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宮崎県都農町/人口1万人の町の挑戦-移住者を巻き込んだ 官民連携による地方創生-

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年6月5日更新

都農町を日向灘から見た展望

▲都農町を日向灘から見た展望


宮崎県都農町

3242号(2023年6月5日)
都農町役場 まちづくり課 企画調整係 主事 麻田 勇雅


1.都農町の概要

宮崎県都農町は、北緯32度東経131度にあたり、県都宮崎市と工都延岡市の中間に位置する町です。東西に長い地形で、西には日本二百名山に名を連ねる尾鈴山を眺め、東には豊富な魚介類が獲れ、サーフスポットとしても名高い日向灘を望みます。都農町は「山と滝とくだものの町」を標榜しており、「農の都」の名のとおり第一次産業を基幹産業としている町です。都農町は宮崎県内でも有数のぶどうの産地で、多雨多湿の環境でのぶどう栽培は世界的にも珍しく、隣接する川南町を含む尾鈴地域のぶどうで作られたワインは世界中で評価をいただいています。

都農町では、保育料完全無料・高校3年生までの子ども医療費無償・学校給食費無償等、子育てに優しく、誰もが住みたくなる町づくりを目指しています。

矢研の滝
▲矢研の滝

都農ワインと尾鈴ぶどう
▲都農ワインと尾鈴ぶどう

2.スポーツを通したまちづくり

都農町では、令和元年度より「つの職育プロジェクト」と銘打ち、一般社団法人ツノスポーツコミッションと株式会社J.FC宮崎との3者協定のもと推進しております。本プロジェクトは都農町が抱える少子高齢社会や産業の担い手不足、学生の町外流出などの課題を協力団体と共に解決していこうという取組です。一般社団法人ツノスポーツコミッションはスポーツによる地域活性化を理念として掲げており、都農町の課題に対してスポーツの面からアプローチするため、宮崎市を本拠地として活動していたJ.FC MIYAZAKI(現ヴェロスクロノス都農)というサッカーチームを誘致しました。J.FC MIYAZAKIもより良い練習環境や選手の働く場を求めており、各団体の課題を共有した上で、各々の特色を活かして解決に取り組んでいます。​

3.地域おこし協力隊制度の活用


こうした取組の中で誘致したサッカーチームですが、当初は地域の方から「どうして来たの?」「どういう人たちなの?」といった声も少なくありませんでした。そのような彼らに、地域の魅力を知ってもらうと共に地域に根付いた活動をしてもらうこと、彼らの仕事を創出することという2つの課題解決にうってつけの制度が『地域おこし協力隊制度』でした。この制度は都市部から過疎地域に移住した方を協力隊員として委嘱し、自治体の抱える課題を業務として解決していく取組で、活動に係る報償費や経費が特別交付税措置の対象となるものです。都農町で仕事がしたい、サッカーの練習もしたい、地域に根付いた活動がしたいというサッカー選手の希望を叶えるために、一般社団法人ツノスポーツコミッションが受け入れ団体となって選手の活動の管理を行い、選手が個人事業主として業務委託契約を結ぶことで、活動時間や活動内容に幅を持たせることが可能となりました。

4.スポーツ選手のセカンドキャリアの育成

地域おこし協力隊制度は移住定住もテーマとして掲げており、地域への移住が条件となっています。ただ、任期後に定住するかどうかは隊員次第となっており、普段の協力隊活動に時間を奪われ、定住に関して考える余裕がないという声も少なくありません。そうした中で都農町では定住についても考えてもらうために、地域の事業者へのお手伝いを担い手不足の解消につながるミッションとして与え、地域課題を解決しながら、併せて選手引退後の働き方を含めた生活を意識してもらう『セカンドキャリアの育成』にも取り組んでいます。隊員自身のやりたいことや興味のあることと、町の課題を結びつけることで将来のイメージを持ってもらうような工夫をしています。また、協力隊活動に必要な資格はもちろんのこと、任期後の定住につながるようなスキルアップの取組も積極的に応援することで、隊員の意識向上を図っています。

町内空き家の清掃活動
町内空き家の清掃活動

地元農家のお手伝いサポート
地元農家のお手伝いサポート

都農町の魅力発信の動画撮影
都農町の魅力発信の動画撮影

5.スポーツアカデミーの運営

一般社団法人ツノスポーツコミッションでは地域の課題解決を行いながら、スポーツアカデミーの運営も担っています。令和3年3月に町内唯一の高等学校であった宮崎県立都農高校が廃校となってしまい、高校に進学をする学生は必ず町外に出てしまうという状況となりました。そうした中で、通信制学校に通いつつ自分のやりたいこと、将来につながることを体験しながら生活できるスポーツアカデミーが設置されました。プロであるトップチームがいる環境でサッカーに打ち込みながら高校卒業資格の取得を目指し、隙間時間では語学学習や地元企業でのアルバイトを行い、スキルアップに励んだり、社会経験を積んだりしています。こうした意欲ある若者の学びの場の提供だけにとどまらず、不登校や人間関係に不安を抱いている若者がスポーツという理念のもとに学校生活を送ることができる環境づくりという面でも、都農町にとって大きなプラス要因であると考えています。もちろん、スポーツアカデミーで指導する監督・コーチ陣も地域おこし協力隊であり、子供たちへ指導しながら自分の能力を十二分に発揮し、都農町への定住を考えてもらうきっかけにしています。

