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徳島県美波町/”にぎやかそ”にぎやかな過疎の町

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年7月3日更新

ウミガメ専門の博物館「日和佐うみがめ博物館カレッタ」(町営)で暮らすウミガメ

▲ウミガメ専門の博物館「日和佐うみがめ博物館カレッタ」(町営)で暮らすウミガメ


徳島県美波町

3245号(2023年7月3日)
徳島県美波町長 影治 信良


1.美波町の概要

​美波町は、平成18年3月31日、日和佐町と由岐町が合併して誕生、徳島県南東部に位置し、県都徳島市へは約50㎞の距離にある総面積が140.74km²の町です。南東は太平洋を望み、暖かい黒潮の良好な漁場を有しています。海岸部は、アカウミガメの産卵地大浜海岸、田井ノ浜海水浴場の他、千羽海崖、海食洞のえびす洞など多様な岩礁が続く風光明媚なリアス式海岸となっており、「室戸阿南海岸国定公園」に指定されております。町面積の約89%が森林・原野であり、日和佐地区の中央を東西に流れる日和佐川は、蛇行しながら東へ流れ、下流には臨海平地が開け、市街地を形成し地方港の指定を受けた良港〝日和佐港”を備え、町の中心部をなしています。代表的な観光資源は、四国八十八箇所霊場二十三番札所である薬王寺、国の天然記念物アカウミガメの産卵地大浜海岸、日和佐うみがめ博物館カレッタ等があり、年間100万人近い観光客が訪れる、海・山・川といった自然環境と歴史・文化に恵まれた町となっております。

人口は平成18年美波町が誕生した当時は8,848人、高齢化率36.3%でありましたが、令和2年の国勢調査では、6,222人、高齢化率49.4%と少子高齢化が急速に進行しております。

太平洋を望む美波町日和佐地区市街地
▲太平洋を望む美波町日和佐地区市街地

大浜海岸でのアカウミガメ産卵
▲大浜海岸でのアカウミガメ産卵

2.人口減少下のまちづくり指針・キャッチフレーズ

高齢化率が45%を超す本町は、今後も人口減少局面が続くと予想されております。全国的に人口減少や少子高齢化が進む厳しい現実の中では、住民票の有無だけにとらわれないまちづくりが必要と考え取り組んでまいりました。テレビの地上デジタル化に先立ち町中に光ファイバー網を整備したことにより、都市部企業のサテライトオフィス誘致や、学童の多拠点就学を可能とするデュアルスクール制度の実施、また、飲食店などの新規起業支援等を積極的に進めてきた結果、県内最多となるサテライトオフィス進出や、移住者・関係人口の増加、祭事や防災活動への参加、地域産業との連携創出等、まちには活気や新たな賑わいが見られるようになってきております。

こうした流れを加速・拡充させることで、たとえ人口減少と過疎化が進もうとも、活気あふれる賑やかなまちであり続けることを目指し、全国で生き残りをかけた移住者や企業の誘致が行われる中でも選ばれるまちとなるよう、町内外に届くまちづくりの指針・キャッチフレーズ「“にぎやかそ”にぎやかな過疎の町 美波町」と定め、町民と行政が一体となったまちづくりを推進しております。

にぎやかそ ロゴマーク
▲人口減少・過疎化の中でも、活気あふれる
賑やかなまちを目指す決意が込められている

3.美波町とウミガメの物語

日和佐うみがめ博物館カレッタの前には、アカウミガメが上陸産卵することで知られる大浜海岸が広がっております。戦後まもない食糧難の時代に畑として使えないこの海辺に日和佐中学校は建設されました。1950(昭和25)年6月18日、放課後に大浜海岸でソフトボールをしていた生徒達が無残に殺されたアカウミガメの亡骸を見つけました。駆けつけた先生も驚き、大切にされるべき「海神の使者」を食べるために殺すという行為を大いに憎み、「よっしゃ、いっちょわしらでウミガメのことを研究し、こんなむごいことをする人が出てこんように世間に知らしてやらんか!」と生徒と先生は日和佐中学校海亀研究班を発足、ウミガメの調査研究を始めることとなりました。

1950年に結成された日和佐中学校海亀研究班
▲1950年に結成された日和佐中学校海亀研究班

現在とは違ってインターネットなどない時代、ウミガメに関する情報は皆無であり、研究は手探りで行われました。当時の産卵観察記録に記された調査道具は「テント1、懐中電灯1、棒状温度計1、目覚時計1」とあります。目覚時計は時間を記録するために先生が自宅から持参、当時の教員の給与では腕時計を買う余裕がなかったのでした。

やがて海亀研究班の研究成果はさまざまな科学賞を受賞するほどに評価され、日和佐の地はウミガメの町として知られるようになり、昭和42年には日本で初めてとなる「ウミガメとその産卵地」が国の天然記念物の指定をうけ、昭和60年に世界でも珍しいウミガメ専門の博物館「日和佐うみがめ博物館カレッタ」をオープンさせました。海亀研究班が活動当初に孵化させ、飼育してきたとされるアカウミガメ「浜太郎」が、現在も博物館で悠々と泳いでおります。

2022年で72歳をむかえた「浜太郎」
▲2022年で72歳をむかえた「浜太郎」

4.日和佐うみがめ博物館カレッタの全面改修

博物館は建設から40年弱、その間改修を行ってきましたが展示内容も現在の学術研究からみると古く誤ったものもあり外国語対応もできておりません。外国から訪れた方達にはウミガメを狭いスペースで飼育しており、動物虐待のイメージを持たれたこともありました。また体験型観光の考え方がなかった時代に建てられたこともあり、限られたスペースしかなく、さまざまな体験やウミガメとのふれあいをするスペースがありません。

