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山梨県小菅村/多摩川源流の郷 山梨県小菅村を訪ねて

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年4月24日

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▲多摩川源流部に位置する小菅村は豊かな自然に囲まれている


山梨県小菅村

3238号(2023年4月24日)
全国町村会行政部


村の概要

山梨県小菅村は山梨県の北東部、都内を貫流する多摩川の源流部に位置しており、東京都奥多摩町と接している。8つある集落のうち7集落は多摩川水系の小菅川沿い、1集落は相模川水系の鶴川沿いに位置する。標高は530mから2,000mと高低差に富み、村の面積の95%を森林が占める。また、約3割が東京都の水源涵養林。都心から約80kmの距離にありながら、豊かな自然に囲まれている。

令和5年2月現在の人口は652人、高齢化率は47%。

小菅村では地域活性化のためのさまざまな取組が行われており、メディアで取り上げられることも多い。私たちはそんな小菅村を訪問し、村内施設を巡りながら村の皆さまにお話をうかがった。今回はその一部をご紹介したい。

株式会社源

100%村出資の株式会社で、観光分野を中心に、村内のヒト・モノを活かした産業の振興を目指して事業を実施している。小菅村の資源を活かしたイベントやツアーの企画、小菅村人ポイントカードの発行やこすげ村情報サイト「こ、こすげぇー」の運営とともに、小菅の湯、道の駅こすげ、フォレストアドベンチャーこすげの管理運営を担っている。

(1) 小菅の湯

平成6年に村営の日帰り温泉としてオープン、平成29年からは株式会社源が運営している。

高アルカリ性温泉で、美肌効果が期待できることから「美人の湯」としての評判も高い。村民のみならず、隣接する大月市や東京方面から訪れる客も多い。

併設の食事処「ひのき」では小菅村ならではのメニューが豊富に用意されており、村名産の新鮮なわさびを使用した風味豊かな「生わさび丼」を味わうことができる。

小菅の湯
小菅の湯  

生わさび丼
食事処「ひのき」の生わさび丼 

(2) 道の駅こすげ

平成27年にオープン。小菅村の食材を使った料理を提供する「源流レストラン」、地元の特産品を販売する「物産館」、展示・体験コーナー「ふれあい館」から成る。

源流レストランでは、石窯で焼くピザをはじめ、小菅村の山の幸、川の幸を使ったイタリアンが楽しめる。

物産館では、四季折々の農作物や山菜、キノコなど、小菅村ならではの食材が販売されているほか、コンニャクや蕎麦、工芸品も取り揃えられている。また、令和3年6月には、道の駅で初めて「ふるさと納税自動販売機」が設置され、大きな話題となった。

ふれあい館では、小菅村を知ってもらうための情報発信を行っており、タッチパネル式の情報端末が設置されているほか、さまざまな展示が行われている。

(3)フォレストアドベンチャーこすげ

平成25年、道の駅こすげの隣にオープンしたアスレチック施設。自然の樹木や地形を利用したコースで、木に登り、渡り、滑り降りるというアクティビティが楽しめる。

コースは2種類。アドベンチャーコースの目玉となるのが130m超のジップスライドで、里山に張られたワイヤーロープを滑車で一気に滑り降りる疾走感は格別。木から木へ移動するアクティビティもスリル満点で、最高地点は高さ15mに達する。キャノピーコースは誰もが利用しやすいよう、難易度を低くしたユニバーサル設計となっている。

フォレストアドベンチャーこすげ
フォレストアドベンチャーこすげ 

ドローンを活用した新スマート物流

小菅村では、「新スマート物流SkyHub®」の集約所(ドローンデポ®)を拠点とし、ドローンと車両を使用した配送と買い物代行が行われている。

小菅村には食品を取り扱う商店が1店舗のみ。多くの住民が買い物のために隣接する大月市へ車で30分かけて通っているが、免許を返納した高齢者や車を持たない住民にとっては不便な状況だ。一方、村内では3事業者が宅配を行っているものの、各社車両の積載率は低く、非効率な状況となっている。

新スマート物流は物流の効率化・自動化を目指しており、各社の荷物を路線バスに貨客混載して村内の集約所(ドローンデポ®)へ運び、集約所から車両とドローンを使って目的地へ届けることを計画している。地域の利便性向上と物流の効率化双方を実現できる。
導入のきっかけは、株式会社エアロネクストが実施したドローン飛行実験だった。産業用ドローンの機体設計を行っているエアロネクストは、ドローン先進国である中国で実験する予定だったが、新型コロナウイルス感染症流行の影響を受けて断念。日本国内で実験できる場所を探す中、候補地として小菅村が浮上した。

同社は令和2年9月に小菅村を視察し、その後、舩木村長を訪問。2か月後、ドローン配送事業の実現に取り組む連携協定が締結された。令和3年1月には村内に子会社Next Deliveryを設立し、3月に住民を招いてドローンのデモ飛行を行ったのち、4月からドローンを使用した新スマート物流の実証実験を開始。11月、商用サービスとして「新スマート物流SkyHub®」の運用を開始し、現在はドローンデポ®を拠点に、正社員1名とアルバイト2名の3人体制でサービスを運営している。ドローンでの配送には5つのルートを設けており、最短で2分、最も遠いルートでも7分で届けることができる。

