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和歌山県有田川町/循環型社会を目指して!自然にも町財政にもエコな取組「有田川エコプロジェクト」

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年8月28日

有田川町営二川小水力発電所

▲有田川町営二川小水力発電所。年間4,000万円以上の売電収入は環境施策等に活用されている


和歌山県有田川町

3251号(2023年8月28日)
和歌山県有田川町 建設環境部 環境衛生課


1.有田川町の概要


蛇行する有田川に沿った棚田「あらぎ島」
▲蛇行する有田川に沿った棚田「あらぎ島」

 有田川町は、平成18年に吉備町、金屋町、清水町が合併して誕生しました。

 人口は約2万6千人で、和歌山県のほぼ中央に位置し、東西に細長い形状をしています。高野山に源を発する町名の由来にもなっている有田川が町の中央を西に蛇行しながら流れており、豊かな自然と産業を生み出しています。

 その有田川と温暖な気候の恵みを受けて育った農産物と和歌山県で唯一棚田百選に選ばれ、重要文化的景観にも認定されている「あらぎ島」を代表する自然と調和した暮らしの風景が、有田川町の最大の魅力です。

 特に温州みかんは、日本一の生産量を誇る和歌山県にあって、有田みかんの重要な生産地です。また、山椒も日本一の生産量を誇ります。

 今回は、この豊かな郷土の自然と恵みを次の世代に引き継ぐことを目標に、「ごみ減量」と「再生可能エネルギーの普及」を軸に推進している循環型社会づくりの取組「有田川エコプロジェクト」を紹介します。

2.始まりは廃棄物の取組から

 取組のきっかけはバブル期に町に溢れ出した家庭ごみでした。

 当時は大量生産・大量消費が当たり前で、ごみのリサイクルや分別という言葉も聞きなれない時代でした。

 合併前の旧吉備町では、ごみ収集量もバブル期前と比べて約2倍となり、ごみ処理センターの処理能力がひっ迫する事態となりました。

 しかし、ごみの絶対量を減らすこともごみ処理センターの能力を向上させることも一朝一夕には不可能です。そこで旧吉備町が行った施策は、徹底したごみの分別リサイクルによる「ごみ減量化作戦」でした。

 「混ぜればごみ、分別すれば資源」を合言葉に、自治会との連携でごみ集積場のステーション化を進め、資源ごみのリサイクルによるごみの減量化に取り組みました。

 また、ステーション化により収集作業の大幅な効率化や自治会が率先してステーションの設置や運営を行ったため、住民の環境意識の醸成も進みました。

 これが、合併後の資源ごみのマイナス入札化に大きく寄与しました。それまでは年間約3200万円を支払い、資源ごみ収集運搬処理業務を委託していましたが、前述のステーション化と住民の分別意識の高さにより、高品質の資源ごみが評価され平成20年度からお金をいただいての資源ごみ収集が行われるようになりました。処理費用の削減は、住民の努力と高い環境意識のお陰です。そこで、現行の基金の前身である「低炭素社会づくり推進基金」を設立し、住民への還元施策の原資として削減した費用の積み立てを開始しました。

3.有田川エコプロジェクト始動

 平成21年度より「有田川エコプロジェクト」を立ち上げ、前述の基金を活用して、再生可能エネルギー利用促進やごみ減量化を軸としたエコなまちづくりの取組を始動しました。

 まずは、住民の再生可能エネルギー利用促進を目指して住宅用太陽光発電設備や太陽熱利用設備(主に太陽熱温水器)の設備補助制度を導入しました。また、町のごみ中間処理場であるプラスチック収集場の屋根へ平成25年度に11‌kw、平成27年度には30‌kwの太陽光発電設備を設置して売電を開始しました。さらに廃校となった小学校校舎にも太陽光発電設備を設置し、近年ブームのリノベーションとともに廃校利活用の一端を担い始めています。これらの売電益も基金に積み立て再投資を行っています。

 廃棄物減量の面では、生ごみ処理機購入補助やコンポスト無償貸与制度を新設しました。
 コンポストは累計1000基以上を住民に貸与し、貸与した住民からのアンケートによる推計では年間約200tの生ごみ減量化に寄与しています。

廃校となった旧峯口小学校に太陽光発電施設を設置 住民に貸与しているコンポスト
▲左:廃校となった旧峯口小学校に太陽光発電施設を設置している ▲右:住民に貸与しているコンポスト

4.町営二川小水力発電所

 有田川町営二川小水力発電所は年間売電額4000万円以上になる有田川エコプロジェクトの目玉です。

 この町営二川小水力発電所建設は、ある1人の町職員の思いつきからでした。

 有田川上流には、和歌山県が管理する多目的ダム「二川ダム」があります。このダムは環境維持のため、毎秒0.7tの環境維持放流を行っており、その水が勢いよく放流されている様子を見て「この勢いなら発電に使える」と思いついたのです。

 そこでこの職員は、収支計画を含めた事業計画を町長と副町長、人事課長の前でプレゼンテーションを行いました。その結果、平成21年4月に環境衛生課に新エネルギー推進係が新設され、自分1人しかいない係の係長ですが特命係長として建設計画を進めて行くことになります。

勢いよく放流される維持放流水(平成20年撮影)
勢いよく放流される維持放流水(平成20年撮影)

