▲大切な人と手をつないで渡ると願いが叶うと言われる
小豆島の観光地「エンジェルロード(天使の散歩道)」
香川県土庄町
3237号(2023年4月17日) 香川県土庄町長 岡野 能之
土庄町は、香川県に属し、瀬戸内海の東部に浮かぶ小豆島の西北部に位置しており、豊島、沖之島、小豊島などの有人島を含めた地域を行政区域としています。面積は、74・38㎢、人口は約1万2千人で、旧村単位の7地区に区分され、54の自治会があります。
小豆島の大きさは、153・27㎢、瀬戸内海では淡路島に次いで2番目に大きい島で、山地が多く高い山が海岸にまで迫っており、そのおかげで小豆島には、寒霞渓や銚子渓など、人々を魅了する美しい自然が数多くあります。平地は少ないため、民家はそこに集中しています。
気候は、明治41年、ヨーロッパ地中海から初めて持ち込まれたオリーブの木がわが国で唯一小豆島だけに根付いたように、四季を通じて雨が少なく温暖な瀬戸内式気候です。
小豆島には、土庄町と小豆島町の2つの町があります。小豆島町のほうが面積も人口も若干大きくて多いですが、概ね同規模の自治体同士で、さまざまな面で2町連携して事業に取り組んでいます。
▲瀬戸内国際芸術祭作品はじまりの刻(三宅之功)
もともと小豆島は、「二十四の瞳」や昭和40年代の第一次離島ブームなどにより「観光の島」として認知されていましたが、近年は、平成22年から3年ごとに開催されている瀬戸内国際芸術祭の開催会場になったこと、土庄町が舞台のモデルとなっているテレビアニメ「からかい上手の高木さん」が映画化されたこと等により、島特有の自然や文化はもちろん、アートの舞台やアニメの聖地として、新たな島の魅力が創出され、多くの来島者が訪れています。
特に最近では、来島された方々が、各島々の“映えるスポット”を撮影し、それらをSNSに投稿することによって、小豆島や豊島を知る人が増え、それが来島するきっかけになるといった好循環が生まれつつあります。
▲海へ駆ける坂道(豊島美術館近くの映えスポット)
従来の観光スポットを巡る観光スタイルから旅行者自身が興味のあるものを体験する形へと観光形態が変化していく中で、船で島々をめぐる非日常的な楽しさを知り、各島々の自然・文化・資源・歴史・アートなど土庄町にしかない魅力を味わい、そこで出会った住民の心温かなおもてなしに触れることで、リピーターとなる方が多いです。そして、島暮らしをイメージするようになり、そのうちの一部の方が実際に移住するという流れが主流となっています。
以上のように、土庄町に移住する最初の入り口として観光の重要性は非常に高く、まちや地域住民の魅力に惹かれ、また島を訪れたいという関心・行動から島に住みたいという興味・関心に変化し、最終的に移住⇒定住という行動につながっています。
▲戸形地区
トティエについて簡単にご紹介しますと、名称は、「むすぶ」を意味する英語「tie to~」とToti(土地)とIe(家)をつなげた造語です。当初は、瀬戸内国際芸術祭の開催をきっかけに移住者が増加している点と活用されていない空き家や空き地が増加している課題に着目し、島内に2つの町があるという行政区の壁を越え、官民一体となって地域課題に取り組んでいく体制が必要不可欠であることから、小豆島・豊島を対象に「移住促進」と「空き家・空き地の活用」を主な活動として設立されました。
▲集落の手帖動画版
▲小豆島空き家見学ツアー
▲小豆島単独セミナー
現在は、この協働体制に両町の地域おこし協力隊も加わり、主に移住相談、情報発信、移住セミナーや相談会、交流イベント等の事業に取り組んでいます。昨年度は、移住を検討している人や移住してきた人へさまざまな角度から小豆島・豊島を知ってもらい、移住・定住促進へつなげることを目的とした移住ガイドブック三部作を完成させました。こういったさまざまな事業に取り組むことによって、直近5年平均で約450人/年が小豆島・豊島へ移住しています。
【移住ガイドブック三部作概要】
(電子ブックアドレスhttps://shimagurashi.jp/guidebook/)
(1)島ぐらしの手引き:小豆島・豊島をより理解してもらい、住み始めてからのギャップに悩まされないよう居・職・住を中心とした島暮らしを紹介。
(2)島びとの日々:移住を検討されている方たちへの参考書的なものとして、IUターン者12名にインタビューし、それぞれの移住前から現在の暮らしについて紹介。
(3)集落の手帖:それぞれ雰囲気や歴史・文化・風習が異なる多様性にあふれる各地区・集落の情報を住民目線で紹介。
▲移住ガイドブック三部作
