにも、まちなかの再設計事業として、現在解体中の築47年の立山町民会館と廃止予定の築45年の旧西部児童館、さらに役場庁舎から1㎞離れた場所にある水防拠点施設倉庫内の職員待機スペースの3つの機能を備えた複合施設を庁舎の隣に建設しています。
また、まちなかの老舗スーパーの廃業や子どもたちから「町に本屋さんを」との声を受け、庁舎敷地内に書店併設型のコンビニエンスストアを誘致し、令和6年3月のオープンに向けて準備しています。
富山県立山町長 舟橋 貴之
▲庁舎から眺む立山連峰