令和2年5月に文化観光推進法が公布、同年11月に同法に基づく拠点計画「美波町回帰率向上拠点計画」が認定、町の文化観光の重要な拠点施設として全面改修を行うこととなりました。完成まで5カ年事業として計画はスタートしました。現況調査、基本計画、基本設計、実施設計と進めるうちに博物館の抱えるさまざまな問題が表面化し、追い打ちをかけるように新型コロナウイルス感染症の拡大、ロシア・ウクライナ問題の影響による資材高騰等、改修事業費の大幅増加により財源の確保に苦しむことになりました。

そこで何とか財源を確保しようと、2つのことにチャレンジしました。

1つ目は、企業版ふるさと納税です。町がウミガメと共存してきた歴史やSDGsの取組、博物館の改修を周知したところ、共感してくださった企業から5,000万円以上の寄付が集まりました。2つ目は、クラウドファンディングです。博物館改修を目的としたガバメントクラウドファンディングでは町民や全国の個人、企業から1,300万円を超える寄付が集まりました。 多くの寄付が集まったことに驚きと喜びを感じたと同時に、現在まで先人達が繋いできたウミガメとまちの歴史に感謝し、持続可能な社会が注目される現在、自治体が中心となってウミガメの調査研究と保護に取り組む意義を再認識することとなりました。

現在も着々と作業は進んでおります。既存建物内の展示物はすべてリニューアルし、日本語、英語の他、中国語、韓国語、スペイン語にも対応するとともに、デジタル技術を活用した展示設備を導入します。スタッフが作業するバックヤードは、体験ツアーなどで使うことを想定し、荒天でも快適に作業できるスペースを確保、ウミガメプールはアニマルウェルフェア(動物福祉)の観点から形状や深さを見直し、ウミガメが快適に過ごせるプールに改修し、博物館の目玉として整備することとしております。

全面改修後の施設イメージ
全面改修後の施設イメージ。

全面改修後の施設イメージ
新たなプールはウミガメが快適に過ごせるようアニマルウェルフェアに配慮して設計されている。

5.観光客の回遊と滞在を促すまちづくり

美波町中心部の特徴としては、JR日和佐駅から半径1㎞内に本町の代表的観光地である四国八十八箇所霊場二十三番札所薬王寺、室戸阿南海岸国定公園大浜海岸に隣接する「日和佐うみがめ博物館カレッタ」があり、両観光地にはさまれる形で日和佐港周辺に風情あるまち並みが残っているなど、コンパクトな市街地を形成していることです。

四国八十八箇所霊場二十三番札所薬王寺とお遍路さん
四国八十八箇所霊場二十三番札所薬王寺とお遍路さん

近年、薬王寺周辺では外国人の歩き遍路が増加し、次の札所までの長距離に備えるため当町で一旦足を休めている光景をよく目にするようになりました。また日和佐港周辺では漁業協同組合の漁業基地としてだけではなく、遊漁船やヨット等の停泊施設、室戸阿南海岸国定公園の恵まれた自然環境を活かし、千羽海崖や通り岩を巡る日和佐マリンクルーズ、スキューバダイビング事業の出航場所として利用されております。

そうしたことも踏まえ、日和佐港の海岸防潮堤整備に伴う日和佐町漁業協同組合移転改築に併せ、このコンパクトな市街地の中で観光地と自然豊かな環境を掛け合わせ、そのポテンシャルを最大限に活かした「歩いて巡りたくなるエリア」の創出に取り組み始めました。

6.実現に向けて

令和4年11月、日和佐うみがめ博物館カレッタ全面改修など現在進行中の事業と、地域資源を活用した観光客の回遊と滞在を促す「歩いて巡りたくなるエリア」の実現に向け、地域の団体、行政をメンバーとする協議会の設置を行いました。協議会では、少子高齢化等の町の現状を踏まえた計画の検討、官民連携まちづくりの検討を行うこととしており、第1回協議会では想像以上の議論となり危機感を共有できた会議となりました。日和佐うみがめ博物館カレッタ周辺エリア、日和佐港周辺エリアの活用検討については進行中の事業と連動しながら、実現に向け部会を設置し詳細に議論することとしております。

官民連携を実現するためには、官の立ち位置は非常に重要と考えており、前例・慣例にとらわれない柔軟な検討体制が重要だと考えております。今まで以上に役場組織内での情報共有、連携づくりが重要です。少子高齢化の先進地として、世代を超えた柔軟な体制づくりを目指し、互いに知恵を出し合い、自分達でまちの課題に対しての処方箋を見つける姿勢が重要です。これからも自ら動き、考える体制を構築し、持続できるまちづくりに取り組みたいと考えております。

7.最後に

美波町における人とウミガメとの物語は、郷土愛と自然への探求心に燃えた中学生と若い教諭による1本の温度計から始まりました。そしてこの活動は、次第にまちぐるみとなり、県内外、そして海外からも注目されました。

70年以上が経過した今でも、大浜に訪れる海からの使者を通し、人が自然と対話することの大切さ、共に歩む姿勢の重要さ、目の前の課題に対して自ら動き、考えることの大事さに気づかせてくれます。

人口減少が進もうとも、ふるさと美波町を築いた先人達に感謝し、歴史・伝統・文化を次世代につなげ、このまちをいつまでも明るく豊かで、住み心地のよい、ウミガメとひとが回遊・回帰する、にぎやかなまちとして未来につなげていきたいと思っております。

徳島県美波町長 影治 信良