▲秋田と山形県境にまたがる甑山(こしきやま)の山腹は、秋になると素晴らしい紅葉に染まる
山形県真室川町
3250号(2023年8月21日)
山形県真室川町 農林課
真室川町は、山形県の最北端に位置し、総面積374.22km²のうち林野面積が88.3%を占める山間地であり、東側、西側及び北側の三方を急峻な山々に囲まれ、これら山地からの支流が町を縦断する真室川と鮭川に流れ込み、その河川流域に平地や集落が小範囲に点在しています。
夏は盆地特有の高温多湿、冬は豪雪という自然条件のもとで、木材や山菜に代表される森林資源に恵まれ、四季折々の景観や風土のなかで、独特な地域文化が築きあげられてきました。
▲野々村ため池から出羽富士とも呼ばれる鳥海山を望む
▲「梅の里」真室川町のイメージキャラクター
「うめ子」ちゃん
明治時代、北海道へ出稼ぎに渡った人々が歌った「カムチャッカ節」を元唄に、真室川町の料亭で働いていた近岡ナカエさんが創作を加えて歌った曲が、「真室川音頭」の始まりになったと言われています。
昭和の始めに隆盛を誇った真室鉱山や、軍用飛行場建設に携わる人々に盛んに歌われ、戦後、これらの人々が郷里や全国津々浦々に移り住んだことが、「真室川音頭」が全国に広まるきっかけとなりました。
現在も全国で愛唱されている代表的な民謡のひとつであり、毎年開催される「真室川音頭全国大会」には、県内外から多くのファンが参加しています。
真室川町は原木なめこ発祥の地であり、長年、全国第1位の生産量を誇る山形県内でも、トップクラスの生産量となっています。
町内での栽培の歴史は古く、広大な広葉樹林や栽培に適した気候が、産地としての歴史を築いてきました。昭和初期から人工栽培に取り組み、黄色いダイヤと呼ばれて地域経済を支えた時代もありました。
ブナやトチノキなどを「ほだ木」に利用して育った原木なめこは、色が濃く、ぬめりや歯ごたえがしっかりしており、根強い愛好家が毎年秋の収穫期を待ち望んでいます。
味噌汁や天ぷらのほか、麻婆豆腐や炒飯、炒め物などとの相性も抜群です。生産者直送のインターネット販売も行われておりますので、ぜひ、ご賞味ください。
▲「黄色いダイヤ」と呼ばれる町の特産品 原木なめこ
縄文時代晩期の完全な形をした貴重な土偶で、多くの専門誌や美術誌に掲載され、海外にも紹介されています。
内部は空洞で、色は赤みがかった褐色をし、頭髪は大きく束ねたような形をしています。肩から乳が張り出し、腰にパンツのようなものをつけ、太い両足を表現しています。焼成後に朱を塗ったらしく、一部にその跡が残っています。
昭和40年5月29日に、国の重要文化財に指定されました。
▲国指定重要文化財「土偶」は縄文時代晩期の完全な形
令和元年度に「森林環境譲与税」が創設され、森林整備やその促進のための取組に活用することを目的として、全国の自治体に配分されることとなりました。当町ではこれを活用し、「森林経営管理制度」による森林整備を進めています。
現状と課題
制度施行前は、所有者自らが所有森林の管理(委託を含む)を行わなければならなかったため、林業経営意欲の低い所有者の森林は、適切な整備が行われていない現状にあり、自らの所有森林の場所や状態を把握していない所有者も少なくありません。
平成31年度に森林経営管理制度が施行されたことにより、市町村が森林所有者から「適切な管理が行われていない森林」について経営管理の委託を受け、意欲と能力のある林業事業体による主伐・再造林や、市町村直営による間伐等の森林整備につなげられるようになりました。
制度の実施に当たって、①森林経営計画が策定されていない②おおむね10年以内の施業履歴がない③やまがた緑環境税事業や荒廃森林緊急整備事業等の対象ではない④治山事業等の予定がない、以上の条件4つに該当する森林を「適切な管理が行われていない森林」と見なし、町内民有林全域から対象森林を抽出しました。その結果、民有林66.29km²のうち、対象森林は約29km²と、約44%もの民有林が整備されていないおそれがあることが明らかになりました。
▲林業振興協議会制度運営について協議する様子
▲森林経営管理推進検討部会 モデル地区選定について意見を求める様子
森林経営管理制度の進め方
まずは森林の現況を把握するため、民有林の森林地形(路網、傾斜区分等)や森林資源(樹幹高、材積等)をデータ化・可視化し、制度に活用可能な状態にする必要があります。また、「適切な管理が行われていない森林」の所有者を対象に「所有森林の今後の管理」についての調査を実施し、その中で「町に管理を委託する意向があるか」を確認します。その結果を受け、町への委託の意向を示した所有者については、意欲と能力のある林業経営体とのマッチングを推進するほか、経営に向かない(利益が見込めない)森林については、町直営での森林整備を行います。
制度運営には、林業関係団体や国、県との連携が必要不可欠であることから、主に前述組織の代表者で構成する「林業振興協議会」及び主に実務担当者で構成する「森林経営管理推進検討部会」を設置し、制度の進め方を検討することになりました。