高校単位取得のための授業風景
▲高校単位取得のための授業風景

生徒たちへのサッカー指導の様子
▲生徒たちへのサッカー指導の様子

6.つの職育プロジェクトの実績と町の声

プロジェクト開始から3年が経過し、サッカー選手やその家族、運営スタッフを含めて約100名の人が都農町に移住されました。サッカー関連の活動や地域おこし協力隊としての課題解決業務だけではなく、居住する地区の自治会にも加入していただき、催事やボランティア等の地域活動にも積極的に参加していただいています。自治会からは「若い世代が入ってくれたことで賑わいが増した」「子ども会などのグループにも活気が出た」などのお声をいただいています。しかしながら、「移住者がどんな人物でどんな活動をしているのかが見えづらい」といった声もあるため、もっと活動内容の発信を強化していかなければなりません。都農町では全世帯を対象にタブレット端末を無償貸与しており、YouTubeをはじめとしたSNSを活用した情報収集を手助けしていきたいと考えております。​

7.移住促進施策の充実

このように国の制度も積極的に活用していますが、町独自の事業も行っています。大きく分けて3つにカテゴライズされ、移住定住、子育て、空き家等利活用に分かれます。

移住定住に関しては、住宅建設や保留地取得の際に補助をしており、転入者への加算金や中古住宅も認めるなど細かなニーズにも応えられるようにしています。

子育てに関しては、冒頭で述べた保育料無料や高校生までの医療費無償の他にも、自宅で乳幼児を養育している保護者への手当や、国が実施している出産・子育て応援金に加え、小学校入学時も応援金を給付することで、出産から入学まで継続した支援を行います。また、高校進学に伴い町外に通学する高校生等の保護者の負担軽減を図るために、就学応援金制度も設けています。

空き家等利活用に関しては、空き家の家財道具等の片づけ費用やリフォーム奨励金等も設けており、現在ある資源を有効活用できる取組を行っています。

子育て支援室を活用する親子
▲子育て支援室を活用する親子

8.企業誘致目線からのまちづくり

移住者に向けた取組によって地方創生を目指していますが、移住者が増えてきたことによる賃貸住宅不足といったインフラ整備、時代のニーズや移住者年齢層に沿った仕事の創出が新たな課題となっています。そうした問題を全体的に解決しようと「WALT計画」を令和3年度からスタートしました。企業の誘致と仕事の創出(W/ワーク)、技術の教育と若い世代へのアプローチ(A/アカデミー)、住居課題やインフラ問題の解決(L/ライフ)、外貨の獲得と町内の活性化(T/つの)をテーマに、官民連携による地方創生を目指しています。令和4年度にWALT計画の核となる団体「一般社団法人TSUNORU」を設立し、地方創生に関わるプロジェクトや地方移住を求める人向けの事業募集プラットフォーム「TSUNORU」の運用をスタートしています。

TSUNORUサイト内インフォマ動画一部
▲TSUNORUサイト内インフォマ動画一部

これまで都農町では製造系企業の誘致による雇用の創出や税収の増を主眼に置いてきましたが、町内の整備された土地が限られていることや、企業間での町内就労者の奪い合いが起きてしまうことが危惧されています。そこでIT情報サービス産業に目をつけ、時代のニーズに合わせた働き方のできるクリエイティブな仕事を誘致し、地方移住も併せて促進させようと方針を転換しました。都市部では類似業種が多いため地方での起業を考えている若者や、温暖な気候での家族暮らしを望むテレワーク業務の人等を全力でサポートしていきます。​

9.これからの地方が目指す地域活性

地域活性には「移住」がキーワードになってくると考えています。全国各地の「地方」と呼ばれる自治体は人口減、少子高齢化が深刻な課題となっています。20~40代の就労・子育て世代が減少傾向にある中で、この年代に移住してもらい出生率を上げていくことが地方創生への1番の近道だと思います。そのために自治体側が準備することはたくさんあり、制度設計やインフラ整備はもちろんですが、地域住民の歓迎意識を醸成し、移住しやすい環境づくりをしていくことも重要課題です。

現在、行政職員の業務量過多と職員数減少も課題で、チャレンジ精神をもって事業推進することも難しくなっています。そこで官民連携を推し進めていくことで、それぞれが得意分野を担当し、一緒に地方を盛り上げていくことで新しい地方創生が見えてくるのではないでしょうか。この「官民連携」を軸に置いた事業推進体制を築いていき、他の自治体のモデルケースとなれるような「地方」を目指していきます。

宮崎県都農町
まちづくり課  企画調整係
主事   麻田  勇雅