小菅村についての説明風景
小菅村についての説明風景

ドローン(試作機)   ドローンデポ
ドローン(試作機)(左)とドローンデポ®(右)

クラフトビール工場 Far Yeast Brewing

クラフトビールを製造するFar Yeast Brewing株式会社は、東京から近く、多摩川の源流であったことや、ビール造りが盛んなドイツなどヨーロッパの寒冷な気候と似ていたことから、平成29年、小菅村に「源流醸造所」を立ち上げた。令和2年には本社機能を小菅村に移転。この工場で造られるビールは小菅村のふるさと納税の返礼品として提供され、好評を博している。

Far Yeast Brewingは、地域活性化の取組や環境に配慮した取組を積極的に行っている。地域活性化の取組として、令和2年から地域の生産者と連携して「山梨応援プロジェクト」を立ち上げ、桃、梅、ぶどうなどさまざまな県産農産物を使用したビールを製造してきた。また、地域の観光業者と連携したイベントを開催し、地域との共生を図っている。

環境に配慮した取組としては、製造過程で出る麦芽の残渣を動物用飼料として販売。ビールの副原料として使用した果物の残渣も村内の廃棄物処理施設で堆肥化し、道の駅こすげで販売するなどしている。

現在は道の駅こすげの隣で新工場建設の準備が進んでいる。今後、さらなる雇用を生み出すとともに、村の観光にも貢献していきたいとしている。

クラフトビール工場 Far Yeast Brewing 
源流醸造所(Far Yeast Brewing株式会社)

古民家ホテル NIPPONIA小菅 源流の村

NIPPONIA小菅 大家のフロント 崖の家
NIPPONIA小菅 【大家】のフロント(左)と目の前が絶景の【崖の家】(右)

古民家の再生に取り組んでいる株式会社NOTEと小菅村が協力して、「村まるごとホテル」をコンセプトに、令和元年にオープンした宿泊施設。

小菅村においても空き家の増加が問題となる中、合掌造りの古民家(細川邸)の家主が転居することとなり、古民家の活用について村に相談があった。村は、古民家再生の事例を紹介する講演会を開催するなど活用手段を検討。リノベーションを施し、「大家」という古くからの愛称はそのままに、新たにホテルとして生まれ変わった。

ホテルの開業に際しては、住民向けの内覧会を集落単位で開催するなど、村人の理解を得られるよう努めたという。また、「NIPPONIA 小菅 源流の村」を運営するスタッフは移住者を含め全員が村の住民である。

ホテルで提供される料理の食材(野菜・川魚)はそのほとんどを村内で調達しており、村内の経済循環にも寄与している。また、村民の協力により、宿泊者は散策や収穫体験などを楽しむことができる。

令和2年8月には第2期プロジェクトとして、村の特徴的な地形である急峻な崖の上に建っていた古民家をリノベーションした、新たな客室棟「崖の家」が誕生。小菅村で暮らすように滞在を楽しむことができる。

木工工房・株式会社小菅つくる座

小菅村の木材の価値を高められるような工房を作りたいという想いから、平成30年に改修した小菅村中央公民館(別名YLO会館)に作られた工房。コンピューター制御で木材をカットするCNCルーターや、立体的な模型を作ることができる3Dプリンターが備えられている。

木工工房を管理する株式会社小菅つくる座は、小菅村産の木材を活用したものづくりを通じて豊かな暮らしを提案することを目指しており、小物や家具といった身の回りの物から、災害時に活躍が期待される組み立て式のドームハウスまで、オーダーメイドの木工製品を製作するとともに、自由な暮らしを提案する小さな家「タイニーハウス」の設計も手掛けている。

また、誰でも利用できる工房としても開放しており、小菅つくる座のメンバーが製作をサポートする。

木工工房・小菅つくる座 視察風景 
木工工房・小菅つくる座視察風景

以上、小菅村における主な取組や施設を紹介した。このほかにも「小菅村源流親子留学制度」や「タイニーハウスプロジェクト」、小菅村産の木材をふんだんに使用した村立体育館の建設など、地域の特徴を活かしたさまざまな事業が行われている。

冒頭に記載したとおり、小菅村の人口は652名。村役場に目を向ければ、職員数23名(令和5年3月現在)という小さな村である。

「この小さな村で、どうしてこれだけ多くの取組が生まれ、どのように運営されているのだろうか?」という疑問を抱いての訪問であったが、舩木村長からうかがった「行政も民間と同じスピード感がなくてはならない」という言葉は示唆に富んでいる。

小菅村では、行政だけではなく、住民、移住者、民間事業者が、それぞれの立場で上手く協力しながら、「小菅村を活性化させたい」という思いを持って数々の取組が行われている。

今後、新スマート物流SkyHub®の充実、Far Yeast  Brewing新工場の建設をはじめ、新たな宿泊施設の開業も検討されているという。これからもさまざまな展開が期待される小菅村を追っていきたい。

全国町村会行政部

集合写真 舩木村長(前列中央)を囲んで 
集合写真 舩木村長(前列中央)を囲んで