▲現地確認 公共測量の成果と現況の差異を確認する
森林資源解析の実施
森林資源解析の前段として、町単独による航空レーザ測量を検討していたところ、山形県森林管理推進協議会から、国土交通省が実施した公共航空レーザ測量の成果品を活用できれば、事業期間短縮や経費削減につなげられるとの紹介がありました。
当町では、令和2年度に公共測量の成果品を借り受け、民有林の森林地形や森林資源の解析に活用可能かを検証するため、民有林の一部区画(約1.2km²)の解析を試行したところ、必要とするデータはすべて作成可能であることが確認できたことから、改めて令和3年度に民有林34.9km²の資源解析を実施しました。
さらに公共測量の成果と現況の差異を確認するため、約20か所の現地調査をあわせて実施したところ、樹木の本数は約12.8%、樹高は約6.9%、現況の方が多い傾向にありました。原因として、本数密度の高い森林は林冠が閉塞しているため、下層木にレーザが当たらず本数が過少にカウントされることや、林齢の若い林分では樹高に差異が出やすいことが挙げられますが、航空レーザ測量の精度としては許容範囲内の誤差であり、広域的に森林全体の傾向を把握する目的は果たせていることが確認できました。
なお、公共測量成果が活用できない民有林31.17km²については、山形県森林資源デジタル化推進事業を活用し、県、東北森林管理局及び周辺市町との共同により、令和4年度に航空レーザ測量、令和5年度に森林資源解析を実施する予定であり、これをもって町内民有林全域の解析が完了することから、その成果を受けて優先順位を決定のうえ、順次、制度を推進していきます。
モデル地区の選定と意向調査の実施
制度運用のモデルケースを作成するため、令和3年度に小規模なモデル地区を設定し、所有者に対し「所有森林の今後の管理」についての意向調査を実施しました。
モデル地区については、①令和3年度森林資源解析の範囲内である②自主的な経営管理が行われていない可能性が高い③集約化により施業の効率化が期待できる、の3つの条件に該当する候補地の中で、最も林内路網が整備されており、人工林がまとまっているエリアに決定しました。
モデル地区の森林面積は約36haで、森林簿に登録された所有者29人(うち町内在住者18人、町外在住者11人)が意向調査の対象となりました。
調査を円滑に進めるために事前説明会を開催しましたが、コロナ禍の影響もあってか、町内外から7人の参加に留まったことから、夜間開催や事前予約制による分散開催など、参加率をあげる工夫が必要であることが課題として残りました。
調査に当たっては、所有森林の地番一覧や地図を示したうえで、それら森林について①自らの所有する森林か②管理や整備を行っているか③今後どのように管理していくかの3つを確認する設問内容となっています。ただし、③に対し「町への委託を検討したい」との意向が示された森林は、必ずしも町が引き受けられる訳ではないとの注釈を付しています。これは、町が引き受けた場合には、毎年、間伐等の整備を実施しなければならないことから、例えば住宅や道路から離れていて災害のおそれがない等「管理や整備の必要性が薄い森林」については、「引き受けない」という選択も考慮されるためです。
調査には調査には約1か月間の回答期間を設けましたが、期間内の回答率は69%に留まったため、督促や再調査を行い、最終的な回答者数は25人、回答率は86%で、うち16人の所有する森林約19haについて、「町への委託を検討したい」との回答を得ました。「自己管理を継続したい」との回答があった森林所有者についても、将来的な管理の見通しは不明とのことで、今後、適切に管理されなくなる森林の増加が懸念されます。
未回答者は4人で、住民票や戸籍等の公的書類を職権により確認したものの、居所や相続人が不明であった森林所有者です。このことから、今後、制度運用を全町的に広げた際に、多数の所有者不明森林の発生が予想されます。特例措置を活用すれば、そのような森林であっても制度を進めることができるものの、全国的にも事例は少なく、「管理や整備の必要性が高い森林」の明確な判断基準を設け、町として統一した対応を図っていかなければなりません。
今後の森林経営管理制度について
意向調査の結果を受け、現在、町へ委託の意向が示された森林の管理を引き受ける準備を進めております。令和5年度には、制度を活用したモデルケースを作成できる見込みであることから、おおむね予定どおりの進捗状況となっています。
森林は、きれいな水や空気を作り出すだけでなく、軽くて丈夫で経年により味わい深くなる木材や、化石燃料に代わる木質バイオマスエネルギーにも利用されるなど、クリーンな社会の実現に欠かすことのできない存在です。
今後も、当町の恵まれた森林資源を未来に届けられるよう、持続可能な社会の実現に向けて、森林環境譲与税を有効に活用し将来性のある森林整備を進めていきます。
▲森林資源解析の成果品 ha当たり材積区分図
▲森林地形解析の成果品 赤色立体地図
山形県真室川町 農林課