現在のトティエの活動は、「定住促進事業」、「雇用対策事業」、「高校や大学等との連携・調査事業」など移住前から移住後にわたる寄り添った支援と持続的な地域づくりへ向けた分野にも範囲を広げています。そのうちの「高校や大学等との連携・調査事業」においても、土庄町域学連携事業と協働で取り組んでいます。
土庄町域学連携事業は、土庄町と地域連携活動を積極的に展開している大学が連携して、小豆島・豊島の魅力や地域資源を掘り起こすとともに、町民・島民の協力を得ながら地域が抱えるさまざまな課題を発見・分析・解決していく取組のことで、目的は、次の3つです。
(1)土庄町の各地区・各集落や小豆島・豊島一帯で培われてきた文化を継承・発展させ、地域を活性化していくこと。
(2)土庄町および小豆島の未来を担う島内・島外の若者(例えば小豆島中央高校の生徒や島外の大学で学ぶ大学生)に対して、「地球規模で考え、足元から行動せよ(Think Globally, Act Locally)」を実践できるような学びの場を提供していくこと。
(3)土庄町民や町外からの来訪者が、小豆島・豊島の歴史や文化に対する理解を深め、自らの視野を広げ、それぞれの人生を充実させられるような学びの場を創り出していくこと。
域学連携活動を円滑かつ継続的に行っていくために、現在、次の4つの大学と包括連携協定を結んでいます。
(1)京都産業大学(平成27年11月締結)
(2)武庫川女子大学・武庫川女子大学短期大学部(平成29年12月締結)
(3)香川大学(平成30年10月締結)
(4)徳島文理大学(令和2年10月締結)
土庄町と協定大学は、相互の人材交流や物的・知的資源の活用を積極的に行い、土庄町および小豆島全体の発展と未来を担う若い世代の育成を図ることを目的として、特に次の事項について連携・協力活動を行っています。
(1)地域社会の活性化
(2)地域住民の健康・福祉の増進
(3)環境の保全
(4)文化・教育の振興
(5)産業の振興、まちづくりの推進
(6)人材の育成
(7)先に挙げた協定目的を達成するために町と大学が必要と認めた活動
こういった活動を行う拠点となる滞在施設が、土庄町域学連携交流施設、愛称『夢すび館』です。この『夢すび館』を拠点として、連携事業や意見交換、共同研究、フィールドワーク等を行っています。旧法務局土庄出張所であった施設を町が取得し、地方創生拠点整備交付金を活用して改修、平成30年3月から供用しています。
▲域学連携事業の様子
【土庄町域学連携交流施設『夢すび館』施設概要】
▲土庄町域学連携交流施設『夢すび館』外観
▲交流拠点施設1階図面
▲交流拠点施設2階図面
◆構造:鉄筋コンクリート造2階建て
◆各階内容:
1階:玄関ホール、男性浴室、女性浴室、女性洗濯室、リネン室
2階:ミーティングスペース、宿泊室、男女WC、男性洗濯コーナー、飲食スペース、教官室
◆宿泊室内容:2室あり。男女別でも利用可能で、各部屋16名宿泊可能(2段ベッド×8)
◆施設内には、プロジェクター、スクリーン、寝具、各家電製品、調理器具等を設置
◆施設使用料:1日1、000円/人
この施設を使用できる団体は、
(1)地域との連携交流による地域活性化を図る大学の授業クラス等、もしくは、(2)町と包括連携協定を締結する大学の公認団体のみとなっており、令和4年度は、包括連携大学の4校をはじめ、神戸学院大学・東京農業大学・筑波大学・神奈川大学・龍谷大学などの各ゼミや団体が夢すび館を拠点として活動を行っています。
事業当初は、大学と行政主導で進めていましたが、数年前からトティエと事業連携に取り組み、また、令和4年の1月には、この域学連携事業促進をミッションとした地域おこし協力隊員を新たに採用することで、地域の受け皿体制の基盤強化を図り、事業を創生期から発展期への転換を図っています。今後は、大学と町内7地区をそれぞれマッチングすることで、地元住民や地元企業との接点強化や継続性を持たせた活動につなげ、地域課題解決や町の重点方針の深化・発展に広がるよう取り組んでいきたいと思っています。
▲域学連携事業-フィールドワークの様子-
▲土庄町で見られる絶景(豊島唐櫃の棚田、夕日でのSUP)
人口減少が及ぼす地域社会・地域経済の衰退が懸念される中、土庄町の重要課題の1つとして、地域社会・地域経済を支える人材の育成と確保が挙げられます。国内外の一人でも多くの人々に土庄町の魅力を知っていただき、観光・移住・定住の促進や関係人口・交流人口の創出を図り、土庄町や小豆島にしかない良さをコツコツとつくりあげていく。それにより、さらに新たな好循環と広がりが生まれ、地域社会や地域経済の維持・向上につながり、持続的な地域づくりからまちづくりへと発展していく。そんな循環を地域住民の方々と共に創っていきたいと思っています。
香川県土庄町長 岡野 能之