 しかし、この計画は県営多目的ダムに後から町営の小水力発電所を設置するという、当時、全国でも類をみないものでした。小水力発電所の建設自体は、技術的な問題はありませんでしたが、河川法に係る流水や多目的ダムなどの建造物を利用するための水利権を始めとする権利調整が難航を極めたのです。

 特に苦労したのが、ダム施設のアロケーション(allocation)の問題です。アロケーションとは配分などの意味でここでは「ダム建設に掛かった費用をどう再計算(負担)して割り当てるか」ということです。

 二川ダムは和歌山県が管轄している治水と関西電力の発電事業のための多目的ダムです。ダム本体だけでなく、ダム管理事務所や水位の測候所、警報設備等さまざまな共同管理設備があり、これらを和歌山県と関西電力で共同経営しています。このダムに町が小水力発電所を設置するということは、この経営に有田川町が新たに参加するということになります。

 二川ダムは県の治水目的8割、関西電力の発電事業に2割という割合を前提に出資し合って建設・運営されていました。そこに新たに小水力発電で参加するなら、参加しようとする町が妥当な出資額(負担率)を提示しなければなりません。河川法に基づく各申請(一般的に言われる水利権申請)をする前にこのアロケーションを解決しておかなければなりませんが、当事者間の負担割合を提示すること自体がかなり困難でした。特に、県との交渉では、ダム本体関連と環境維持放流設備の負担率の違いの解決が大きな課題でした。ダム本体関連の負担率は基になる額は大きいですが、妥当投資額等を基に計算されるため、負担率が小さく大きな問題ではありませんでした。しかし、維持放流設備に係る負担率は国土交通省と経済産業省の間で覚書があり「負担率は流量比例とする」という協議例に基づいたものが長年踏襲されていて、本発電所計画では県が維持放流に0.7t、町が発電に0.7tと同量の水量を使用するため、1:1、つまり持分負担額50%が提示されたのです。

 維持放流設備は、減価償却を考慮しても、当時で7億数千万の価値がありましたので、50%の持分負担だと3億5千万円以上を負担しなくてはならなくなります。それに加えて毎年の維持管理費や修繕費用も半額負担しなくていけなくなります。それでは、発電所の採算性が非常に悪化してしまいます。ダム本体関連の負担率は0.2%と算出していましたので、維持放流設備についてもこの負担率を用いてくれるように、粘り強く交渉を続けました。

発電所建設後の放流状況(令和2年撮影)
▲発電所建設後の放流状況(令和2年撮影)

 交渉の間にも、発電計画の実現性と環境への貢献度、費用対効果など実現可能性を担保するため、平成22年度に財団法人 新エネルギー財団(NEF)により基礎調査(中小水力開発導入基盤整備調査)、平成23年度には測量調査を実施していただきました。その結果は非常に有望な地点であるということでした。

 そしてついに、平成24年8月に県から「ダムと同等の負担率」との決定を受け、大幅な減額が実現しました。同月に実施設計等の委託契約を行い平成26年9月に建設工事に着手、平成28年2月に発電所が完成しました。

 平成21年に環境衛生課に新エネルギー推進係が新設され、有田川エコプロジェクトを立ち上げてから、県との交渉に3年、そこから完成にさらに4年、合計7年もかかりましたが、とうとう念願の町営二川小水力発電所が発電を開始しました。
 総事業費は2億8600万円でしたが、約7年で回収できました。
 この多目的ダムの維持放流水を活用した取組は新エネルギー財団の平成28年「新エネ大賞」において、その導入スキームや今後の展望を評価され、資源エネルギー庁長官賞を受賞しました。

  「新エネ大賞」表彰式の様子

平成28年「新エネ大賞」で「資源エネルギー庁長官賞」を受賞
 (前列左から3人目が中山正隆町長)

5.持続可能なまちづくりを目指して

 二川小水力発電所の売電収益は、前述の基金を包括して新設された「循環型社会の構築と自然エネルギー推進基金」に積み立て、以下のような事業に活用されています。

  • 町内防犯灯LED化事業
  • 災害用小型自立電源システム(消防団詰所やごみステーションに設置)
  • 住宅用太陽光発電設備・太陽熱利用設備導入補助
  • 消防署や廃校など公共設備への太陽光発電所設置
  • 薪ストーブ導入補助事業
  • 木質バイオマス発電所への未利用材搬出補助
  • 生ごみ処理機補助、コンポスト無償貸与
  • 自治会ごみステーション維持管理費用補助
  • 環境教育(環境施設等へ見学費用や社会科副読本購入費)
  • 町営再生可能エネルギー発電所維持管理費用
  • 啓発用パンフレット印刷費
「有田川プロジェクト」が生んだエコな好循環
▲「有田川プロジェクト」が生んだエコな好循環

 ごみの分別徹底から始まったエコな取組は、基金を利用した補助事業や環境教育などで住民に還元しつつ、再生可能エネルギー発電施設の建設を始めとするさまざまな事業へと発展し、持続可能なまちづくりに向けて再投資を行う好循環を生み出しています。

 このように、有田川エコプロジェクトは、プロジェクト自体も、自然にも町財政にもエコな循環型プロジェクトとして成長し続けています。今後とも、この循環の輪を止めることなく、有田川町の自然保持と住民への還元ができるこの有田川エコプロジェクトを推進してまいります。

和歌山県有田川町
建設環境部 環境衛生課